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第六章 竜種絶滅秘話

真の姿

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 数えきれないほどの人の手が、凄まじい勢いでシュウゴたちへ迫る。
 シュウゴは思わず後ずさり、メイは屈みこんで頭を抱え、デュラは懸命にも主を守ろうとシュウゴの前に出る。
 だが、とうてい受け切れる数ではない。
 得体の知れないものに飲み込まれる。それをシュウゴが覚悟した、次の瞬間――

 ――ズバァァァッ! ズザザザザザァァァァァンッ!

 雨も降っていないのに突如雷鳴が鳴り響き、シュウゴの周囲に連続で白銀のいかずちが落ちた。
 あまりの眩しさに腕で目を覆っていたシュウゴは、雷鳴が止んでから腕をどけ目を開ける。

「っ!」

 目の前の光景に瞠目した。
 敵の腕が全てちぎれ、宙を舞っていたのだ。
 それらは、まるで霧のようにうっすらと消え失せていく。

「たす、かった?」

 メイが信じられないというように呆然と呟く。
 シュウゴも唖然としながらも、目の前の地面一帯が真っ黒に焦げているのを見て悟った。
 雷は、シュウゴたちに襲い掛かった手を焼き払ってくれたのだと。

 そしてその雷を放った者――いつの間にか現れていた圧倒的な存在感。その気配に目を向ける。
 岩盤の上にある突き出た崖、その上に四足で立ちシュウゴたちを見下ろしていたのは、麒麟だった。
 だが、以前とは雰囲気がまるで違う。
 角は蒼白に輝き纏っている雷も穢れなき純白。
 以前の荒々しさはなく、威風堂々と佇む様は神々しかった。

(これが、天雷の霊獣『麒麟』……)

 シュウゴはその真の姿に瞠目する。感動すら覚えた。
 だが、異形の者は相変わらずのマイペースで、麒麟に攻撃されたことなどお構いなしに第二波を放ってくる。
 再び雷鳴が響いたかと思うと、一瞬の後に麒麟がシュウゴたちの前に現れていた。
 デュラは麒麟の邪魔にならないよう、後ろへ下がりシュウゴの横につく。
 敵の周囲で空間が裂け、無数の青白い手がシュウゴへと勢いよく伸びてくるが、その手前に立ち塞がる麒麟の目前で全て弾かれた。
 まるで磁気のフィールドを張っているかのように、敵の手を寄せ付けずバチバチと弾く。
 らちが開かず、敵が一旦手を引っ込めると、麒麟はその角に稲妻を充填し前足を高く振り上げた。

「ヒヒィィィィィンッ!」

 そして気高くいななくと、お返しとばかりに白銀の雷球を放った。
 それはうねる雷の軌跡を描き、まっすぐに敵へ迫る。
 だが敵は、またも空間が歪んだようないびつな障壁を前方へ展開する。
 稲妻の斬撃やトライデントアイのレーザーを防いだものだ。
 シュウゴはこれも防ぎ切られると思った。

「――っ!?」

 しかしそれは違った。
 障壁の直前で突然雷球が直角に曲がり、上へと直進したのだ。
 そしてある程度上がると、光が弾け小さな雷の雨となって敵の頭上から降り注ぐ。
 突然の上空からの奇襲に、前しか守っていなかった敵は防ぎきれない。

「――す、凄い……」

 メイがしゃがんだままの状態でポカンと口を開いていた。
 雷が直撃し、ついに敵は膝をつくように上体を倒した。
 ローブがところどころ燃えている。

「………………………………」

 しばらく微動だにせず、シュウゴを見つめていた敵だったが、麒麟が再び角に雷を溜め始めるとゆっくり背後へ向き直り、歩き去っていった。

「……助かった、のか?」

 急に緊張が溶け、シュウゴが間の抜けた声で呟く。
 唖然とするシュウゴたちの目の前で再び雷光が走り、麒麟が崖の上に戻っていた。
 シュウゴはハッとして麒麟の姿を追いかける。
 色々と聞きたいことがある。
 たとえ言葉は発せなくてもなんらかの手がかりは得られるはずだ。

「ま、待って!」

 慌てて叫ぶが、麒麟はお辞儀するように律儀に頭を下げ、すぐに眩い雷光を放って消え去った。

「私たちを助けるために来てくれたんでしょうか?」

 メイが立ち上がりシュウゴの横にピッタリつく。
 シュウゴは首を振りながら言った。

「それは分からない」

 シュウゴたちが以前、彼を呪いから開放したから助けてくれたのか、それともあの異形の化け物と敵対していたから助けたのか。
 それは定かではないが、シュウゴはなんだか清々しい気分になっていた。

(礼ぐらい、言わせてくれよ)
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