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第六章 竜種絶滅秘話

追跡者

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 シュウゴたちが山道を降りると、広場のような円形の岩地で戦いが始まっていた。

「またあいつか……」

 アークグリプスが対峙していたのは、呪われた渓谷で襲ってきた異形の者だった。
 相変わらず漆黒のローブで全身を覆い隠し、足を引きずるようにのっそりと歩いている。
 ハナが対峙するのは初めてだ。

「知ってるの?」

「ああ。呪われた渓谷で一度襲い掛かって来た。おそらく、凶霧を発生させている存在と関係がある」

 敵の視線の先は山道。いや、シュウゴか。アークグリプスの攻撃にさらされようとも、シュウゴへ向かってひたすら歩き続ける。

「――クヲォォォォォッ!」

 アークグリプスが剣の羽根や風の円盤を次々放つ。
 しかし異形の者は空間に歪みを発生させ無効化。
 アークグリプスは驚いたように目を見張るが、前足の爪に圧縮された風を纏い突貫する。
 敵の頭上から振り下ろそうとするが、周囲の空間が裂け、内側から先が槍のように尖った鋼鉄の触手が次々飛び出した。
 アークグリプスは攻撃を中断し、自分へ襲い掛かる触手を爪で払い、避けながら敵の後方へと飛翔。
 攻撃を終えた触手たちは異形の者の周囲に引っ込み、ゆらゆらと次元の狭間から先端を覗かせながら待機する。
 ここまでアークグリプスと激闘を繰り広げていた敵は、一度もシュウゴから視線を逸らさなかった。

「……まさか、俺を追って来たのか?」

 シュウゴは戦慄する。

「でも、なんで?」

 ハナが困惑して問うが、シュウゴには答えられない。
 だがなんとなく、敵の狙いがシュウゴであることは渓谷のときから感じていた。
 恐怖のあまりそう思いたくなかっただけだ。
 敵は背後のアークグリプスなど目もくれず、のっそりと山道に立っているシュウゴへ近づいて来る。
 だがそれを許すアークグリプスではない。

「グヲォォォォォッ!」

 彼は異形の者の頭上で滞空すると、強く羽ばたき荒々しい竜巻を呼び起こす。
 シュウゴとの一騎打ちで最後に作り出した竜巻のドームだ。
 樹木や鉱石などを巻き上げながら、暴風は二体を包み覆う。瞬く間に竜巻のドームが完成した。あれの中では異形の者でも防ぎきれまい。
 だが次の瞬間――

「――グワァァァァァン」

 アークグリプスの叫び声が響いた後、竜巻のドームの外に空間の亀裂が生じた。

「っ!?」

 そして亀裂の隙間から大きな青白い手が二つ出てきたかと思えば、空間を強引にこじ開ける。
 中から異形の者が這い出してきた。

「……嘘、だろ?」

 シュウゴの背筋が凍る。ハナも恐怖に顔を歪め、後ずさっている。
 一体どんな手品なのか、敵は異次元を移動して竜巻の中から脱出したのだ。
 ローブがボロボロになっていることが、先ほどまで竜巻の中にいたなによりの証拠。
 そして激しく回転していた竜巻は方向性を失い、徐々に発散していく。
 視界が晴れ、中の様子が見えたとき、アークグリプスが血まみれになって真っ逆さまに落下していた。

「一体なんなのあれは……」

「くそっ!」

 シュウゴの足がすくむ。あんな能力聞いたこともない。
 今までに出会った魔物たちとは明らかに一線を画していた。

「…………」

 敵は突然、攻撃を受けてもいないのにのけぞった。今の力の反動のようだ。
 その場で立ちくらみを覚えたようにフラフラとぐらつくと、再びシュウゴへ顔を向け歩き出した。

「とにかくできることをやるしかない」

 シュウゴはブリッツバスターとショックオブチャージャーに稲妻を充填し始めた。
 ハナも般若面を顔に下ろし、背のアギトに稲妻を送る。
 そのとき、新たな乱入者が現れた。

「――グリプス~?」

 シュウゴたちの背後で気だるげな声を上げたのは、ニアだった。
 シュウゴの背筋に悪寒が走る。嫌な予感がしていた。

「っ! ニア、来ちゃダメだ!」

 シュウゴが必死に叫ぶがニアは言うことを聞かず、アークグリプスの元へ行こうと駆け出した。

「ニアちゃん、危ない!」

 ハナも叫ぶ。
 ニアは敵の横を大きく迂回しようとしているが、それでも極めて危険だ。
 思いのほか竜人の脚力は強く、想像を超えるスピードでシュウゴたちの側面を通り過ぎて行った。
 近かったシュウゴが止めるために走り出そうとするが、最悪のタイミングで敵が無数の触手を放つ。
 それらはシュウゴとハナ、そしてニアにそれぞれ狙いを付けて襲い掛かった。

「え?」

 自分に攻撃が迫っていることに気付いたニアは立ち止まる。

「ニアぁぁぁっ!」

 シュウゴはバーニアを噴射し、全速力でニアに追いつく。
 オールレンジファングを放ち間一髪のところでニアの腕を掴むと、自分の元へ抱き寄せ一回転し触手からかばう。

 ――ザクっ!

「シュウゴくんっ!」

「ぐっ!」

 先行していた複数の触手がシュウゴの背をかすめた。
 シュウゴは怯まずバーニアを対地噴射し、飛び上がる。
 直後、シュウゴたちの元いた場所に無数の触手が殺到する。

「ニア、大丈夫か?」

 ぎゅっと目を瞑っていたニアは、シュウゴの腕の中でゆっくり目を開けた。
 揺れる瞳でシュウゴを見上げる。

「柊~くん? どうして?」

 そしてニアはすぐに気が付いた。シュウゴの口の端から血が垂れていることに。

「まさか、私をかばって……ごめん、なさぃ……」

 ニアは顔を歪ませ申し訳なさそうに目を伏せる。
 これでは可愛らしい顔が台無しだ。
 シュウゴは極力痛みを顔に出さないよう、微笑んだ。

「いいんだよ。君が傷つかなかったんだ。大したことじゃない」

「っ!」

 ニアはなにも言わず目を見開いた。
 その目の端からは一滴ひとしずくの涙がこぼれる。
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