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第十三章
神の偉大なる摂理
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次の日の2月2日、彼は、神との折り合いを着けるため教会に行くことを決心していた。
彼は黒い影の言った「そう遅くはない」という時間的な観念と
神父が述べた聖アウグスティヌスの
「過去はすべて神のあわれみにまかせ、現在はすべて神の深い愛情にゆだね、未来は神の偉大なる摂理、つまり神のあなたに対する計画に、すべてをゆだねなさい。」の言葉、
特に未来における神の偉大なる摂理、神の計画の一文とを兼ね合わせ、
俺に残された時間はそんなにはない、今の流れに委ね、神と折り合いをつけようと考え至っていたのである。
彼は妻がパートに出た昼過ぎ、押し入れのバックから袋を取り出し、ポケット版の聖書と一緒に上着のポケットに入れ、教会へと向かった。
途中、コンビニにより、茶封筒を買い、コンビニのゴミ入れの上で、茶封筒を一枚引き抜き、袋に入っている「薬」、彼が今まで不当にストックしておいた抗うつ薬と睡眠導入剤を茶封筒に流し込み、残りの茶封筒と薬が入っていた袋をゴミ箱に捨てた。
彼は教会に着くと、いつものように受付人に挨拶をし、何も言わず、指で2階を指し示すと、受付人は、にっこり笑いながら頷いた。
彼は階段を登り2階の祭壇部屋へ入って行った。
神父は、この前と同じように祭壇台で何かに目を通していた。
彼は祭壇台まで行き、神父に挨拶をした。
神父も恰も今日、今、彼が来ることを予感していたかのように、ゆっくりと顔を上げ、彼に挨拶を返した。
そして、彼は先日の告解のお礼を言い、続けてこう言った。
「私は神の偉大なる摂理、神の計画に委ねます。」と
神父は、祭壇台から彼の元に駆け寄り、彼を優しく、優しく抱き寄せた。
そして、神父は彼に洗礼を受けるよう勧めた。
彼は神父の目を見つめ、こう言った。
「私も洗礼を受けようと聖書を勉強していました。
でも、やはり私には時間がないことが分かりました。」と
神父は、彼の両肩を握ったまま、彼を心配そうに見つめた。
彼は続けてこう言った。
「御心配ありません。私は神の偉大なる摂理、神の計画に私の未来を委ねるだけです。
神への冒涜は決して致しません。
そのことを、今日、神父様に伝えに来ました。」と
神父は、改めて安心したかのように、何も言わず、にこにこ笑いながら、彼の両肩を揺すった。
彼は神父の両腕をゆっくりと外し、真剣な眼差しでこう言った。
「私の神への信頼の証として、神父様に一つお願いがあります。」と
神父も笑顔のマスクを外し、本来の神々しい趣きのある表情を現し、こう言った。
「何なりと仰ってください。」と
彼は上着の内ポケットから茶封筒を取り出し、こう言った。
「神父様、これを預かって貰えませんか。私が、神の十戒を守るために」と
神父は、自然にその茶封筒を受け取り、中を覗くこともなく、彼にこう言った。
「貴方の神への誓い、預かりましょう。」
そして、こう付け加えるように彼に言った。
「神は貴方と彼女の傍に常にいます。
全てを神に委ねなさい。」と
すると、彼の目から自然と涙が溢れ、流れ出した。
彼女が亡くなっても流れなかった涙が、彼の両頬に一筋の糸のように流れに落ちた。
神父は、再度、彼を抱き寄せ、彼の額に口付けをした。
彼は流れる涙を拭こうともせず、神父に別れを告げ、祭壇室を後にしようと出口に向かった。
その時、神父が彼を呼び止めた。
「貴方、十字架はお持ちですか?」と
彼は持ってないと答えた。
すると、神父は、ゆっくりと彼に歩み寄り、こう尋ねた。
「では、十字の切り方はご存知ですか?」と
彼はそれも知らないと答えた。
神父は言った。
「それではお教えしましょう。」と
神父はゆっくりと「額→胸→左肩→右肩」と手を動かし、十字の切り方を教えた。
彼も神父に教わったとおりに十字を切ってみた。
そして、神父は柔かな笑顔を見せ、彼に詩篇18篇9の詩を述べた。
「この神の法は完全なるものであり、人の魂を新たなものにしてくれる。
神の命令は信頼できるものであり、愚かな者に知恵を授けてくれる。」と
彼は、深々と神父に別れのお礼をし、祭壇部屋を後にした。
彼を見送った後、神父は祭壇台に戻り、彼から預かった茶封筒の中身を祭壇台の上にパラパラと流し出した。
ピンク色のカプセル状の錠剤、そして、白色の2種類の錠剤が祭壇台の上に散らばった。
神父はそれら薬が何であるかは、一瞬にして悟った。
いつの間にか神父も涙を流していた。
神父は、祭壇台上に散らばった錠剤を一つずつ、左手で丁寧に掴み、右手で十字を切りながら、茶封筒に入れていった。
そして、神父は泣きながら神に祈った。
「憐れなあの男の心の深淵に一筋の光でも良いから、どうぞ、神様、彼に光を、アーメン」と
彼は1階に降り、受付人の側に行き、上着のポケットからポケット版の聖書を取り出し、受付人に手渡した。
受付人は聖書を受け取り、キョトンとした表情を浮かべた。
彼は受付人に
「聖書を勉強する時間がなくなりました。
なので、これ、お返しします。
ありがとう。」と礼を述べ、教会を出て、教会屋根の立派な十字架を眺めた。
その時、彼は神が側にいるような神秘的な感覚を感じていた。
彼は生まれて初めて神の存在を感じたのだ。
あの自然と流れた涙
あの現象は神以外には創造することはできないと思った。
そして、彼は教会屋根の十字架をみながら、十字をゆっくりと切った。
そして、神に祈った。
「神の完全なる法で愚かな私は生まれ変わりました。
あとの未来は、神の偉大なる摂理、神の私に対する計画に身を委ねます。
どうか、私を玲奈の傍にお導きください。アーメン」と
そして、目を瞑り、もう一度、十字を切り、教会を後にした。
帰路に就く、彼の心は平穏に包まれたままであり、去りゆく冬の弱々しい陽光に過去の自分自身への憐れみを重ねながら、ゆっくりと歩いて行った。
彼は黒い影の言った「そう遅くはない」という時間的な観念と
神父が述べた聖アウグスティヌスの
「過去はすべて神のあわれみにまかせ、現在はすべて神の深い愛情にゆだね、未来は神の偉大なる摂理、つまり神のあなたに対する計画に、すべてをゆだねなさい。」の言葉、
特に未来における神の偉大なる摂理、神の計画の一文とを兼ね合わせ、
俺に残された時間はそんなにはない、今の流れに委ね、神と折り合いをつけようと考え至っていたのである。
彼は妻がパートに出た昼過ぎ、押し入れのバックから袋を取り出し、ポケット版の聖書と一緒に上着のポケットに入れ、教会へと向かった。
途中、コンビニにより、茶封筒を買い、コンビニのゴミ入れの上で、茶封筒を一枚引き抜き、袋に入っている「薬」、彼が今まで不当にストックしておいた抗うつ薬と睡眠導入剤を茶封筒に流し込み、残りの茶封筒と薬が入っていた袋をゴミ箱に捨てた。
彼は教会に着くと、いつものように受付人に挨拶をし、何も言わず、指で2階を指し示すと、受付人は、にっこり笑いながら頷いた。
彼は階段を登り2階の祭壇部屋へ入って行った。
神父は、この前と同じように祭壇台で何かに目を通していた。
彼は祭壇台まで行き、神父に挨拶をした。
神父も恰も今日、今、彼が来ることを予感していたかのように、ゆっくりと顔を上げ、彼に挨拶を返した。
そして、彼は先日の告解のお礼を言い、続けてこう言った。
「私は神の偉大なる摂理、神の計画に委ねます。」と
神父は、祭壇台から彼の元に駆け寄り、彼を優しく、優しく抱き寄せた。
そして、神父は彼に洗礼を受けるよう勧めた。
彼は神父の目を見つめ、こう言った。
「私も洗礼を受けようと聖書を勉強していました。
でも、やはり私には時間がないことが分かりました。」と
神父は、彼の両肩を握ったまま、彼を心配そうに見つめた。
彼は続けてこう言った。
「御心配ありません。私は神の偉大なる摂理、神の計画に私の未来を委ねるだけです。
神への冒涜は決して致しません。
そのことを、今日、神父様に伝えに来ました。」と
神父は、改めて安心したかのように、何も言わず、にこにこ笑いながら、彼の両肩を揺すった。
彼は神父の両腕をゆっくりと外し、真剣な眼差しでこう言った。
「私の神への信頼の証として、神父様に一つお願いがあります。」と
神父も笑顔のマスクを外し、本来の神々しい趣きのある表情を現し、こう言った。
「何なりと仰ってください。」と
彼は上着の内ポケットから茶封筒を取り出し、こう言った。
「神父様、これを預かって貰えませんか。私が、神の十戒を守るために」と
神父は、自然にその茶封筒を受け取り、中を覗くこともなく、彼にこう言った。
「貴方の神への誓い、預かりましょう。」
そして、こう付け加えるように彼に言った。
「神は貴方と彼女の傍に常にいます。
全てを神に委ねなさい。」と
すると、彼の目から自然と涙が溢れ、流れ出した。
彼女が亡くなっても流れなかった涙が、彼の両頬に一筋の糸のように流れに落ちた。
神父は、再度、彼を抱き寄せ、彼の額に口付けをした。
彼は流れる涙を拭こうともせず、神父に別れを告げ、祭壇室を後にしようと出口に向かった。
その時、神父が彼を呼び止めた。
「貴方、十字架はお持ちですか?」と
彼は持ってないと答えた。
すると、神父は、ゆっくりと彼に歩み寄り、こう尋ねた。
「では、十字の切り方はご存知ですか?」と
彼はそれも知らないと答えた。
神父は言った。
「それではお教えしましょう。」と
神父はゆっくりと「額→胸→左肩→右肩」と手を動かし、十字の切り方を教えた。
彼も神父に教わったとおりに十字を切ってみた。
そして、神父は柔かな笑顔を見せ、彼に詩篇18篇9の詩を述べた。
「この神の法は完全なるものであり、人の魂を新たなものにしてくれる。
神の命令は信頼できるものであり、愚かな者に知恵を授けてくれる。」と
彼は、深々と神父に別れのお礼をし、祭壇部屋を後にした。
彼を見送った後、神父は祭壇台に戻り、彼から預かった茶封筒の中身を祭壇台の上にパラパラと流し出した。
ピンク色のカプセル状の錠剤、そして、白色の2種類の錠剤が祭壇台の上に散らばった。
神父はそれら薬が何であるかは、一瞬にして悟った。
いつの間にか神父も涙を流していた。
神父は、祭壇台上に散らばった錠剤を一つずつ、左手で丁寧に掴み、右手で十字を切りながら、茶封筒に入れていった。
そして、神父は泣きながら神に祈った。
「憐れなあの男の心の深淵に一筋の光でも良いから、どうぞ、神様、彼に光を、アーメン」と
彼は1階に降り、受付人の側に行き、上着のポケットからポケット版の聖書を取り出し、受付人に手渡した。
受付人は聖書を受け取り、キョトンとした表情を浮かべた。
彼は受付人に
「聖書を勉強する時間がなくなりました。
なので、これ、お返しします。
ありがとう。」と礼を述べ、教会を出て、教会屋根の立派な十字架を眺めた。
その時、彼は神が側にいるような神秘的な感覚を感じていた。
彼は生まれて初めて神の存在を感じたのだ。
あの自然と流れた涙
あの現象は神以外には創造することはできないと思った。
そして、彼は教会屋根の十字架をみながら、十字をゆっくりと切った。
そして、神に祈った。
「神の完全なる法で愚かな私は生まれ変わりました。
あとの未来は、神の偉大なる摂理、神の私に対する計画に身を委ねます。
どうか、私を玲奈の傍にお導きください。アーメン」と
そして、目を瞑り、もう一度、十字を切り、教会を後にした。
帰路に就く、彼の心は平穏に包まれたままであり、去りゆく冬の弱々しい陽光に過去の自分自身への憐れみを重ねながら、ゆっくりと歩いて行った。
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