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第十一章 光を取り戻すために

深淵の滝

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 メイは魂に干渉する力でキュベレェと連絡を取り合っていた。だから彼女がいなくても、シュウゴたちだけで深淵の滝へ辿りつくことができた。
 雑木林を抜け目に飛び込んできた光景に、シュウゴは思わず目を見張り感嘆の声を漏らす。
 
「これが深淵の滝……」

 壮観だった。
 丘の上から紫色の流水が勢いよく流れ落ち、巨大な滝つぼで盛大な水しぶきを上げている。今まで木々の密集した道を通って来たためか、まるで大海原を見ているかのような壮大さだ。滝つぼは意外にも、半透明の紫色で澄んでいる。
 そしてその中から伸びている多数の龍の首。
 ザーザーとうるさいはずの滝の音は、ヒュドラの雄叫びにかき消される。
 戦闘は既に始まっていた。
  
「手はず通りに行こう!」
 
 シュウゴはエーテルを飲み魔力を回復すると、メイからトライデントアイを預かり飛び上がった。
 デュラは円周上に駆け左側から回り込む。メイは再び林の中へ身を潜ませ不死王の力を開放。
 シュウゴは手前でニアを狙っていたヒュドラへ近づくと、急上昇しその頭へ大剣を振り下ろす。

「はぁっ!」

 肉を裂き赤紫の血が勢いよく飛ぶが、ヒュドラは苦しそうにもがくだけで致命傷にはなっていない。他にもある額の裂傷を見るに、ニアの爪でもコアには届かないらしい。
 シュウゴは一旦下がり距離をとる。その横にニアが並んだ。

「柊くんありがと~」

「……やっぱりそう簡単にコアには届かないか」

「うん~残念だけど……」

「仕方ない、作戦通りこれを使ってくれ」

 シュウゴはトライデントアイをニアへ渡す。
 ヒュドラの九つの頭を同時に潰すには、シュウゴのブリッツバスター、デュラのバーニングシューター、ニアのトライデントアイ、残り六つをキュベレェの光の矢で破壊しなければならない。当初はニアの爪も数に入れていたが、無理そうなので仕方ない。デュラのバーニングシューターが効いただけましだ。ブリッツバスターも高熱量の帯電が必要だが。
 気付くと目の前にヒュドラの頭が迫っていた。牙を光らせ噛みつこうとしている。

「くっ!」

 二人は左右に分かれて回避。シュウゴは周囲を見回して敵の密集していない場所へ移動すると、態勢を立て直しブリッツバスターへ帯電を始めた。
 見たところ、今この滝の前にいるのは六体。滝から首の伸びた一体は、未だ雑木林へ伸びており先ほど倒した頭だろう。残り二体は首すら見当たらないところを見るに、まだ滝つぼの底か。
 危険だが、九体すべてそろうまでなんとか戦い抜かなければならない。
 シュウゴは帯電とバーニアの魔力消費に慎重になりながら、ヒュドラたちへ挑んだ。

「――はっ!」
 
 ヒュドラの突進やブレスを避け続け、刀身への帯電が十分にたまってきた頃、シュウゴはキュベレェを囲んでいた三体のヒュドラのうちの一体へ急接近し、電撃の斬撃を至近距離で放つ。

 ――ズバァァァンッ!

 放たれた圧倒的な熱量でヒュドラの額を焼き尽くしコアの破壊まで成功した。

「っ! 助かりました!」 

「キュベレェはできるだけ力を温存しておいてくれ。ニア、デュラ、とにかく倒すんだ! 再生が間に合わないほど数を減らせば、きっと残りのやつらも出てくる!」

 ニアとデュラは頷き、逃げ回る戦いから攻勢に転じた。

「こちらはご心配なく!」

 キュベレェも強く頷くと黄金の弓を引く。その矢の威力はヒュドラの額を貫くのに十分。
 問題は九体がそろったとき。彼女には六体同時に貫くという無理を強いるため、極力加護の力を温存しなければならない。
 ニアは宙を自在に飛び回り、トライデントアイをヒュドラへ放っては離脱するヒット&アウェイを繰り返す。デュラも地上を駆け、ときにはヒュドラの頭に跳び乗ってランスを突き立てる。
 形勢はなんとか互角になるよう保っていた。

 やがて滝の底から新たに二体が現れ、そして――
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