黒の皇子と七人の嫁

野良ねこ

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序章 旅の始まりは波乱と共に

38.対価と報酬

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 やはり情報があるのか?それともカマかけか?どっちにしろ何か俺から提供しなくては話が先に進みそうにない。たぶん金は求めてないんだろうな。だとしたら俺が渡せるものなんて何があるんだ?
 俺か悩んでいるのをじっと見つめる老婆だったが、なぜか突然クツクツと奇妙な笑いが漏れ出てくる。

「金と言い出さなかったのは褒めてあげるよ。だが何も持たないお前さんに情報はやれない。それともお前さん自身が対価となるかい?」

 ギョッとする婆ちゃんの提案。そ、それは……俺、売られるの?それとも食べられる!?
 でもそれじゃあ情報貰っても意味が無い……事はないのか。ユリアーネさんとリリィがいるのなら……いやいやいや、まてまてっ!!俺、まだ死にたくないし!でも情報は欲しいしっ!

「面白い子だね、気に入ったから少しだけチャンスをあげようじゃないか。黄色を三個持って来な、それ以上は負けられないね」
「待って!貴方の持つ情報は私達の欲しいものなのかしらぁ?」

 俺の両肩に手を置き抱きつく勢いで身を乗り出すユリアーネさん。狭いから仕方がないとはいえ大きなお胸様が当たってますけど!?ヤバイ、顔がにやけそう……今は我慢我慢我慢っ!!

「さぁてどうだろうねぇ。それを決めるのはお前さん達だろう?見たところずいぶんと困ってるようだけど、どうするんだい?払うのかい?払わないのかい?」

 俺の顔のすぐ隣、真剣な眼差しで老婆を見つめるユリアーネさん。この体勢いいなぁ、背中のおっぱいが……ムフフッ、ユリアーネさんの良い匂いがする。

「時間をくれない?」

 俺もこのままでいられる時間がもっと欲しいです!

「情報はね、鮮度が命だよ。明日の昼までは待つ、それ以上は無理さね」

「わかったわ」と言い俺から離れるおっぱい、あぁ……名残惜しい。回れ右をするとリリィを押してそのまま入り口へと向かうユリアーネさん、待っておっぱいさんっ!

「若いっていいことだねぇ」

 最後に聞こえた老婆の声はしみじみとしたものだった。俺の思考、詠まれたのかっ!?恥ずかしい……。

「黄色三個って何?」

 素朴な疑問をユリアーネさんにぶつけてみた。

「魔石は知ってるよねぇ?黄色は中級モンスターから獲れるんだけどぉ、一般の冒険者ではそれを狩るのは結構大変でねぇ。もちろんそれなりの値段がするものなのぉ。それが三個とかぁ、ふっかけ過ぎも良いところだわっ!」

 プリプリするユリアーネさんは初めて見たが、握り拳で明後日の空に怒る姿はとても可愛い。それにしても中級モンスターかぁ。まだモンスターって会ったことないけど、今の俺じゃ、まだ勝てないのかな。

 その後は街中に戻り、黄色の魔石を探して雑貨屋巡りをした。聞けば高価過ぎて需要が無いから普通は置いてないそうだ。そういうのはたとえ買い取っても金持ちの商人や貴族の所に流れるのだという。
 青、黄、赤と大きく分けて三段階に分かれる魔石の中で黄色の魔石は黄緑色から黄色を経てオレンジまでと最も種類が多く、値段に関しても一つで金貨三十~百枚を超える物まであるらしい。街中を巡りやっと見つけた一粒の黄色魔石は金貨四十五枚もしたので即決するわけにはいかず保留にした……高いよ。




「ぷふぁ~~っ、レイ君、おかわりぃっ!」

 宿の食堂でキューっと勢い良くエールを飲み干すヤケ酒気味のユリアーネさん。それを見つつリリィと三人でご飯を摘んでるとミカ兄達も帰ってきた。

「ソイツどうした?」

 壊れかけてるユリアーネさんに呆れながらも手に持つエールを煽りながらギンジさんが平然と聞いてくる。しかたなしに俺が今日の出来事を話せばミカ兄とギンジさんは大笑いし始めた。

「お前等、もっとうまく交渉できねぇのかよ。俺なら石一つまで負けさせるな!まぁ情報屋までたどり着いたのは褒めてやんよっ、飲め飲め!で?黄色三個だっけか?」

 ユリアーネさんの肩に手を回し ニマニマ とする嫌らしい笑顔を近づけると、反対の手で鞄を漁り握り拳を机の上へと乗せる。
 眉間に皺を寄せ、あからさまに不機嫌そうにミカ兄を見るユリアーネさんだったが、ミカ兄の手が開き ガラガラ と音がすると、それだけで何か分かったかのように ハッ として机に目をやる。

 そこにあるのは角の丸まった小石。色とりどりの魔石が二十個近く、照明の灯りを受けて綺麗な光を放っていた。

「なにこれっ!綺麗ねぇ~、ミカ兄一つ頂戴!」

 いやいやリリィさん、昼間値段聞いたよね?黄色魔石が二十個だとしたら最低でも……金貨六百枚!?ユリアーネさんも目を丸くして驚いている。
 しかもなんか赤いやつが一つ混ざってるぞ?それを見つけたリリィがすかさず手にとって眺めだす。

「ミカ兄っ!私これが良いっ、これ頂戴!」
「今夜俺の部屋に泊まるなら考えてやってもいいぞ?どうする?」
「じゃあいらない……」

 高価な魔石を石ころのように ポイッ と投げ捨てると プクッ とかわいく膨れて頬杖を突いてそっぽを向く。
 赤色魔石がいくらするか知らないけど黄色の魔石で金貨百枚まで行くんだ、それ以上すると思って間違いないだろう。一晩でそれだけ稼げるチャンスがあるって……女って凄いな!

「赤色なんてどぉしたのよ?私だって初めて見たわぁ」

「あぁ、前にギンジと二人で殺ったんだよ。あれは強かったな!なぁ、ギンジ」

「ああ、楽しかったね。またやりたいけど、なかなか会えないしね。それよりミカル、こんなとこで店を広げるのは良くないよ。周りの迷惑だ」

 確かにコレは金貨より遥かに高価なものだ、人目につくところで見せびらかす物ではないな。さすがギンジさん、常識人。ミカ兄とはこうしてバランス取ってるんだなぁ。

「わーったよ、しまうよ。ギルドじゃねぇんだからちょっとぐれぇいいじゃねぇかよ。んで、黄色三つは明日持って行け。どんな情報かは気になるが、お前達に任せるわ」

 これで対価は用意できた。明日また、あの陰気臭いところに乗り込まなくてはならないかと思うと少し憂鬱だが、良い情報だと願うとしよう。


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