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5 世間知らずのお嬢ちゃん
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「待ち人来たらず。それならわたくしのおしゃべりにお付き合いくださらない?」
「アンタの?」
カドモスは鼻で笑った。
どうやら大人の世界に憧れる年頃のお嬢ちゃんが背伸びして、盛り場に足を踏み入れたものの、何をどう振舞うべきか、途方に暮れているらしい。
それにしたって話しかける相手が悪い。度胸は買うが。
カドモスは少しばかり愉快な気持ちになった。
なんたってこの少女、カドモス相手に、少しも物怖じしない。
大の大人ですら強面のカドモスには怯えるというのに。
いや、カドモスがいたからこそ、話しかけられるような人物が店内からいなくなったのかもしれない。
「ええ。もちろん貴方がお話しくださっても構いませんわ」
「俺の話? 俺は傭兵だぜ、お嬢ちゃん。学も何もない。藁屑頭に詰まってんのは、ドンパチだけだ」
「わたくしの知らないお話をたくさんご存じでしょうね」
「そらご存じさ! 世間知らずの可愛子ちゃん。怖いもの知らずのおバカちゃん。アンタ、わかってんのか? 戦争ってものをさ」
カドモスは柄にもなく道化を演じた。
見世物小屋の主のように。胸を張り、腕を大きく振り。ねっとりと笑い、いやらしく媚を売る。
なんとはなしに、目の前の少女を楽しませて機嫌を取ってやらねばいけないような気がしたのだ。
一方でカドモスは、そんな自分にとてつもなくイライラした。
だがらカドモスは、怒鳴り声に似た、ラッパのような笑い声を上げ、凶悪な笑みを浮かべた。
親切にしてやろう、それから少女の無垢で柔らかな心をコテンパンに叩きのめしてやりたい。
あべこべだ。
「いいえ。ですがわたくしは知る必要があります」
「知る必要? そうかい。戦場と巻き込まれた村は略奪し尽くされ、家に火が放たれ、女は犯され、子供がおもしろおかしく弓や槍の的になり、息絶え絶えになったところで切り刻まれる話でも? それでもアンタは知る必要があるって?」
「そのような……。まさかそれは我が国の騎士たちが?」
青ざめる少女にカドモスは底意地悪く笑った。
「はん。アンタ本当になんにも知らねぇんだな」
少女は目を見開いた。
カドモスの脅しに怯えたり、ムッとしたり。気分を害したというふうではなく。
驚いた、というように目をまん丸くさせている。
「な、なんだよ」
思ったような反応が得られず、カドモスはまごついた。
袖を引かれたのか、後ろに控えていた女へと少女が振り返る。
そこでカドモスは初めて違和感を持った。
――どうしてハウスメイドが家から出て、主人にくっ付いてきてやがる?
使用人を連れ立って歩く。使用人を使う家の人間であっても、複数人使用人を抱えているとか、それなりに裕福な家でなければ、そんな贅沢はしない。
この盛り場に似合わないお嬢ちゃんが迷い込んできたものだ、とカドモスも呆れてはいた。とんだ命知らずのジャジャ馬だ、と。
だが良家の子女だとは思わなかった。
そういった類の人間が、こんな場末の、安全の保証されないような店に入るはずがない。付き人だって注意するはずだ。
よくよく店内に目を凝らしてみると、妙な男が複数人いる。一見店に溶け込んでいる様子だが、息を潜め、神経を張り巡らせている。
ああこれは。
カドモスは己の不運を嘆いた。
今日は本当にツイてねぇ。ちょっとやそこらの金持ちじゃねぇんだろうな。
「そのお話、どうぞ詳しく教えてくださいまし」
そうしてカドモスは連行された。ツイてねぇにも程がある、とカドモスは聳え立つ王宮を見上げた。
「アンタの?」
カドモスは鼻で笑った。
どうやら大人の世界に憧れる年頃のお嬢ちゃんが背伸びして、盛り場に足を踏み入れたものの、何をどう振舞うべきか、途方に暮れているらしい。
それにしたって話しかける相手が悪い。度胸は買うが。
カドモスは少しばかり愉快な気持ちになった。
なんたってこの少女、カドモス相手に、少しも物怖じしない。
大の大人ですら強面のカドモスには怯えるというのに。
いや、カドモスがいたからこそ、話しかけられるような人物が店内からいなくなったのかもしれない。
「ええ。もちろん貴方がお話しくださっても構いませんわ」
「俺の話? 俺は傭兵だぜ、お嬢ちゃん。学も何もない。藁屑頭に詰まってんのは、ドンパチだけだ」
「わたくしの知らないお話をたくさんご存じでしょうね」
「そらご存じさ! 世間知らずの可愛子ちゃん。怖いもの知らずのおバカちゃん。アンタ、わかってんのか? 戦争ってものをさ」
カドモスは柄にもなく道化を演じた。
見世物小屋の主のように。胸を張り、腕を大きく振り。ねっとりと笑い、いやらしく媚を売る。
なんとはなしに、目の前の少女を楽しませて機嫌を取ってやらねばいけないような気がしたのだ。
一方でカドモスは、そんな自分にとてつもなくイライラした。
だがらカドモスは、怒鳴り声に似た、ラッパのような笑い声を上げ、凶悪な笑みを浮かべた。
親切にしてやろう、それから少女の無垢で柔らかな心をコテンパンに叩きのめしてやりたい。
あべこべだ。
「いいえ。ですがわたくしは知る必要があります」
「知る必要? そうかい。戦場と巻き込まれた村は略奪し尽くされ、家に火が放たれ、女は犯され、子供がおもしろおかしく弓や槍の的になり、息絶え絶えになったところで切り刻まれる話でも? それでもアンタは知る必要があるって?」
「そのような……。まさかそれは我が国の騎士たちが?」
青ざめる少女にカドモスは底意地悪く笑った。
「はん。アンタ本当になんにも知らねぇんだな」
少女は目を見開いた。
カドモスの脅しに怯えたり、ムッとしたり。気分を害したというふうではなく。
驚いた、というように目をまん丸くさせている。
「な、なんだよ」
思ったような反応が得られず、カドモスはまごついた。
袖を引かれたのか、後ろに控えていた女へと少女が振り返る。
そこでカドモスは初めて違和感を持った。
――どうしてハウスメイドが家から出て、主人にくっ付いてきてやがる?
使用人を連れ立って歩く。使用人を使う家の人間であっても、複数人使用人を抱えているとか、それなりに裕福な家でなければ、そんな贅沢はしない。
この盛り場に似合わないお嬢ちゃんが迷い込んできたものだ、とカドモスも呆れてはいた。とんだ命知らずのジャジャ馬だ、と。
だが良家の子女だとは思わなかった。
そういった類の人間が、こんな場末の、安全の保証されないような店に入るはずがない。付き人だって注意するはずだ。
よくよく店内に目を凝らしてみると、妙な男が複数人いる。一見店に溶け込んでいる様子だが、息を潜め、神経を張り巡らせている。
ああこれは。
カドモスは己の不運を嘆いた。
今日は本当にツイてねぇ。ちょっとやそこらの金持ちじゃねぇんだろうな。
「そのお話、どうぞ詳しく教えてくださいまし」
そうしてカドモスは連行された。ツイてねぇにも程がある、とカドモスは聳え立つ王宮を見上げた。
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