黒の皇子と七人の嫁

野良ねこ

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第一章 動き出した運命の輪

31.ウサギの所有者

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 は~ぁ、私の悠々自適な人生もここで終わりかぁ。きっとこれから変態オヤジに嬲られて弄ばれる生活なんだろうなぁ……短かったなぁ。思えば楽しい事も少なかった。あの人間、レイさん達と一緒に行けばこんな事にはならなかったのかなぁ……まぁ、今更そんな事思っても仕方ないよね?

 私はあの森の街道でレイさん達と別れた後、お父さんの声を頼りに再び森の中を進んで無事合流する事が出来た……でも、その後すぐに人間に襲われ捕まってしまったの。
 その後はよくわからない──けど、町に連れて行かれて首輪を付けられ、オークションという見せ物会場で誰かに売られたみたい。

 あーあっ、結局はお母さんと同じ運命だったのかなぁ。せっかく綺麗に花咲いた所なのに……これから素敵な恋して、子供産んで育てて、幸せな暮らしが待っていると思ってたのになっ。
 私の頭の中にレイさんの顔が思い浮かび、そして消えて行く……人生って儚いよね。



 暗い部屋に置かれた檻の中、グルグルと私の頭の中を悲観した思いだけが駆け巡って行く。もう二度と自由など無いこれからの生活を思い、いっそ今、死んでしまいたいと思うがそんな勇気もなくて涙が溢れてくる。

 私を生き地獄へ送り込むため部屋の扉を開けて入ってきた黒い服の人間。いよいよ変態ご主人様とのご対面なのね……あぁ、やっぱり死にたい、誰か私を殺して!

「さぁ出るんだ、お前のご主人となる人がお待ちだぞ?そう悲観するな、あの御方は良い方だ。お前はラッキーだったな。精々頑張って仕えると良い」

 良い人って、何? 何が基準なの? 私を自由にしてくれるの?……そんな訳ないよね。だって金貨七千枚とか聞こえたもの、私だってそれが物凄く大金だって事ぐらい分かるわ。そんなお金出してまで買っておいて何もしないなんてわけ無いじゃない!
 私の純潔も奪われて毎日毎日弄ばれる日々が始まるんだわ……それは、楽しいのかしら?死んだ方がマシなのかしら?どちらにしても選択肢なんて私には無いわね。お父さんごめんなさい、私は地獄に行きます。一人ぼっちにしてしまうけど、お父さんはどうか元気に暮らして下さい。

 憂鬱な思いが重くのしかかり前を向く気力すら無く、足枷を付けられているかのような重い足取りで檻を出ると黒服に付いて行く。
 死刑台へと向かう廊下を進めば、扉の前で止まった黒服が丁寧にノックして部屋に入る。ここが私にとっての地獄の一丁目、どうせなら魂でも抜けてくれないかと思い深く、深く、溜息を吐き出してみたが、そんな都合の良いことは起きやしない。

「カミーノ伯爵、商品をお届けしました。どうぞお受け取りください。ほら、お前もご挨拶くらいしたらどうだ?これからお世話になる方だぞ?」

 何を言われようとも私の人生は終わったのだ。もう何でも良い、好きにしなさいよ。
 黒服を無視して俯いたまま立ち尽くす私。そう、私はただの物なのよ、物は何も考えちゃいけないわ。私は物……私は物……

「ふむ、近くで見るとますます美しいな、まぁ手続きも終わったし宿に戻るとしようか。慣れなくて煩わしいかもしれないが首輪は君の身元の保証となるからそのまま着けていてくれ。
 悲観したい気持ちは分かるが悪いようにはしない、顔をあげてごらん?」

「いつまでショゲてるんだ?ほら、さっさと行くぞっ馬鹿兎」

「はいっ」

 あれれ?今、 “馬鹿兎” って……なんか聞いたことのある声……いえ、レイさんの声が聞こえた。逢いたい想いが募り過ぎてとうとう幻聴まで聞こえるようになったのか、笑っちゃうよね。

──でも私、反射的に返事したけどなんで?


「…………えっ!?」


 不思議に思い、淡い期待を胸に恐る恐る視線を上げれば、にこやかに微笑む優しそうなおじさん。この人が私のご主人様、かな?
 そんなことよりも……その隣に立つ居るはずのない人に鼓動が跳ね上がる。

 癖のある黒い髪。私を見つめる黒い瞳と、呆れたような表情をする恋い焦がれた人の顔。


『レイさんがいる!!』


 そう認識した時には身体が勝手に動き出し、なりふり構わず全力で飛び付いていた!


▲▼▲▼


「レイさん!レイさん!レイさん!レイさん!レイさん!レイさん!レイさん!レイさん!レイさん!レイさん!レイさん!レイさん!レイさん!レイさん!レイさん!レ……「やかましいわっ!」……痛っぁぁ!」

 頭に手刀を叩き込んでも涙を浮かべて仰け反るのみで痛いほどに抱き付いて離れようとしない馬鹿兎。不安だったろうからいきなり飛びついて来たのはまぁいいとしても……叫び過ぎだろ。
 思ってた以上に精神的にやられていたようなので、仕方がないから今だけはこのままでいてやるか。

「なんでレイさんがこんなところに居るんですか?分かりましたっ、私、分かっちゃいました!レイさんが私のご主人様なんですね!そうなんですね!!キャーッ嬉しいわっ!
 私ね、ほらっ、もう変態ハゲ親父に嬲られて過ごすだけの死んだ方がマシな人生が待ってるんだぁと思ってたのにレイさんがご主人様だなんて!!ほらご主人様ならご主人様らしく再会のチュウをぶちゅっと、ほら早くぶちゅっとして……痛っ!オデコ腫れちゃうって!それ痛いって前から言ってるじゃないですかぁ。
 もぉ、照れちゃって~、仕方ないご主人様ですねぇ。レイさんがしてくれないなら私からしちゃいますよ!うふふっ……ひょっとれいひゃん?ほっへつままないれくらはいよ。ちゅうれきはいしゃなひれすか」

 いい加減やかましくなったのでほっぺを引っ張ってやる。相変わらず柔らかくてよく伸びるほっぺだな。

「お前のご主人様はこのランドーア・カミーノ伯爵様だ。俺の我儘を聞いてくださってお前を買ってくれたんだよ。ちゃんと言うこと聞くんだぞ?」
「え?うそ……」

 晴れた笑顔から一転、また不安そうな顔になり『冗談だと言って!』といった感じに涙目で俺を見上げる馬鹿兎──お前、いつまでくっ付いてるつもりだよ。

「大丈夫だよ、この人はお前の思ってるような人じゃない。酷いことなんてされたりしないぞ?安心してお仕えしろよ」

 いつまでも見つめ続ける馬鹿兎だが、どれだけ見ても現実は変わらないぞ?お前の主人はランドーアさんだ、少なくとも俺が借金を返し終わるまではな。

「二人は随分と親しいのだな。それでその事なんだが、彼女はティナの恩人なのだろう?ならば奴隷としておくのは申し訳ない、私としては解放しようと思うんだがどうだろう?君の気にしている金も心配要らない、私が自分の為に使っただけだから返す必要など無いよ。
 ただ解放してもまた捕まったら元も子もないから、保護だけはしてやってくれよ?」

「いえいえ、それは駄目です。俺が頼んだことです、俺自身が納得出来ません。お金は時間がかかっても必ず返します。それまではランドーアさんがコイツの主人ですよ。ただ、俺がお金を返し終えたなら、その時は解放してやってください」

「そうよ駄目よ。レイさんは頑張って借金返すんだから。そうすればずっと家に来るわ。借金が無くなっちゃったら会えなくなっちゃうじゃない」

 あの時の卑屈な薄ら笑いを浮かべるティナ。馬鹿兎の事で頭がいっぱいで忘れてた!ティナがおかしくなっていたんだった……。


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