優しい夜のうた

第11章 神様は、いない

梶原の焦り

あいつがもし祥子さんの車に細工をしたとする。駐車場の防犯カメラに映って、堂々と歩いていても、怪しい人とは思わないよな。重役たちの車も駐車してるんだ。それぞれの秘書が駐車場を歩いても違和感はない。滋からそんなメールが来たってことは……！」

ドキッとして、私は息が出来なくなった。そこに今度は祐の携帯が鳴り、祐は尻ポケットから携帯を取り出すと、

「玲かよ」

と溜め息混じりに言うと、坂井さんは振り向いて祐を見つめて、

「出て…！」

と強く言うと、祐は少し目を丸くして坂井さんを見て受話ボタンを押すと、大きな玲さんの声が私にまで聞こえてきた。祐はため息をついて、携帯を耳から離した。

「祐？！今、滋の見舞いに来たら滋の幼なじみの渡部雪子が床に倒れてるし、しげ…滋が何処にもいないのよ！トイレにもいないし、談話室にも。ど、どういうこと！？」

激しく動揺している声。所々噛んでいるし、嘘や演技ではなさそうだ。祐は驚きながら坂井さんを見ると、困惑して眉をひそめた。

坂井さんは正面に向き直りイヤホンマイクを耳にはめて、車を発進させた。私は祐と坂井さんを交互に見つめて、どっちにも話しかけられずにいると、坂井さんは自分のイヤホンマイクで話し始めた。