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2話 勇者達の不満

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 「なぁ、ハーシュ。どうしてライを庇うんだよ? そんな雑魚、庇ったってどうしようもないだろ?」

 ドラウロは、太い腕でハーシュの肩を後ろから掴みながら、耳に顔を近づけて喋りかけた。
 
 「助ける理由に強さなどは関係ない。お前達は、それでも本当に勇者か」

 ハーシュは鋭い目ですぐ後ろにある顔を睨みつけながら、太い腕を振り払った。

 本当に情けないなぁ……。
 俺はハーシュに助けてもらってばかりだ。
 そのせいで、ハーシュが他の勇者達から変な目で見られてしまう。

 「酷えなぁ、俺ら勇者だろ。なぁ? ウド」
 「そうだよ。僕達はどれだけ酷いことをしても、勇者には変わりない。民衆の前では、いい奴を演じていればいいのさ」

 片目に被る金髪を手で払いながら、クズが言うことを何の躊躇いもなくサラッと言い放った。

 「そうね。ウドの言う通り。#私_わたくし__#達はあいつらの前だけでいい顔をすれば良い。それだけで勝手に評価が上がっていくもの」
 「リエンの言う通り! そう思ったら私たち楽だね。このお荷物がいなけりゃだけど!」

 俺の顔に向かって2本のナイフが飛び、当たるギリギリのところで避けた。
 岩を見てみると、そのナイフは半分の長さが岩に突き刺さり、ヒビを入れていた。

 このナイフが刺されば、俺の頭は完全に破壊されて血まみれになっていたはずだ。
 そして当然、命もなかった。

 「レイン! 今ライのことを殺そうとしたな!」

 ハーシュは身を翻して、転がっていた岩に座る小柄のレインに向けて剣を引き抜いた。
 それを見たドラウロは、2人の会話を邪魔しないようにと思ったのか、数歩後ろに下がって腕を組んだ。

 「まさかぁ、そんな事はしないよ?」
 「嘘をつくな」
 「本当だよ。だって、ライはこの中では弱くても勇者なんだよ? これぐらい避けてるに決まってるじゃん。ただ、私はそれを試しただけだよ?」

 何が試しただけだ。
 あの投げ方、どう考えても殺す気満々だっただろ。

 レインは、ナイフを主に戦闘を行う。
 形、重量、長さなど、様々な種類のナイフを体中に装備している。
 長くなく、重くもないナイフの特徴を活かして、俊敏性を武器に戦うスタイルだ。
 何度か模擬戦をしたが、やはり俺では全く歯がたたなかった。
 素早い動きをする小柄な体に、剣を当てる事は難しく、どれだけ意識をしていても、すぐに背後を取られてしまう。
 本当に厄介な相手だ。

 「そんなことが――」
 「もう良いよハーシュ。ありがとう」
 「ライ……」
 「俺がこうされるのは、いつものことだろ? だから、俺のことは気にするな」

 俺は出来るだけ明るく話しかけたが、ハーシュは下を向いてしまった。

 「ごめんなさい……」

 ハーシュは何も悪くない。
 悪いのは全て俺だ。
 俺が弱いことが悪いんだ。
 全部俺が……。

 「いやぁ~。ムカつくね……」

 服の中に手を入れながら、レインは岩から飛び降りると、それと同時に俺に向けてナイフを投げてきた。
 だが、今度は予測出来ていたから、剣を引き抜いて弾き飛ばすことができた。

 「ムカつくよ。つくづくムカつく。どうしてあんたみたいなやつが、私と同じ勇者なのかなぁ……? 私ね、弱いやつ見てるとイラつくんだよね。特にあんたみたいな奴がさぁ!」
 「俺をコケにする理由が、弱いからか」
 「そうだよ。ねぇ、あんたみたいな奴といたら、私達も弱いと思われたらどうするの?」
 「別に俺はどうとも思わない」
 
 深翠しんぺきの瞳で俺を睨みつけながら、さらに大声で言葉を続けた。

 「それだよ! あんた弱いくせに、その態度が気に入らない! 弱者は弱者らしい態度をとっていれば良いのにさぁ!」

 レインの俺に向けた怒号が、洞窟内に響き渡る。
 これだけの大声で叫んでいては、もしかしたら魔物が来てしまうかもしれない。
 その可能性があるのにも関わらず、ドラウロ達は一切レインを止めようとしない。

 「ドラウロ、こいつここで殺さない? このまま居続けても邪魔なだけでしょ?」
 「なっ! そんなこと私が許さな――」
 「いいなぁ! 名案だ! せっかく洞窟まで来たんだ。ここで邪魔なこいつを殺してしまおう」

 洞窟内には、狂気にまみれた笑い声が響き渡り、ドラウロ達4人は各自武器を手に、俺に近づいてきた。

 「お前達、正気か!」

 ハーシュは剣を構えるのをやめずに、さらに警戒を強くする。
 俺も今は黙っている場合じゃない。
 右手で持っていた剣を両手で持ち、4人に向けて構える。
 いつもだったら、特に言い返さずにその場をやり過ごしていた。
 だけど、今はそんな呑気なことをしている場合ではない。
 
 こいつらの目は本気だ。
 まるでゴミを見るような目で見てくる。
 ずっと片付けられなかったけど、ようやく片付けることができる。
 こいつらの目からは、そう感じた。

 「死ねや雑魚がぁ!」

 ドラウロは全速力で向かってきて、剣を振りかぶった。

 「お前達本当にどうかしているぞ!」

 ハーシュはドラウロの動きを阻むように、目の前に飛び出して剣を受け止めた。
 衝突する金属音と共に、激しく火花が散っていく。

 「ハーシュ! お前は出来る限り傷付けたくないんだ。だから大人しくしといてくれよ!」
 「くっ……!」
 「ハーシュ!」

 ドラウロの巨体の攻撃を受け止めきることができずに、そのまま岩に弾き飛ばされてしまった。
 背中から強打して打ち所が悪かったのか、全く起き上がる気配がない。

 こいつらは俺だけじゃなくて、ハーシュにも手を出すのかよ……!
 どうしてこいつらはここまで――

 「よそ見する暇はないでしょ!」
 「クソっ!」

 俺に向けて5本以上のナイフが飛来し、俺は全て弾き飛ばす。
 だが、俺は分かっていなかった。
 レインの本当の強さを。

 「そんなナイフ、ただの囮だよ!」
 「なっ……!」

 ナイフを全て弾き飛ばし、次の攻撃に備えようと前を向いた時、すでにレインはそこにいた。
 咄嗟のことで反応することが出来ず、レインのナイフで腹を横に切り裂かれた。
 
 俺の防具はあっという間に赤く染まり、地面に垂れていった。

 構えろ! 
 すぐに次の攻撃が――

 「ほらよ!」
 「っあぁ!」

 顔を上げると、俺の視界に入らないように下でしゃがんでいたレインは、一瞬で立ち上がると俺の顎を蹴り上げた。

 そのまま衝撃が脳に響き、視界が一気に歪んでいく。
 俺は必死に立っていようとするが、体がそれを全力で拒否する。
 
 
 

 

 
 
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