微睡みの魔女

福田葡萄

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1.魔女との出会い

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 俺、神代蒼児かみしろそうじは女の子とデートに行くかどうかを迷っていた。
 別に蒼児がリア充と言う訳ではなく、蒼児が拝み倒し、喫茶店で飲食代を持つと言う条件でようやく課題を手伝って貰う約束を取り付けたのだ。
 こうして毎回テスト前になると、蒼児は頭を下げて課題を手伝って貰っていたのだが、今日は学校から帰って来ると急に動くのが面倒になってしまったのだ。
 蒼児は一瞬行くか迷ってしまったが、すぐに準備を済ませて家を出る。約束をドタキャンするなんて言語道断である。
 家から駅の近くにある待ち合わせ場所まで歩いてわずか十分だ。なかなかいい物件である。
 待ち合わせ場所に指定されていた喫茶店には、すでにクラスメイトの女の子がいた。整った顔立ちで、少し茶色っぽいセミロングの髪型である。クラスでも評判の美少女で、その容姿は見た人に知的な印象を与える顔立ちだ。
「蒼児が十分前に来るなんて珍しいね」
 クラスメイトの美少女――笹原美月ささはらみつきが軽く驚いた様子で俺に言う。
「ギリギリに出発したら寝ちゃいそうだから早めに来た」
「そんで課題やってる途中で寝るんでしょ?」
「ああ、寝たら目覚めのキスで起こしてくれ」
「誰がするかバカ」
 美月と軽く冗談を交えながら挨拶をする。こんな軽口も美月だから言えるのだ。冗談の通じる女の子で本当に助かる。
 不意に美月が店に置かれているテレビを見て蒼児に話かける。
「見て蒼児、またうちの町がテレビ出てるよ」
「またか……今度は何の事件だ?」
「今回は人斬りだって」
「人斬りって……今の時代は通り魔とかじゃないのか?」
「大きな刃物で切られてるんだってさ、犯人は日本刀を持ってるかも知れないって」
 最近、蒼児達の住んでいる町はよくテレビに出ていた。理由は単純、ありとあらゆる事件が蒼児達の住んでいる町で多発しているのだ。それもおかしな事件ばかり。
「美月、帰り気をつけろよ」
「大丈夫だよ、駅近いし。それよりほら、さっさと課題終わらせてゲームしよう」
 『ゲーム』この一言で美月は目を輝かせる。そう、美月はゲームが好きなのだ、今日課題を手伝う条件の中に『美月とゲームをする』というのも含まれている。彼女の動機の八割は恐らくゲームなのだろう。
 蒼児は美月の力を借り、すぐに課題を終わらせる事が出来た。その分たくさんゲームをする事になったが、別にゲームは好きなのでむしろ嬉しいくらいだ。
「蒼児ってさ、結構顔立ちはいいのに全然モテないよね」
 美月がゲームの画面を見ながら蒼児に言う。
「女の子と話すのあんまり得意じゃねーんだよ」
 もちろん蒼児もゲームの画面を見ながら返す。
 実際蒼児は少し女の子を避ける傾向があった。別に女の子が嫌いな訳でも同性愛者と言う訳でもない。苦手なのだ、話すのが。何を話していいのか分からなくなる。対女の子限定コミュニティー障害だと思ってくれていい。しかし、美月のような女の子もいる。彼女とはゲームで仲良くなった。
 外が暗くなってきているのを見てふと、時計を確認すると、すでに時間は六時を回っていた。
「おい、もう暗いぞ、そろそろお開きにするぞ」
「もうちょい……」
「だめだ、最近物騒だからな」
 美月がぶーと口を窄めてみせる。そんなこと言っても物騒なのだから仕方が無い。特に美月は女の子だ、遅い時間に返す訳にはいかない。
 蒼児はさっさと準備をし、二人分の支払いを済ませ、半ば強引にお開きにする。すると美月も渋々お店から出てくる。
「しょうがない、また今度やろ」
「わかってるよ」
「それじゃあまたね」 
「ああ、また明日」
 俺は別れを告げるとすぐに帰路に着く。とにかく眠くて家に一刻も早く帰りたかった。
 帰り道を半分程度行った所の曲がり角。そこで蒼児は足を止めた。人の気配がしたのだ、ストーカーだろうか。そんなわけねえか。
「こんばんは」
 不意に、後ろから話しかけられる。蒼児は驚いて後ろを向き、ザリガニの如く後ろの声の主から距離を取る。
 そこには不思議な女性がいた。外国人のような顔立ちで、黒髪ロング。身長が高く、蒼児と同じくらいの身長だった。ちなみに蒼児の身長は174cmである。
「もし、『人間は悪』と言われたらあなたは信じる?」
「へ?」
「もし、そこに『悪しき物』が存在したらあなたはそれを断罪する?」
「何のことですか……?」
「今はわからなくてもきっとわかるようになるわ。私がそうさせてしまうもの」
 不思議な女性は怪しく、それでいて妖しく笑って見せると蒼児の腕を急に掴んだ。
 蒼児は驚いて抵抗しようとするが、何故か身体が動かず。そのまま引っ張られた。
「I teach what you do not know」
 不思議な女性が蒼児の耳元で英語で何かを呟き、首筋を撫でた瞬間。不思議な女性は消えた。
 初めから何も無かったかのようにすっかり消えてしまった。不思議な女性を探してキョロキョロとしている蒼児を風が煽るように強く吹き付ける。
「帰るか……」
 蒼児はすぐに何事も無かったかのように歩き始める。不思議な体験はしたものの、やはり眠気には勝てなかった。
 家である古いアパートに到着すると、すぐに敷きっぱなしの布団にダイブする。
 寝てはまずいと頭で考えていても眠気には勝てずそのまま蒼児は夢の中へと落ちて行った。

――――

 気が付くと蒼児は見知らぬ部屋にいた。全体的に白と黒で構成されたシックな部屋で、蒼児は椅子に座っていた。
 椅子の右隣に設置してある蓄音機からは、落ち着いたジャズが流れていてとても心地よい。
「初めまして」
 声がする方を見るとそこには華奢な美少女が椅子に座っていた。テーブルを挟んで向かい側の椅子である。
「初めまして、君は誰?」
 先程不思議な女性に遭遇した際にはひどく驚いたものだが、何故かこの華奢な美少女とは普通に会話をする事ができた。
「私の名前はエリーゼ。親しみを込めてエリーと呼んでね」
 エリーゼは黒いドレスのような服を着ていて、長い髪の毛を胸の辺りまで垂らしていた。髪の毛の色は少し薄い茶色、または金色に近い色だ。
「俺の名前は蒼児だ」
「知ってる」
「そりゃまたどうして」
「一からゆっくり説明するから待ちなさいよ」
 確かに説明して欲しいことは山ほどあるため、エリーゼの話を聞くことにする。
「それじゃあお願い」
「まずここについて。ここは蒼児の夢の中」
「それはなんとなくわかってたよ。俺の夢の中ってなかなかお洒落なんだな」
「私がいなかったらお洒落じゃなくなるし、意識だって夢の中じゃ普通保てないわ」
「そうなのか」
「そして私はエリーゼ、微睡みの魔女よ」
「その微睡みの魔女って言うのは何なんだ?」
「この世界には魔女と呼ばれる者がいる。魔女は魔力を求めて人間に憑く」
「なんで人間に憑くと魔力を得られるんだ?」
「人間が魔力を持っているからよ。人間は大量の魔力を使う術がなく溜め込んでいるの。全部取ったら死ぬけどね」
「読めて来たぞ、俺に憑いてるのがエリーなんだな?」
「その通りよ」
「なんで俺に憑いたんだ?」
「蒼児が大量の魔力とそれを生成する器官を持っていたからよ」
「なるほどね。なんかさ……」
 我慢出来ずに蒼児はニヤリと笑う。別にやましいことがあるわけではない。
「なによ?」
 微睡みの魔女様も若干引き気味の様子である。誤解だ。
「エリーが俺に憑いてくれて嬉しいよ」
「へ? なんでよ? 私は蒼児を殺すのよ?」
「一人暮らしって結構寂しいんだよ」
 蒼児は高校生になってから一人暮らしを始めていた。最初は自由な一人暮らしが楽しみであったが、最近は寂しくて仕方が無い。
「つーかさ、生き延びる方法ないの?」
「あるにはあるわ。他に魔力持つ者から奪えばいいのよ。そうすれば私が蒼児の魔力を吸い尽くすまで猶予が生まれるわ。まあ、もっとも」
 エリーゼが舌なめずりをしてみせるが、その姿に威圧感のような物はなく、むしろちょっと可愛かった。
「私が魔力を吸って力をつければ一度に吸える魔力量も増えるからいつ蒼児の魔力がなくなっちゃうか分からないけどね」
 話し終わると、エリーゼは紅茶と思われる飲み物を一口飲み、また口を開き始めた。
「残念だけど今夜はここまで。また明日ね」
 口を開き始めたが話自体はすぐに終わってしまったので、蒼児は少し拍子抜けしてしまった。
「そっか。じゃあね、エリー」
 再び空間が歪み始める。

――――

 目が覚めると、外はまだ薄暗く、時計を見ると針は午前四時を指していた。
 とりあえず昨日やらなかったことを済まさなければならない。
 蒼児はサッとシャワーを浴び、朝食を簡単なトーストで済ませ、早々に家を出る。
 蒼児がこんなにも早く家を出たのには理由があった。早く学校に到着して、朝のHRまで少し寝て、エリーゼと話をしようと思ったのだ。幸いまだ蒼児はすぐ眠れるくらいには眠かった。
 蒼児は学校に着くまでにエリーゼに聞きたいことをまとめようとするが、うまく頭が働かない。
 一生懸命思案しているうちに学校に到着してしまう。蒼児の家から学校まではわずか十分だ。駅とは反対方向だが、びっくりするほどにいい立地条件のアパートなのである。
 腕時計を見るとまだ五時で、さすがに開いてないと思ったが、学校はすでに校長先生によって開けられていた。よく考えれば校長先生がいなければ門の前で居眠りをするハメになるところだった。
 教室に到着し、早速机に突っ伏すと。蒼児はまた夢の中へと入っていった。

――――

「蒼児も寝るのが好きね」
 エリーゼが蒼児をみてケラケラと笑ってみせる。
「まだ聞きたいことがいっぱいあるしな」
「じゃあ質問を受け付けてあげるわ」
「魔女と人間以外に魔力を持つ者っているのか?」
「いるわ。基本的に奴らに名前はないけど、あえて名前を付けるならば『魔族』辺りが無難で妥当な名前かもね」
「魔族って何者だ?人間に対して何をする奴らなんだ?」
「やってる事は魔女と同じよ。ただ、奴らに知能はないし。所詮奴らは我々魔女の副産物よ」
「副産物?魔女が創ったのか?」
「違うわ。魔女が創られた時に副産物として創られたのよ」
 蒼児も覚悟していたとはいえ、だんだん頭が追いつかなくなってくる。
「魔女って創られたのか?誰に?」
「人間によ。人間は私達魔女を争いに利用するために創ったわ。でも、強すぎる魔女の力を恐れて人間は私達魔女を狩ったわ。これが本当の魔女狩りよ」
「結構聞いたつもりなんだが全然まだわかんねえな」
「魔女だけじゃなくて私自身のことも聞いてよ」
 いままで素直に質問に答えてくれていたエリーゼが急に口を窄めて拗ねてみせる。
「わかった。じゃあ……エリーの好きな食べ物は?」
 要望通りにエリーゼの事を聞いたのにも関わらず、エリーゼは微妙な顔をする。
「うわー……なにそれベタ過ぎ、答えるけどね。甘いものならなんでも好きよ」
「エリーって実体化出来ないの?」
「魔力が適度にある状態で儀式を行えば実体化出来るわ。この際だから魔力を得ると何が出来るのかを説明してあげ――」

――――

「!?」
 どうやら時間が来てしまったらしく、すでに周りには多くの生徒が自分の席に着席していた。
「だーれだ?」
 後ろから目隠しをされ誰かを問われるが思い切り無視する。
「ちょっ!無視すんなよ!」
 手と声の主である生徒、橘冬織たちばなとおるが自分の方向に蒼児を向かせようと顔を捻ろうとする。首が折れるからやめて欲しい。
「冬織、もうHR始まるぞ」
「わかってるよ、じゃあな蒼児」
 昨日から眠り倒したせいなのか、もうあまり眠くはなかった。
「エリーと話せるのは夜になるかな……」

――――

「気を付け、礼」
 やる気のない号令を合図に放課後になり、これからどうするかを考える。考えていると冬織がこちらにテクテクと歩いてくる。
「蒼児、今日は部活出てくれんの?」
 蒼児は一応冬織が部長を務める部活に所属をしていた。部活の名前は『幸福部』である。よくこんな名前の部活が認められたものだ。
「今日は暇だから出てやるよ」
 蒼児は冬織に誘われて入部した。本当はバイトをする必要があったため、部活に入る予定は全くなかったが、人数合わせで入ってくれるだけでいいと言うので入ることにしたのである。
「よかった、今日はちゃんと依頼人がいるんだよ」
 幸福部の活動内容は、単純な人助けや悩み相談で、割と依頼する人は多い。
「放課後に部室来るって言ってたから早く行こうぜ」
「はいはい」
 蒼児と冬織は依頼人が来る前に急いで部室に向かう。
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