異世界投資家の逆襲 ~冤罪で国を追われた王子は、辺境の地で最強の投資家として成り上がる~

高美濃 四間

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第三章 闇の一族

マルベスの手腕

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 国内調査の末、ノートスで最も勢いのある武器商会が特定できた。
 マルベス武装商会だ。
 武器の仕入れ先を国外に複数持ち、あらゆる装備品を取り扱っている。ノートス国内に出店している武具販売店は、ハンターや騎士たちにも人気だそうだ。

 会長であるマルベスは、かつてノートスでトップクラスハンターに輝いた後、開業しマルベス武装商会を結成した猛者。
 彼の持ち味である強引で豪快な商法は、破竹の勢いで規模を広げていったそうだ。
 貴族や政治家など、権力者をも恐れぬその大立ち回りは、誰も邪魔できなかったという。

 ノベルたちは、早速マルベス武装商会へ交渉におもむいた。
 屋敷内は、仄暗ほのぐらく武骨な装いで、壁には龍の絵や装飾用武具が飾られており、会員の座るテーブルの後ろには酒樽さかだるが置いてある。
 会員らしき筋骨隆々なオールバックの男や、眼帯をつけた厳つい男らはキセルのような細い棒を口にくわえて煙をふかし、まるでならず者集団のような印象を受けた。

「――スルーズ投資商会の会長ルインと申します。本日はマルベス商会長にご相談があって参りました」

 入ってすぐ、近寄って来た細身の男へルインが告げると、彼は丁寧に応対し二階へと案内した。
 一階の奥に武器庫があり、二階に執務室や応接室があるようだ。
 二階の執務室の前に辿り着くと、案内人がノックし、室内から「入れ」とドスの利いた力強い声が響いた。

「失礼致します」

 案内人に続き、ルインからぞろぞろと部屋に入ると、奥のソファに深々と座っている男がいた。
 その左横には険しい表情の大男が立っており、頭に生えている二本の角を見るに、鬼人のようだ。
 案内人の細身の男もその横に並ぶ。

「お初にお目にかかります。スルーズ投資商会の会長、ルイン・スルーズと申します。後ろの者たちはその関係者です」

 ルインが丁寧に自己紹介し頭を下げる。
 すると、ソファに座っていた男がふんぞり返った姿勢を変えもせず、ぞんざいな態度で声を発した。

「マルベスだ。にしても、投資商会だぁ? 俺に金でも貸してぇのかよ?」

 マルベスはバカにするように薄ら笑いを浮かべる。
 商会の長を相手にしているというのに、大した度胸だ。
 彼はファー付きの灰色のコートに、下は皮製で傷だらけの白いズボンを履いており、スマートな見た目をしているが、その内側に鍛え抜かれた筋肉が鳴りを潜めていることは、想像にかたくない。
 黒の短髪で、顔には大きな切り傷があり、ギザギザな歯を見せ豪快に頬をつり上げるさまは相当な迫力がある。
 なにより、頭に生えている角がその実力を保証していた。

「え、ええ。今回はマルベスさんにとっても、有益な話になると思います」

 ルインはそう言ってアルビスに目配せし、マルベスの目の前のテーブルに一枚の書簡を置かせる。
 契約書だ。
 マルベスはそれを見て眉をしかめた。

「あぁ?」

「我々スルーズ投資商会は、情報屋を営んでおりまして、近々戦争が起こるかもしれないという情報を掴みました。そこでどうでしょう? この情報をマルベスさんへ提供し、その武器調達に出資する代わりに、先行者利益の一部を配当として還元して頂くというのは」

「そういうことかい。事情は分かった。けどな、うちのオーナーになろうってのが気に入らねぇ」

 マルベスは不機嫌そうに眉を寄せ、テーブルを指で叩いた。
 予想していた反応だ。
 おそらく彼は、開業当時から潤沢な資金を持っていたことで、投資家や金庫番の金を借りずに商売をしてきた、言わばオーナー経営者だ。
 誰かの指図を受けずに経営してきた実績がある分、プライドの高さにも頷ける。
 それが実力も分からない相手に、主導権を握られるのが屈辱なのだろう。
 さらに、彼の横に控えていた細身の男が、目を細め口を挟んでくる。

「マルベス会長のおっしゃる通りです。情報屋なら情報屋らしく、それを売るのが筋でしょう? 我が商会を操ろうなどと、分不相応なことを考えてはいけない」

「黙れセージ。お前の発言なんて許しちゃいねぇ」

「……失礼しました」

「まぁ、俺のやり方に口を出すのを許しはしないが、その耳寄りな情報とやらをまずは話せ。内容次第では、妥協するかもしれねぇからな」

 ルインは眉を寄せ、すぐには答えない。
 平行線だ。
 こちらは相手が契約した後でないと情報を言えず、相手はこちらの情報の内容によって契約の有無を判断すると言う。
 この商談はどちらかが折れるまで終わらない。
 どちらかが一方的に損をする可能性があるのだ。

 ルインは額に冷汗を浮かべ険しい表情で思考を巡らせ、マルベスは涼しげな表情で笑みを浮かべている。
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