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第五章 生贄の反逆
カエデの苦悩
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「いったいなんのつもり? それにリサに声をかけていたようだけど、なんの用があったのよ」
「失踪事件の件で少しね」
カエデの顔色が変わった。
彼女をここへ連れ込んだのは、その話をするためでもある。
先日のフローラでの一件があるため、秘密を握るウィルムと薬師のカエデが話をしているのは、シャームたちも警戒しているだろう。
ウィルム自身は構わないが、カエデの身まで危険にさらすのは避けたかった。
「リサは私の大事な親友よ。危ないことに巻き込まないで!」
「待ってくれ。彼女だって竜人なんだ。このままじゃどの道危険だよ」
「そんなの、確証のない話でしょ? まさか私が、親友を危険な目にさらすとでも言うの!?」
ウィルムは残念そうに眉尻を下げ肩を落とした。
どうやら彼女の考えは変わっていないようだ。
しかし余裕のなさそうな早口に、揺れる瞳を見ると、どこか悩んでいるような印象も受ける。
「その様子じゃあ、信じてはくれないようだね」
「そんな簡単に信じられるわけないじゃない……」
「じゃあ、僕がギルドの攻撃を受けているのも仕方のないことだって言うのかい? 鉱石取引で詐欺を働いた疑いがあるから」
「そっ、それは……」
カエデは言葉を詰まらせ俯く。
前髪で影をつくり表情が見えない。
彼女だって分かっているのだ。ギルドのやり方はなにかがおかしいのだと。しかしそれを認めるのが怖いのだろう。
ウィルムが黙って反応を伺っていると、彼女は蚊の鳴くような小さく頼りない声で言った。
「この間の金庫番とエルフの投資家の口論を見たわ。あのエルフの人の言う通りだと思った。なんの事情も知らない私たちが、確証のない悪質な噂に踊らされ、必死に戦ってるあなたを追いつめているのだと」
「それは……」
「あなたには悪いことをしたと思ってるわ。私だって本当は信じたいのよ。でも、怖いの」
「え?」
「だって、自分の信じていたものに突然裏切られるんだよ!? 今まで、私は一人でも多くの人を助けたいと思ってフローラで一生懸命働いてきた。そのフローラが誰かを不幸にしていただなんて、もしかしたら私の仕事が誰かを不幸にしていたかもしれないだなんて、耐えられるわけがないじゃない!?」
「カエデ……」
カエデは目に涙を溜め、顔を上げて切実に叫んだ。
強い信念を持って働いてきた彼女だからこそ悩みは深く、簡単に認められるものではない。
それは、彼女の信念と自尊心を傷つけ、下手すればこれまでの人生を否定することになるのだ。
今の彼女にかけられる言葉など、すぐには見つけられなかった。
「どうしても、まだ気持ちの整理がつかないわ」
カエデは震える声で告げ再び俯く。
彼女にはまだ時間が必要だ。
ウィルムは仕方のないことだと肩を落とし、穏やかに言った。
「僕のことは気にせず、君にとって最善の答えを出せばいいさ」
「ごめんなさい。それと、ありがとう」
目に涙を溜めながら健気に微笑むカエデに、ウィルムは頷いた。
そして頃合いだと悟り最後に問う。
「でも、最後に一つ。これだけ教えてくれ」
「なに?」
「デーモンの会長グレイヴの屋敷に行ったことはあるかい? もしかすると、あそこにアビスを研究している隠れ家があるかもしれないんだ」
カエデは驚いたように目を見開くが、黙って首を横へ振る。
ウィルムは眉尻を下げ頷き、背を向けた。
「そうか……ありがとう」
そう言ってその場を立ち去るのだった。
それから他の竜人にも話を聞いて回ったが、有益な情報はつかめなかった。
グレイヴの屋敷での謎の咆哮は、闇に包まれたままで、水面下での不審な動きも感じられない。
「失踪事件の件で少しね」
カエデの顔色が変わった。
彼女をここへ連れ込んだのは、その話をするためでもある。
先日のフローラでの一件があるため、秘密を握るウィルムと薬師のカエデが話をしているのは、シャームたちも警戒しているだろう。
ウィルム自身は構わないが、カエデの身まで危険にさらすのは避けたかった。
「リサは私の大事な親友よ。危ないことに巻き込まないで!」
「待ってくれ。彼女だって竜人なんだ。このままじゃどの道危険だよ」
「そんなの、確証のない話でしょ? まさか私が、親友を危険な目にさらすとでも言うの!?」
ウィルムは残念そうに眉尻を下げ肩を落とした。
どうやら彼女の考えは変わっていないようだ。
しかし余裕のなさそうな早口に、揺れる瞳を見ると、どこか悩んでいるような印象も受ける。
「その様子じゃあ、信じてはくれないようだね」
「そんな簡単に信じられるわけないじゃない……」
「じゃあ、僕がギルドの攻撃を受けているのも仕方のないことだって言うのかい? 鉱石取引で詐欺を働いた疑いがあるから」
「そっ、それは……」
カエデは言葉を詰まらせ俯く。
前髪で影をつくり表情が見えない。
彼女だって分かっているのだ。ギルドのやり方はなにかがおかしいのだと。しかしそれを認めるのが怖いのだろう。
ウィルムが黙って反応を伺っていると、彼女は蚊の鳴くような小さく頼りない声で言った。
「この間の金庫番とエルフの投資家の口論を見たわ。あのエルフの人の言う通りだと思った。なんの事情も知らない私たちが、確証のない悪質な噂に踊らされ、必死に戦ってるあなたを追いつめているのだと」
「それは……」
「あなたには悪いことをしたと思ってるわ。私だって本当は信じたいのよ。でも、怖いの」
「え?」
「だって、自分の信じていたものに突然裏切られるんだよ!? 今まで、私は一人でも多くの人を助けたいと思ってフローラで一生懸命働いてきた。そのフローラが誰かを不幸にしていただなんて、もしかしたら私の仕事が誰かを不幸にしていたかもしれないだなんて、耐えられるわけがないじゃない!?」
「カエデ……」
カエデは目に涙を溜め、顔を上げて切実に叫んだ。
強い信念を持って働いてきた彼女だからこそ悩みは深く、簡単に認められるものではない。
それは、彼女の信念と自尊心を傷つけ、下手すればこれまでの人生を否定することになるのだ。
今の彼女にかけられる言葉など、すぐには見つけられなかった。
「どうしても、まだ気持ちの整理がつかないわ」
カエデは震える声で告げ再び俯く。
彼女にはまだ時間が必要だ。
ウィルムは仕方のないことだと肩を落とし、穏やかに言った。
「僕のことは気にせず、君にとって最善の答えを出せばいいさ」
「ごめんなさい。それと、ありがとう」
目に涙を溜めながら健気に微笑むカエデに、ウィルムは頷いた。
そして頃合いだと悟り最後に問う。
「でも、最後に一つ。これだけ教えてくれ」
「なに?」
「デーモンの会長グレイヴの屋敷に行ったことはあるかい? もしかすると、あそこにアビスを研究している隠れ家があるかもしれないんだ」
カエデは驚いたように目を見開くが、黙って首を横へ振る。
ウィルムは眉尻を下げ頷き、背を向けた。
「そうか……ありがとう」
そう言ってその場を立ち去るのだった。
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グレイヴの屋敷での謎の咆哮は、闇に包まれたままで、水面下での不審な動きも感じられない。
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