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第一章 港町の設計士

持つべきは友

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「――シモン、いるか?」

 鍛冶屋の暖簾のれんの前でシュウゴが呼びかけると、奥からシモンが出てきた。

「やあ、シュウゴ。とりあえず中へ入りなよ。魔装と武器の整備は終わってるからさ」

 シュウゴが中へ入ると、綺麗に磨かれた隼とグレートバスターが床のシート上に並べて置いてあった。シュウゴは礼を言うと、バーニアを一つずつ装着していく。
 シモンは椅子に座って楽しそうに魔装の装着を眺める。

「装備を受け取りに来たということは、次のクエストが決まったんだろ? なにを狩りに行くんだ?」

 シュウゴは装備を整えると、シモンへ事情を話した。
 バラムの推薦でハンタークラスが上がったこと、新しいフィールドへ行けるようになったこと、明けない砂漠の情報が欲しいことなど。

「――そりゃまた出世したなぁ。将来が楽しみだ。で、明けない砂漠に行ってみたいと?」

「そう。ただ、そもそもクエストがないから受けられないけどね」

「なるほどねぇ……よし、君はうちの大事な取引先だ。ここは僕がひと肌脱いであげるよ」

 シモンが「任せろ」と言わんばかりに胸を張って言い放ち、外に人通りがないか確かめた。シュウゴはその方法が思い浮かばず首を傾げる。

「なにか良い手があるのか?」

「そうとも。明けない砂漠でこなして欲しい依頼がないんだろ? なら依頼すればいい、この僕がね」

「なるほど、そういうことか……でも、そんな手間をかけて迷惑じゃないか?」

「どうってことないさ。そうだな……砂漠の調査ということで、アリジゴクの素材を持ち帰ってほしい。触覚でも外殻でもなんでも構わない」

「分かった」

「それじゃあ、午後には依頼書をまとめて紹介所へ提出してくるよ。明日には紹介所で正式なクエストとして取り扱われるから、横取りされないように注意するんだぞ? あと、こういうやり方はバラム会長に禁止されてるから、くれぐれも僕との繋がりがバレないようにな?」

「もちろんだ。本当に助かるよ」

「いいっていいって。面白い土産話を期待してるよ」

 軽快に笑うシモンに見送られ、シュウゴは鍛冶屋を後にする。

 翌日の午後、首尾よくシモンのクエストを紹介所で受けたシュウゴは、紹介所のすぐ右にある『第二教会』を訪れた。
 ここはカムラの第三勢力である『教団』の管理する施設だ。
 小さな三角屋根の建物で内部の作りはよくある教会と変わらず、教壇の前に会集席が四列並んでいる。
 そしてそのさらに右奥、石造りの細長い台があり、その上に青く輝く石があった。
 それこそが転石であり、神官たちがその管理を行っている。

 シュウゴは腰の後ろに回したアイテムポーチを漁り、アイテムの過不足を確認する。ポーション、エーテル、フラッシュボム、素材収納袋。各々の数は申し分ない。

「――受注書をお見せ下さい」

 シュウゴは、転石の横に立っていた白装束の神官にクエスト受注書を見せる。
 神官がサッと内容に目を通し頷くと、シュウゴは現金を渡した。
 それを受け取った神官は代わりに『魔方位石』を渡す。
 転石の方向に反応して光る魔石だ。

 教団はカムラの畑や孤児院の運営、海水の浄化などをしている組織であり、このように収益を得ている。最も貧困している組織と言っても過言ではなく、シュウゴも異世界に来た当初は孤児院で世話になったので頭が上がらない。

「では、準備はよろしいですね?」

「はい」

 シュウゴが頷くと、その周囲を青い光が包んでいく。やがて視界いっぱいに光が広がったかと思うと、転移が完了していた。
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