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第七章 カムラ急襲

ひらめき

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「――どうされたんですか? お兄様」

 突然声を掛けられ、シュウゴはビクッと肩を震わせる。深く考え込むあまり、人の気配にも気付かなかった。シュウゴが顔を上げると、目の前にいたのは心配そうに表情を曇らせているメイだった。普段着である紺のお嬢様衣装を着こみ、真っ暗な夜の広場でランタンを持って佇む様は、儚げで神秘的だ。

「メイ? なにかあったの?」

 シュウゴは落ち着いて問いかけた。
 深夜の広場には蛍光灯のようなものはなく、深夜営業をしている酒場もないため真っ暗だ。シュウゴはランタンをベンチに置いており、遠くからでも目立つ。
 なにかあったのかとシュウゴは心配したが、メイは柔らかく微笑みゆっくり首を振った。

「いいえ。ふと目覚めたら、お兄様がいらっしゃらなかったので心配になって。お兄様こそ、なにか悩み事があるのですか?」

 メイはそう言ってシュウゴの隣に座ると、彼の手元の鉱石を覗き込んだ。
 シュウゴも視線を手元へ戻し、悩みについて語り出す。

「そうだな。この二つの鉱石が特別な性質を持ってるから、なにかの役に立つと思うんだけど、それが全然思いつかなくて」

「なるほど、それは難儀しますね。でも、さすがはお兄様です。そうやって次から次へと新しいものを生み出していけるからこそ、今のカムラがあるんでしょうね」

 メイは「ふふふ」と楽しそうに微笑んだ。

「どうしたんだよ急に。なんだか照れくさいじゃないか」

 シュウゴは頬を緩ませ照れくさそうに後頭部を掻く。
 メイはシュウゴを真横から見つめハッキリと言った。

「私にはお兄様のように素敵なアイデアを出すことはできませんが、お兄様の能力を信じています。だって、私が今ここにいるのは、お兄様が色々なモノを設計されて、それに助けられてきたからなんですよ?」

「そう、なのかな……」

「はいっ!」

 メイは満面の笑みで頷く。
 シュウゴは、先ほどまでの強迫観念にも似た苦悩が和らぎ、自然とリラックスできた。

「私に手伝えることがあれば、なんでも言ってくださいね」

 メイが期待満ちた瞳でシュウゴを見上げる。シュウゴの役に立ちたいという純粋な思いが伝わって来て、シュウゴもなんだか背中がむず痒い。

「そうだなぁ~。メイはこの鉱石の性質についてどう思う?」

 シュウゴはそう言ってメイの目の前までエレキライト鉱石とジュール鉱石を持ち上げる。

「う~ん、そうですねぇ……雷に反応するというのは面白い性質だと思いますけど、魔法を使えない私からすると、宝の持ち腐れになってしまいます。せめて、火のように魔法以外でも雷を発生させられればいいんですけど……」

 メイは申し訳なさそうな表情になった。しかし、シュウゴにとっては大きな収穫だ。もし魔法以外に雷……電気が扱えるのであれば、可能性は広がる。

「発電装置ってことかぁ……」

「はつでん? それは一体なんですか?」

「電気を発生させる機械だよ。それがあれば、魔法がなくても電気を作れるんだけど」

 しかし発電といえば、水力、火力、風力など発電方法は豊富なものの、様々な準備が必要になる。磁石やコイル、導電線、他にもエネルギーを変換するための機械類など様々。とてもではないが、この時代に作れるものではない。

「無理かぁ」

 シュウゴが腕を組み残念そうに唸っていると、メイが呟いた。

「溜めるだけなら出来るんですけどねぇ」

 蓄電石のことを言っているのだろう。シュウゴの目が見開く。
 彼の脳裏に、ある図面がひらめいたのだ。

「っ!! それだっ!!」

 興奮したようにそう叫び、シュウゴが突然立ち上がる。

「きゃっ!」

 メイはびっくりしてベンチに着こうとした手が逸れ、横へ倒れそうになる。
 シュウゴは手に持っていた鉱石を地面へ落とすと、倒れゆくメイの腕を反射的に掴み、胸元へ抱き寄せた。

「おっ、お兄たまっ!?」

 あまりに急の出来事でメイは目をグルグルと回し、思いっきり噛んだ。元々雪のように白い顔が一気に赤くなる。
 しかしシュウゴの意識は転がった鉱石へ向けられていた。

「そうだ、発電機の代わりになるものがあるじゃないか……メイ、ありがとう! おかげで面白いものが出来そうだよ」

 シュウゴは鼻息荒く腕の中のメイに言うと、メイをベンチに座らせ落とした鉱石を拾い、家へ向かって速足はやあしで歩き出した。
 キョトンとしていたメイはようやく落ち着きを取り戻すと、遠ざかるシュウゴの背へ叫ぶ。

「んもうっ! お兄様ったらっ!」

 しかし、もうシュウゴの耳には入らない。
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