異世界投資家の逆襲 ~冤罪で国を追われた王子は、辺境の地で最強の投資家として成り上がる~

高美濃 四間

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第二章 ダークマターショック

イーリン

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「――あら? ノベルさん!」

 オンボロ屋敷を出ると、見眼麗しい美少女が屋敷へと歩いてきていた。
 まるで雪のような白い肌に薄い碧眼へきがんで、綺麗なプラチナブロンドの長髪は後ろへ流している。細身だが出るとこは出ており、包み込むような優しげな雰囲気を醸し出していた。
 着ているドレスのような服は、あまり質が良くなく薄い生地に見えるが、それでもしっかり手入れされ着こなしにも工夫が凝らされているようだ。
 所作も育ちの良さを感じさせるものだが、貴族の令嬢にしてはどこか質素。 
 『イーリン・スルーズ』
 ルインの娘だ。 

「久しぶりだね、イーリン」

「またお会いできて嬉しいですわ。ところで、そちらの方は?」

 花が咲くように可憐な笑みを浮かべたイーリンは、ノベルの後ろにいたアリサに目を向け首を傾げる。
 アリサは一歩前に出てノベルの横に並び、丁寧に頭を下げた。

「申し遅れました。私はノベル様の護衛を務めております、アリサと申します」

「私は、イーリン・スルーズと申しますわ。でもノベルさん、護衛とはどういうことですの?」

 イーリンはムッとしたように眉を寄せ、ジト目をノベルへ向ける。
 ノベルは良い言い訳が思いつかず、あたふたする。

「え、えっと……昔、僕に仕えていてくれたんだ。そ、それで偶然再会してね」

「本当ですのぉ?」

 イーリンはますます怪しいという風に、ノベルへずいっと身を寄せた。 
 ノベルの額に冷汗が浮かんでいく。
 そんな姿が面白かったのか、アリサは後ろでクスクスと笑う。

「まぁいいですわ。ノベルさん、我がスルーズ商会への資金援助、心より感謝いたします」

 イーリンは急に態度を変え、白のロングスカートの裾を持ち上げて優雅にお辞儀する。
 その様は、高貴な家柄の令嬢に相応しい。
 ノベルはなんとなく、かつてのエデン王城での日々を思い出し、言葉を詰まらせた。

「……ノベル様?」

 ノベルが一人感傷に浸ってしんみりしていると、ずっと黙っていることを不審に思ったのか、アリサが耳元で小さく声をかけてきた。
 イーリンも不思議そうに首を傾げている。

「どうされました?」

「あ、いやごめん」

 ノベルはコホンと咳払いして気を取り直すと、イーリンに対抗するかのように、大仰に告げた。

「僕は誇り高き王――投資家なんだ。僕が投資したからには、スルーズ商会を栄光に導いてみせるよ」

「まぁ……」

 ノベルの言葉に、イーリンは両手で口元を押さえた。なんだか感激している様子だ。
 後ろでアリサのため息が聞こえた。

(す、少し大げさだったかな)

 ノベルは自分で言って恥ずかしくなった。

「そ、そういうわけで! またね、イーリン!」

 ノベルは早口で別れを告げると、彼女の横を通り過ぎる。

「は、はい。また……」

 嬉しそうに微笑んで手を振るイーリンを背に、ノベルは足早に去るのだった。


 その後、ノベルは耳が真っ赤になっているのを自覚しつつ、アリサと共に宿へ向かってまっすぐ歩いていた。

「まったく、ノベル様ときたら……」

 横を見ると、アリサがジトーと半眼を向けていた。

「な、なんだよ?」

「いったいいつから、女たらしになったんですか?」

「な、なんのこと!?」

 アリサは、さっきからずっと不機嫌そうに頬を膨らませていた。
 どうやら、ノベルがイーリンへ言ったセリフがよほど気に入らないらしい。

「まさか、いつも城下町でこそこそしてたのはぁ」

 アリサの語気が段々と強くなってくる。
 謎の迫力が怖すぎて、ノベルはまともに目を見れない。

「い、いやっ! リュウエンさんに連れられて、ちょ~っと夜遊んだぐらいだよ」

 その瞬間、アリサの目がクワッと見開かれた、気がした。

「ノベル様ぁぁぁぁぁっ!」

「ひっ、ひぃぃぃ」

 アリサの不満が頂点に達し、ノベルは死に物狂いで逃げ出した。

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