黒の皇子と七人の嫁

野良ねこ

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第三章 騎士伯の称号

7.モニカの決意

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「卑怯者……」

 ベッドの上で枕を抱きしめ、頬を膨らます姿がとても可愛い。

「夜這いをかけるとどうなるのか分かったろ、ちゃんと反省しろよ?だいたい、そんな格好で来るなよ。何されても文句言えなだろ」

「何かされてもいいもんっ。ちゃんと覚悟してきたもんっ」

 目から下を枕で隠し恨めしそうな視線を向けてくるが、自分で言ってる意味が分かってるのか?何されてもいいならくすぐられても文句いうんじゃありません、ってな。恐らくコレットさんにでも煽られたのだろう。

「あのなぁ、そういうのはちゃんと好きな男にしてもらえよ。お互い好き合ってる者同士がする事じゃないのか?軽はずみに一晩だけとか、俺は賛成出来ないぞ」

「レイさんの馬鹿っ!ちゃんと好きだからしたかったのにっ!馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿ばかっ!」

 何言ってるんだ?この娘。指輪みれば嫁がいる事くらい分かるだろうに……俺のせいで失いましたが!
 妻帯者に好意を寄せても結果なぞ知れてるし、万が一受け入れられたらそれはそれで後が大変だと思うけどな。歯止めの効く俺で良かったな、じゃなかったら大惨事だぜ?

「モニカさんや、ちょっと落ち着こうか。君の好意は嬉しいよ、ありがとう。けど、その気持ちを押し付けるのは違くない?」

「そうだけど……けど、伝えなきゃ始まらないじゃないっ!それも駄目なの!?」

「駄目じゃないんだけどな、嫁さんいる人にそれは駄目なんじゃないのか?」

「お嫁さん居ても好きなものは好きなんだから仕方ないでしょっ!」

「いや、でもそれはですね……」

 その時だった……大きな音と共に開け放たれた扉、俺とモニカは思わず姿勢を正してしまった。

 そこにいたのは鬼のような形相のコレットさん、可哀想なほど激しく床を踏みしめ肩で風を切りながら近付いてくる姿に身の毛がよだつ。命の危険を感じて逃げるか逃げまいかと迷っているうちに目の前までやってきた彼女は、オーラが見えるほどの怒りを込めて仁王立ちで見下ろしてくる。その姿は憤怒の化身であるがの如く、視線だけで射殺されそうな勢いに背筋が凍りつき動けなくなった。

「うっだうだうだうだとっ、言い訳ばかりするんじゃないよっ!女がこうして来てるんだっ、恥をかかせるな!!抱くのか?抱かないのか!?ハッキリしなさい!!!!」

 実害すら出そうな威圧感に気圧され、抱いていた枕の陰に隠れるようにして小さくなって行くモニカ。怒りの直撃を受けた俺は恐怖のあまり下の方から漏れそうになるを必死で堪える。
 それでも返事をせねばとギギギッギギギッと骨が軋む音を立てつつもなんとか首を横に振れば、こめかみに指を当てたコレットさんがそれはそれは深いため息を吐き出した。

「腕も良い、顔も良い、アレも良い、けどハートが弱過ぎる。せっかくの良い男が台無しだわ。
 お嬢様、今日の所はお引き取りください。私が責任を持って調教しておきますっ」

 呆気に取られるモニカの手を取り立ち上がらせると、背中を押して部屋から追い出す。
 閉められた檻の中、残ったのは狩人となった兎さんと、獲物に成り下がる狼さん。その兎さんが不敵な笑みを浮かべて怪しく舌なめずりしているのが月明かりに映える。

 俺は植え付けられた恐怖から一歩も、いや指先の一つも動かす事が出来なかった。蛇に睨まれた蛙とはよく言ったものだ。あぁ、ユリアーネ、俺は今から君の元に送られるのかもしれない……。

 そして捕食者となった兎さんが俺に向かい手を伸ばし、細い指を巧みに使い皮を剥いでいく。やがて全ての皮が剥がされベッドに転がされると、馬乗りになった兎さんが自分の皮を脱ぎ始めた。
 ぼんやりとその姿を眺めていれば顔が近付き首筋に喰らい付いてくる……こうして俺は怖い兎さんの餌食と成り果てた。


▲▼▲▼


「おはようございます。よく眠れましたか?」

 俺の精気を絞り尽くし、良質な肌を更にツヤツヤとさせた兎さん……じゃなかった、コレットさんが起こしに来ると、気怠い体に鞭を打って起き上がり、いつもの服に袖を通す。
 熱くも絡みつくようなねっとりとした視線を感じたが『もう好きにして』との思いで何も言わないままに着替えを終わらせた。


「おはよう。昨日のパーティーは楽しかったな、是非またお願いするよ。
 それにしても少し顔色が良くないな、まだ体調が悪いのなら無理はしないでおくれよ。ゆっくり回復した後、仲間の所に戻るといい」

 朝から上機嫌なストライムさん、すぐ隣のケイティアさんは心なしか肌の艶が昨日より良いように見える。夫婦仲は良好なようで何よりです。
 それにも増してツヤツヤ肌のコレットさんは後ろで控えて澄まし顔。さっきケイティアさんがコレットさんを見つめていたので、恐らく昨晩のコトには気がついているのだろう。女の勘って怖いな。

 食事を終えるとランドーア夫妻が退出したのでモニカに向き直り教育の仕上げをする。

「昨日の夕食は沢山食べてたけど美味しかったかい?」

 話の意図を考えるが思いつかなかったようで素直にコクコクと首を振る。他に誰もいないからなのか、両手でティーカップを持つ姿は可愛らしいけどマナー違反だぞ?

「あの肉な、昨日モニカが狩った肉なんだよ?必死な思いでモニカが仕留めた子達は俺達の血となり栄養となって俺達の中で生き続ける。命を背負うというのはそういうことでもあるんだ。だから昨日モニカが刈り取った命は無駄ではない。自然とはそうして成り立っていることを忘れないでくれ」

 青い顔をして俯き何かを考えている様子のモニカ、やはり昨日可愛いと思った子供を食べたのは少なからずショックなんだろう。魔法の腕は熟練者レベル、あとは経験と修練だろう。
 心の方は俺がどうこう言える立場じゃないな、だいぶマシにはなった気がするが俺は心が弱い。

「それで、モニカはまだ冒険者を続けるのか?いままで冒険者の良い部分しか見て来なかった。だから楽しかったというのもあるんだろうけど、これから先は違う。昨日も言ったけど辛い事の方が多いかもしれないよ。それでも君は冒険者を続けられるのか?」

 顔を上げたモニカからは決意の色が伺えた。意志の篭る強い眼差しで俺を見つめて力強く頷く。
 彼女が考え決めたことだ、これ以上何か言えばその意志を穢すことになる。だから俺は何も言わずに席を立った。今日は蛙狩りからだな。


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