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第四章 大資本の激突
裏切り
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それから数日、ウィルムはギルドの秘密を暴くべく行動していた。
ウィルムがいくら多額の出資を受けたと言っても、敵は比べ物にならないほど強大だ。なんの成果も上げられず資金が底をつくなんてことにもなりかねない。
なんとかカエデの協力を得たいところだが、先日の件でシャームも目を光らせているだろう。
今は地道に調べるしかなかった。
「――いったいどこへ行っちまったんだろうなぁ」
鋳鉄炉の前の丸椅子に腰かけた鍛冶屋の親方が、眉尻を下げ寂しげに呟く。
比較的温厚なタイプの鬼人で、ウィルムを信頼し鉱石をよく買ってくれていた大男だ。
世間体もあってウィルムとの鉱石の取引はできないが、竜人失踪の調査には快く協力してくれた。
――ここで働いていた若い竜人族の男は、ある日突然来なくなっていた。
その理由は不明で、誰にもなにも伝えずに忽然と姿を消したらしい。それ以降の消息は分かっておらず、将来的には跡を継がせようとしていた親方もショックを受けていた。
失踪直前も普段と違うところはなく、元気に仕事していたという話を聞くに、突発的ななにかが起こったのだろう。
もしウィルムを襲撃した者たちの仕業だとするのなら、夜道を襲い強引に連れ去ったのかもしれない。
「――お忙しいところ、ありがとうございました」
ウィルムが丁寧に頭を下げると、親方はガハハハと気さくに笑った。
「いいってことよ! こっちこそ、急に取引をやめちまってすまなかったな」
「いえ、仕方のないことですから……」
「俺だって、あんちゃんのことは信じてるさ。ギルドの連中がうるさくて、表立った協力はできないが、こうやってこっそり手を貸すことぐらいはできる。またなにかあったら言ってくれよ」
親方の頼もしい言葉は、ウィルムにとってなによりの救いだった。
まだ自分のことを信じてくれる人がいる、そう思うだけで心が軽くなる。
ウィルムは目元が潤みそうになるのを必死に堪えながら、震える声で礼を言って足早に去るのだった。
それから、竜人失踪のあった関係者の家や店を何軒か回ったが、どこもギルドと繋がりそうな情報は得られなかった。
やはり皆、一人でいるところを襲われたようだ。
襲撃者の立場になって考えれば当然の方法だが、ウィルムの脳裏になにかがひっかかった。
(そういえば……僕はあのとき、一人じゃなかった……)
ウィルムが最初に襲われた、イノセントからの帰り道、彼は一人ではなかった。
ジャックを始めとしたアルビオン商会のハンターたちも数人いたのだ。
護衛のハンターたちがモンスターと戦っている隙に、ウィルムを捕まえようとしたのかもしれないが、その後もハンターたちに姿を見せているのは不可解だ。
ますますウィルムを混乱させ、挫けそうになる。
しかしそのとき、脳裏に一つの可能性が浮上した。
「………………まさかっ!?」
ウィルムは勢いよく顔を上げ、アルビオン商会へ急ぐ。
考えたくはないことだが、ジャックが襲撃者の仲間だという可能性は十分あり得るのだ。
そう考えると、先日の採取クエスト出発前に彼から向けられた敵意溢れる視線の意味も、なんとなく分かる。
脳内が急速に回転する中、考えがまとまる前にアルビオン商会の館に辿り着いた。
赤い屋根が目立つ、ダークブラウンで塗装されたレンガ造りの建物は、まるで城のように堂々とそびえ立っていた。
町の中で際立つその存在感は、さすが大商会と言ったところだ。
ウィルムは足を止めてそれを見上げ、次第に冷静さを取り戻す。
「……ダメだ」
ジャックを問いただしたところで、真実を吐くわけがない。
それどころか、ギルドの警戒が強くなり自分がより危険にさらされるだけだ。
ウィルムはゆっくり息を吸い、「冷静になれ」と心の中で己に言い聞かせるのだった。
ウィルムがいくら多額の出資を受けたと言っても、敵は比べ物にならないほど強大だ。なんの成果も上げられず資金が底をつくなんてことにもなりかねない。
なんとかカエデの協力を得たいところだが、先日の件でシャームも目を光らせているだろう。
今は地道に調べるしかなかった。
「――いったいどこへ行っちまったんだろうなぁ」
鋳鉄炉の前の丸椅子に腰かけた鍛冶屋の親方が、眉尻を下げ寂しげに呟く。
比較的温厚なタイプの鬼人で、ウィルムを信頼し鉱石をよく買ってくれていた大男だ。
世間体もあってウィルムとの鉱石の取引はできないが、竜人失踪の調査には快く協力してくれた。
――ここで働いていた若い竜人族の男は、ある日突然来なくなっていた。
その理由は不明で、誰にもなにも伝えずに忽然と姿を消したらしい。それ以降の消息は分かっておらず、将来的には跡を継がせようとしていた親方もショックを受けていた。
失踪直前も普段と違うところはなく、元気に仕事していたという話を聞くに、突発的ななにかが起こったのだろう。
もしウィルムを襲撃した者たちの仕業だとするのなら、夜道を襲い強引に連れ去ったのかもしれない。
「――お忙しいところ、ありがとうございました」
ウィルムが丁寧に頭を下げると、親方はガハハハと気さくに笑った。
「いいってことよ! こっちこそ、急に取引をやめちまってすまなかったな」
「いえ、仕方のないことですから……」
「俺だって、あんちゃんのことは信じてるさ。ギルドの連中がうるさくて、表立った協力はできないが、こうやってこっそり手を貸すことぐらいはできる。またなにかあったら言ってくれよ」
親方の頼もしい言葉は、ウィルムにとってなによりの救いだった。
まだ自分のことを信じてくれる人がいる、そう思うだけで心が軽くなる。
ウィルムは目元が潤みそうになるのを必死に堪えながら、震える声で礼を言って足早に去るのだった。
それから、竜人失踪のあった関係者の家や店を何軒か回ったが、どこもギルドと繋がりそうな情報は得られなかった。
やはり皆、一人でいるところを襲われたようだ。
襲撃者の立場になって考えれば当然の方法だが、ウィルムの脳裏になにかがひっかかった。
(そういえば……僕はあのとき、一人じゃなかった……)
ウィルムが最初に襲われた、イノセントからの帰り道、彼は一人ではなかった。
ジャックを始めとしたアルビオン商会のハンターたちも数人いたのだ。
護衛のハンターたちがモンスターと戦っている隙に、ウィルムを捕まえようとしたのかもしれないが、その後もハンターたちに姿を見せているのは不可解だ。
ますますウィルムを混乱させ、挫けそうになる。
しかしそのとき、脳裏に一つの可能性が浮上した。
「………………まさかっ!?」
ウィルムは勢いよく顔を上げ、アルビオン商会へ急ぐ。
考えたくはないことだが、ジャックが襲撃者の仲間だという可能性は十分あり得るのだ。
そう考えると、先日の採取クエスト出発前に彼から向けられた敵意溢れる視線の意味も、なんとなく分かる。
脳内が急速に回転する中、考えがまとまる前にアルビオン商会の館に辿り着いた。
赤い屋根が目立つ、ダークブラウンで塗装されたレンガ造りの建物は、まるで城のように堂々とそびえ立っていた。
町の中で際立つその存在感は、さすが大商会と言ったところだ。
ウィルムは足を止めてそれを見上げ、次第に冷静さを取り戻す。
「……ダメだ」
ジャックを問いただしたところで、真実を吐くわけがない。
それどころか、ギルドの警戒が強くなり自分がより危険にさらされるだけだ。
ウィルムはゆっくり息を吸い、「冷静になれ」と心の中で己に言い聞かせるのだった。
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