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第十三章 真実を知る者

ぬくもり

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 その夜、シュウゴはたぎる熱をペンに載せ、アイデアの浮かぶままに設計図を描き続けた。
 もちろん、一回で完璧なものを仕上げられるわけではなく、実用性とコスト面を常に意識し、厳しそうなものはすぐに紙をくしゃくしゃにして捨てる。
 目を血走らせ、鬼気迫るその姿は、締め切り間近の漫画家のようでもあった。

「……お兄様?」

 そのとき、寝ていたはずのメイの声が聞こえた。
 シュウゴはハッとしてペンを置いた。

「柊く~ん、なにやってるの~?」

 ニアの眠たそうな声も聞こえる。
 後ろを振り抜くと、メイとニアが起き上がり、テーブルの上の設計図を覗き込んできた。
 ようやく冷静になったシュウゴは、申し訳なさそうに眉尻を下げる。

「ご、ごめん。起こしてしまったね」

「それは別にいいんです。それよりも、こんな遅くまでどうされたんですか? もしかしてお急ぎなのですか? 私にお手伝いできることは?」

「いや、急ぎは急ぎだけど、手伝ってもらうほどのことじゃないんだ」

 そう言ってシュウゴは無理やり頬を吊り上げる。
 メイは表情を曇らせてシュウゴの目を見るが、「分かりました」と釈然としない様子で頷く。
 ニアはじっと設計図を凝視していた。
 そこに描かれていたのは、ハイパーレーザーカノンだ。ケーブルに繋がれた台座に太めの銃が乗り、銃口はオリハルコン製のレールを縦にして大きな筒状の砲弾が挟まっている。数多のケーブルが繋がっているのは、蓄電石で作られた大容量のバッテリー。
 まさしく、大型のレールガンだ。
 ニアはその正体にピンと来ていないようで首を傾げている。

「お船に乗せる大砲~?」

「いや、船じゃないんだ。町の高台に設置してダンタリオンを攻撃するんだよ」

「え!? そんなことができるんですか!?」 

「凄いねぇ~」

 メイとニアが驚きに声のトーンを上げる。
 
「まぁそうは言っても、奴がもう少し近づかないと届かないんだけどね。それにまだ構想もまとまってないし……」 

「それでも凄いです! 書いてあることは難しくて私にはよく分かりませんが、お兄様ならきっと完成させてカムラを救えるはずです」

 メイは感激に潤んだ目で設計図を今一度見る。
 彼女の寄せる信頼がなんだかむず痒い。
 気恥ずかしくなったシュウゴは、黙って設計図を見ているニアに声をかける。

「どうだいニア? カッコいいかい?」

「う~ん? 分かんな~い」

 シュウゴは「あら?」とずっこけそうになる。描いた外形図は渾身の出来だったのに、少しショックだ。
 メイへ目を向けるも、首を傾げられる。

「そ、そっか……」

「も、申し訳ありません」

 肩を落とすシュウゴだが、メイに謝られさらに悲しくなった。
 だがいつの間にかデュラも横から覗き込んでおり、シュウゴは一縷の望みに賭けてデュラへ目を向ける。
 
「――っ! デュラ、お前……」

 彼はシュウゴの視線に気づくと、勢いよく右の親指を立てた。
 途端にシュウゴの表情が輝く。
 すると、メイが顔をほころばせながら補足した。
 
「デュラさんは、『最高にイカしてる』と言ってますよ」

「おぉ……このデザインの良さが分かるんだね」

 シュウゴが感激して声を震わせると、デュラはガシャンガシャンと勢いよく首を縦に振った。
 無骨な新兵器のデザインというのは、いつの時代、どんな世界にあっても男のロマンであることに変わりない。
 しかし、そんなシュウゴの感動に水を差すようにメイが言った。

「でもお兄様、無理はいけません。顔の色も優れませんし、今日はもう休まれてはどうでしょう?」

「え? う、うぅ~ん……」

 シュウゴは迷いを見せる。
 メイの言うことはもっともで、すっかり熱も冷めてしまったため、一旦ここで止めておくべきか迷った。
 すると――

「――えいっ!」

「お、おわっ!?」

「ニアちゃん!?」

 ニアが突然シュウゴに抱きつき、そのまま後ろへ引っ張って布団の上へ倒れ込んだ。
 シュウゴは突然の襲撃と、ニアの柔らかい体と、女の子特有の良い匂いによってパニック状態に陥る。

「ほらっ、メイも一緒に~」

「え?」

「柊くんを休ませるの~」

「わっ、分かりました! お、お兄様、失礼します」

 そう言ってメイは顔を赤くし、控えめにぴとっとシュウゴの左側に抱きつく。
 シュウゴは仰向けに倒れた状態で左右を美少女にホールドされていた。
 デュラは置いてけぼりになって、あわわと戸惑っている。

「わ、分かったよ! 今日は休む。だから離れてくれ!」

「ダメ~」

「た、たまには一緒に寝ても……い、いいですよね?」

 ニアはむふふと楽しそうに笑みを浮かべてシュウゴの腕を抱きしめ、メイはぼそぼそと言いながら控えめに身を寄せる。
 ニアの柔らかく温かい感触と、メイのアンデット特有のひんやりとした感覚が心地よく、シュウゴは次第に眠気に侵食され、いつの間にか眠ってしまっていた。
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