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第十四章 カムラを守る命たち
招集
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グレンは領主の館の一階に待機させていた部下に状況を説明すると、すぐに討伐隊員を集めるよう走らせた。
彼もどうしたものかと頭を悩ませながら駐屯所へ向かう。
しかし明確な案が出ないまま駐屯所の入口まで辿りついた。
若手から老兵まで、多くの騎士たちが駆け足で駐屯所へ入っていく。
グレンも神妙な表情で入ろうとすると、一人の騎士が駆け寄って来た。
「大隊長!」
彼の後ろにいた女性を見てグレンは固まる。
それは妻のミリアだった。
「ミリア、なぜここに……」
グレンは唖然と呟くと、騎士を下がらせてミリアと向き合った。
彼女はセミロングの茶髪に色白の肌で、柔和そうな穏やかな眼差しを携えている。上質な白のブラウスにベージュのロングスカーで、育ちの良さそうな雰囲気を醸し出している。
ミリアはグレンの強張った表情を見てなにかを察し、表情を曇らせた。
「お仕事中にごめんなさい。買い物に出てみたら、討伐隊の方々が慌てて走っていくのを見て、気になってしまって……」
女性の勘の鋭さに、グレンは瞠目した。
そしてミリアの不安そうな表情を見て、胸が締め付けられるようだった。
こういうとき、病弱な妻の側にいてやりたいというのがグレンの本心だ。
だが自分の責務を考え、無理やり笑顔を貼りつける。
「……大丈夫だ。すぐに帰ってくる」
「え? あなたも戦いに出るの?」
言葉に詰まる。
仕事を終わらせて家に帰るという意味で言ったことだが、彼女は戦場からカムラに帰るという意味だと解釈したようだ。
違うと言いたいところだが、嘘のつけない性格のグレンは必死に言葉を探した。
「ああ……でも大丈夫。危険になったらすぐに戻るように言われてるから」
「そうですか……もちろんあなたことを信頼しているわ。でも、もしものことがあったら……」
ミリアはそう言って不安げに瞳を揺らし、お腹をゆっくり撫でる。
実はミリアは、最近妊娠したばかりだった。
「もしものこと、か。それはこのカムラが滅亡の危機に立たされるようなことだな。そんなことにならないよう、俺はカムラのために……お前と子供の未来のために戦ってくるよ。だから、お前もお腹の子を大事に守ってくれ」
「はいっ。お気をつけて、あなた」
まっすぐに返事をしたミリアに見送られ、グレンは駐屯所へ入って行った。
グレンが二階に上がると、大勢の隊員が整列していた。
静寂と緊張感が伝わる中、彼らの正面の台の上に立つ。
「皆、よく集まってくれた。既に聞いているとは思うが、汚染された都市にいたはずのダンタリオンがカムラ近傍の廃墟と化した村に現れた」
その途端、隊員たちがどよめく。実際は半信半疑だったのだろう。
ある者は顔面蒼白にしてカタカタと震えだし、またある者は無表情で虚ろな目を下へ向ける。
「都市にはもういないことを確認したため、移動してきたものと考えられる。目的は不明。そこでダンタリオンの目的や特性を調査すべく、臨時に調査部隊を編制する」
それを告げられたとき、隊員たちは目を見開き、まるで「嘘だろ?」とでも言いたげな顔をグレンへ向ける。
過去にダンタリオンの脅威を目の当たりにした者もいるため無理はない。自分の目の前で仲間が気化した者もいるだろう。それを思うと、グレンも胸が痛む。
「言うまでもないが、非常に危険な戦いだ。命を落とすことだって十分にありえる。それでもカムラのために戦えるという者は、手を上げてくれ」
自分でも卑怯な言い方だと思った。討伐隊にいる時点でカムラのために戦っているのだ。そんなことはグレンとて百も承知。
しかし場は静まり返り、多くの隊員が目を反らしたり、俯いたりしていた。
キルゲルトは迷うように腕を組んで目線を落とし、アインは顔を恐怖に歪めて俯いている。
だがクロロだけは顔を上げ、まっすぐにグレンを見ていた。
彼が手を上げようとした、そのとき――
彼もどうしたものかと頭を悩ませながら駐屯所へ向かう。
しかし明確な案が出ないまま駐屯所の入口まで辿りついた。
若手から老兵まで、多くの騎士たちが駆け足で駐屯所へ入っていく。
グレンも神妙な表情で入ろうとすると、一人の騎士が駆け寄って来た。
「大隊長!」
彼の後ろにいた女性を見てグレンは固まる。
それは妻のミリアだった。
「ミリア、なぜここに……」
グレンは唖然と呟くと、騎士を下がらせてミリアと向き合った。
彼女はセミロングの茶髪に色白の肌で、柔和そうな穏やかな眼差しを携えている。上質な白のブラウスにベージュのロングスカーで、育ちの良さそうな雰囲気を醸し出している。
ミリアはグレンの強張った表情を見てなにかを察し、表情を曇らせた。
「お仕事中にごめんなさい。買い物に出てみたら、討伐隊の方々が慌てて走っていくのを見て、気になってしまって……」
女性の勘の鋭さに、グレンは瞠目した。
そしてミリアの不安そうな表情を見て、胸が締め付けられるようだった。
こういうとき、病弱な妻の側にいてやりたいというのがグレンの本心だ。
だが自分の責務を考え、無理やり笑顔を貼りつける。
「……大丈夫だ。すぐに帰ってくる」
「え? あなたも戦いに出るの?」
言葉に詰まる。
仕事を終わらせて家に帰るという意味で言ったことだが、彼女は戦場からカムラに帰るという意味だと解釈したようだ。
違うと言いたいところだが、嘘のつけない性格のグレンは必死に言葉を探した。
「ああ……でも大丈夫。危険になったらすぐに戻るように言われてるから」
「そうですか……もちろんあなたことを信頼しているわ。でも、もしものことがあったら……」
ミリアはそう言って不安げに瞳を揺らし、お腹をゆっくり撫でる。
実はミリアは、最近妊娠したばかりだった。
「もしものこと、か。それはこのカムラが滅亡の危機に立たされるようなことだな。そんなことにならないよう、俺はカムラのために……お前と子供の未来のために戦ってくるよ。だから、お前もお腹の子を大事に守ってくれ」
「はいっ。お気をつけて、あなた」
まっすぐに返事をしたミリアに見送られ、グレンは駐屯所へ入って行った。
グレンが二階に上がると、大勢の隊員が整列していた。
静寂と緊張感が伝わる中、彼らの正面の台の上に立つ。
「皆、よく集まってくれた。既に聞いているとは思うが、汚染された都市にいたはずのダンタリオンがカムラ近傍の廃墟と化した村に現れた」
その途端、隊員たちがどよめく。実際は半信半疑だったのだろう。
ある者は顔面蒼白にしてカタカタと震えだし、またある者は無表情で虚ろな目を下へ向ける。
「都市にはもういないことを確認したため、移動してきたものと考えられる。目的は不明。そこでダンタリオンの目的や特性を調査すべく、臨時に調査部隊を編制する」
それを告げられたとき、隊員たちは目を見開き、まるで「嘘だろ?」とでも言いたげな顔をグレンへ向ける。
過去にダンタリオンの脅威を目の当たりにした者もいるため無理はない。自分の目の前で仲間が気化した者もいるだろう。それを思うと、グレンも胸が痛む。
「言うまでもないが、非常に危険な戦いだ。命を落とすことだって十分にありえる。それでもカムラのために戦えるという者は、手を上げてくれ」
自分でも卑怯な言い方だと思った。討伐隊にいる時点でカムラのために戦っているのだ。そんなことはグレンとて百も承知。
しかし場は静まり返り、多くの隊員が目を反らしたり、俯いたりしていた。
キルゲルトは迷うように腕を組んで目線を落とし、アインは顔を恐怖に歪めて俯いている。
だがクロロだけは顔を上げ、まっすぐにグレンを見ていた。
彼が手を上げようとした、そのとき――
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