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第四章 大資本の激突
策士と策士
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「――ウィルムさん、あなたはこうなることを最初から予想していましたね?」
「なんのことでしょうか?」
ウィルムはシーカーたちを連れ、自宅に戻っていた。
副店主は最終的に口座の凍結を解除し、資金の返却を約束したのだ。
シーカーの最後の一手が効いたらしい。
それもそのはず。分店の副店主程度で、大資本の介入を許しギルドの壊滅を招くような事態を引き起こしたとあっては、背負える責任の度を超えている。ギルド上層部からすれば、万死に値することだろう。
しかし、上々の結果であるにも関わらず、シーカーは困ったように苦笑し肩を落としていた。
「まったく、食えないお人だ。わざわざあの金庫番に金を預けたのも、私に介入させるための仕込みだったんじゃないんですか? おおかた、挑発でもしておいたのでしょう?」
「……すべてお見通しですか」
ウィルムは、いたずらがバレた子供のように苦笑いを浮かべ、気まずそうに頬をかく。
正直なところ、シーカーの推察通りだ。
自分一人ではどうしようもないと考えたウィルムは、外資の力に頼ることにした。
だからあえて、エサを撒くように大金を二番店に預けたのだ。
副店主……いや、おそらくもっと上層部の者が再びウィルムを追いつめようとして、そのエサにまんまと食いついたに違いない。
それが外資介入の口実になるとも知らずに。
「正直、あなたを助けるかは最後まで悩みましたよ。参考までに聞かせてください。私が契約にのっとり、ウィルムさん自身を売り物にしなかったのを読めたのはなぜですか? それとも、ただの賭けですか?」
「フェアのおかげです。あなたとエルダさんの間になにが起こったのか聞きました」
「……なるほど、そういうことですか」
シーカーは一瞬、苦しそうに頬を歪めたが、納得したように頷いてソファに背もたれた。
彼がウィルムを売るほうをとるか、それとも助けるか悩んだことは間違いない。
助けるにはそれなりの労力が必要な上に、他国の市場に介入するリスクが大きいからだ。ウィルムの竜人の体を闇市場で売れば、ある程度の損失の補填にはなる。
だがそれでも、シーカーはウィルムを助けた。
そのほうが最終的に利益を得られると判断したからだ。
ウィルムも、彼が損得勘定をなにより優先すると聞いていたからこそ、この手段をとったに過ぎない。
エルダのときは、自然災害による被害の不透明感があったから退かざるをえなかったのかもしれないが、今回とは状況がまるで違う。
こちらにはなんの落ち度もなく、ドラチナス金庫の陰謀によるただの理不尽だ。
それなら、こちらも理不尽を叩き返してやるまでのこと。
「これでお膳立ては整いましたか? 私がここまでしたんです。失敗は許しませんよ?」
シーカーは穏やかな雰囲気を一転させ、威圧感を纏って告げた。
その鋭い視線は、手練れの商人そのもので、彼の強大さを証明している。
今回、シーカーが副店主を脅すまでにとどめ、上役を呼ばせなかったのは、ウィルム自身に決着をつけさせるためでもあった。
もちろんそれは、ウィルムも心得ている。なにからなにまで他人に頼ろうなど、微塵も考えてはいない。
今回は突破口を開いたに過ぎないのだ。
「もちろんですよ。今日は本当にありがとうございました。それにしても、シーカーさんが国の大資本家と繋がっていたなんて、想定外でした」
「ああ、さっきのはすべて嘘ですよ」
「……へ?」
シーカーのなにげない淡々とした回答に、ウィルムは素っ頓狂な声を上げる。
その反応を見たシーカーは、満足そうに頬を緩め立ち上がった。
「嘘も方便。これでおあいこですね」
そう言って、あんぐりと口を開けたウィルムに背を向け、フォートレスへ帰っていくのだった。
「なんのことでしょうか?」
ウィルムはシーカーたちを連れ、自宅に戻っていた。
副店主は最終的に口座の凍結を解除し、資金の返却を約束したのだ。
シーカーの最後の一手が効いたらしい。
それもそのはず。分店の副店主程度で、大資本の介入を許しギルドの壊滅を招くような事態を引き起こしたとあっては、背負える責任の度を超えている。ギルド上層部からすれば、万死に値することだろう。
しかし、上々の結果であるにも関わらず、シーカーは困ったように苦笑し肩を落としていた。
「まったく、食えないお人だ。わざわざあの金庫番に金を預けたのも、私に介入させるための仕込みだったんじゃないんですか? おおかた、挑発でもしておいたのでしょう?」
「……すべてお見通しですか」
ウィルムは、いたずらがバレた子供のように苦笑いを浮かべ、気まずそうに頬をかく。
正直なところ、シーカーの推察通りだ。
自分一人ではどうしようもないと考えたウィルムは、外資の力に頼ることにした。
だからあえて、エサを撒くように大金を二番店に預けたのだ。
副店主……いや、おそらくもっと上層部の者が再びウィルムを追いつめようとして、そのエサにまんまと食いついたに違いない。
それが外資介入の口実になるとも知らずに。
「正直、あなたを助けるかは最後まで悩みましたよ。参考までに聞かせてください。私が契約にのっとり、ウィルムさん自身を売り物にしなかったのを読めたのはなぜですか? それとも、ただの賭けですか?」
「フェアのおかげです。あなたとエルダさんの間になにが起こったのか聞きました」
「……なるほど、そういうことですか」
シーカーは一瞬、苦しそうに頬を歪めたが、納得したように頷いてソファに背もたれた。
彼がウィルムを売るほうをとるか、それとも助けるか悩んだことは間違いない。
助けるにはそれなりの労力が必要な上に、他国の市場に介入するリスクが大きいからだ。ウィルムの竜人の体を闇市場で売れば、ある程度の損失の補填にはなる。
だがそれでも、シーカーはウィルムを助けた。
そのほうが最終的に利益を得られると判断したからだ。
ウィルムも、彼が損得勘定をなにより優先すると聞いていたからこそ、この手段をとったに過ぎない。
エルダのときは、自然災害による被害の不透明感があったから退かざるをえなかったのかもしれないが、今回とは状況がまるで違う。
こちらにはなんの落ち度もなく、ドラチナス金庫の陰謀によるただの理不尽だ。
それなら、こちらも理不尽を叩き返してやるまでのこと。
「これでお膳立ては整いましたか? 私がここまでしたんです。失敗は許しませんよ?」
シーカーは穏やかな雰囲気を一転させ、威圧感を纏って告げた。
その鋭い視線は、手練れの商人そのもので、彼の強大さを証明している。
今回、シーカーが副店主を脅すまでにとどめ、上役を呼ばせなかったのは、ウィルム自身に決着をつけさせるためでもあった。
もちろんそれは、ウィルムも心得ている。なにからなにまで他人に頼ろうなど、微塵も考えてはいない。
今回は突破口を開いたに過ぎないのだ。
「もちろんですよ。今日は本当にありがとうございました。それにしても、シーカーさんが国の大資本家と繋がっていたなんて、想定外でした」
「ああ、さっきのはすべて嘘ですよ」
「……へ?」
シーカーのなにげない淡々とした回答に、ウィルムは素っ頓狂な声を上げる。
その反応を見たシーカーは、満足そうに頬を緩め立ち上がった。
「嘘も方便。これでおあいこですね」
そう言って、あんぐりと口を開けたウィルムに背を向け、フォートレスへ帰っていくのだった。
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