黒の皇子と七人の嫁

野良ねこ

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第三章 騎士伯の称号

10.土竜退治

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「おはようございます。よく寝れましたか?」

 この人は何故こんなにも清々しい顔をしているのだろう……不思議でならない。
 同じ時間をこの部屋で過ごして睡眠が足りてないはずなのに、俺はとても怠くもう少し寝ていたい気分だ。たが朝食に遅れるわけにはいかないので休みを訴える身体に鞭を打ち、渋々ながらも起き上がり着替えを済ます。


 コレットさんに連れられ食堂に顔を出せば、またしても俺が最後だったらしく注目を浴びてしまった。

「おはようございます、遅くなりました」

 席に着くまでの間にケイティアさんから意味深な視線を浴びせられた。
 どうしても気になってしまい横目で見ると、触り心地の良さそうな肌は心なしか昨日より更に艶やかに見える。

 だが、当のケイティアさんの興味は既にコレットさんへ。ほんの僅かにだけ細められた視線はコレットさんの肌を事細かに観察しているような気がしてならない。そう、コレットさんも昨日より肌艶が良いのだ。理由は言わずと知れずで、俺の精気を吸い取った所為だろう。女性はコトに及んだ翌朝は肌の具合が良くなるとは聞くが、あれは噂ではなく事実であった。
 と、言う事はつまりだ。清々しい顔をしてはいるもののストライムさんに疲労の色が見えるのは、そういう理由なのだろう。

 お疲れ様です……お互いに。

「コレット」

 食事の配膳が始まる中、手で覆われた口元にコレットさんが耳を寄せれば、ケイティアさんと二人で何やら内緒話が始まる。どうしても気になりその様子をチラチラ見ていると、どこからともなく小さな皮袋を取り出し、他人からは見えないようにケイティアさんの膝の上に置く。
 どう考えても怪しいとしか思えない取引が終れば二人で顔を合わせ、らしくない悪い顔でニヤリと笑い合った。

 そんなモノを見てしまえば嫌な予感しかしない。しかし務めて平静を保ち、美味しいはずの豪華な朝食を無言のままに頂いた。


「先日のゾルタイン襲撃事件の事で王都から連絡があった。レイ君も人が悪いな、君はあの事件の中心にいたらしいじゃないか。王宮側も町の被害対応だけで手一杯で詳しい情報を求めているそうだ。
 それで後日だが、君に王城への召喚命令が下されるだろう。私が王都まで送るようにとのことだったよ」

 食後のお茶の席でストライムさんが渋い顔をしながら話してくれた。ギルドマスターであるバーナルドさんから情報が回ったんだろう。まぁ説明責任はあるのかもしれないけど、あの人に話した以上には特に無いんだけどな。王宮からの召喚なら避ける事は出来ないか、仕方ない。

「黙っていたのはすみません。ただ言うべき事でもないと思っただけです。それでいつ頃呼び出されそうですか?」

「正確には分からんが一週間程度だろうな。それまではゆっくりしていると良いだろう。王都へは行ったことがあるのかね?」

「はい、一度だけですがオークションの帰りに寄りました。大きな街ですよね、迷子になりそうでしたよ」

 王都か……そういえばシャロの所に顔出さないとだな、そんなに時間が経っている訳ではないが元気してるだろうか?あぁ、占い師も顔出せとか言っていたけど、あっちはどうでもいいか。

 王都へ行くという事はヒルヴォネン家ともお別れになるって事だ。そう考えるとちょっと寂しくなるな。

「王都へ行った後、レイさんはお父様とまたこの家に帰って来ますか?」

 心配気に俺を見るモニカだが、俺にも帰りを待っている人がいる。命を助けられたとはいえ、いつまでも此処に居座る事は出来ないんだ。手紙は送ったが早く無事な顔を見せたいので、王都まで行ったのならそのまま帰路に就くだろう。
 だがここプリッツェレはレピエーネと違い移動だけで半月近くかかってしまう。おいそれと遊びに来れる場所ではないのが残念だな。

「まず間違いなく俺は仲間たちの元に帰ると思う。そうなるとモニカともなかなか会えなくなるだろうから、今のうちに沢山遊んでおこう。今日は何する?」

 明るく言ったつもりだったがモニカの心には重く響いたようで、萎んだ花のように元気がなくなり俯いてしまった。せっかくギルドでの仕事を認めてくれる人が出来たのに、あっという間に居なくなってしまう。モニカにはショックなのかもしれない。だからこそ、時間のある今のうちに出来る限りのことを一緒にやりたい。

「さぁモニカ、行こうっ」

 立ち上がり手を伸ばせばなんとも言えない複雑な顔を上げ、無理やりながらも微笑んだモニカが俺の手を取り席を立った。



「コレットさん、いいよ~っ」
「今度は負けませんっ!」

 畑に空いている小さな穴の一つに火魔法を送り込む。すると畑のいたる所に口を開けた無数の穴から一斉に炎が吹き出す。きちんとコントロールされた魔法の火は、使用者の意思により燃え移らないようにも出来るので畑で使っても安心なのだ。

「来た!それそれそれっ!!」

 炎に続き穴から飛び出す茶色の物体、あらかじめ作られた風魔法の玉がそれを目掛けて次々と放たれる。
 こうしちゃいられない。俺も負けじと白結氣を構え、作物のない畑を走り回りながら目標を斬り落として行く。

「モニカ何匹~?俺は四匹行けたよっ」

「ええ~~っまた負けた……私三匹!なんで魔法飛ばしてる私の方が少ないの!?レイさんズルしてない?」

 俺は普通に走って叩き斬ってるだけだ、イチャモンは受け付けません。モニカの魔法の扱いがですね……いや止めておこう。

 俺達は絶賛魔物退治中、決して遊んでるわけではない……決して。
 畑に現れる害獣のもっともポピュラーな奴、土竜の退治だ。その中でも食欲旺盛な〈トープフレッサー〉と言う体調二十センチ位の大型の土竜は数が多く、魔物としてはとても弱いのだが、畑の下に縦横無尽に掘られた長いトンネルの中を動き回るので退治するのが難しいのだ。

 今回の依頼のように休耕地であれば全部掘り返すというのも一つの手だが、作物に被害を与えず効率良く狩るには魔法を使うのが一番。
 強めの風を送り込んだり、コレットさんのようにキチンと魔法をコントロール出来る人は火を送り込む。すると驚いた土竜達が飛び出してくるので、そこを狙うって寸法だ。

「魔法を一度に沢山コントロールするのは難しいよ、頑張って練習することだな。もう一回行っとくか?」

「勝つまでやるわよっ!見てなさいっ、次こそ勝つから!コレットっ!」

 モニカが燃えていたのでしばらく土竜叩き……じゃなくて土竜退治をした。結局モニカが勝てることは無かったが最後の一回は引き分けだったとだけ言っておこう。手は抜いていない……飽きたからといって手を抜くなんて事はしていない、筈だ。


「魔法は訓練した時間と、使用回数だって俺の先生は言ってたぜ?少しでも時間があれば、どんな魔法でもいいから使うのを心がけることだ。あと、モニカは魔法が得意なんだから出来るだけ沢山の魔法を同時に操る練習をすると良いかもね。戦略も広がるし魔力も多くなっていくと思う。
 コレットさん、見本見せてくれる?モニカは穴に魔法入れてみて。大丈夫?ちゃんとコントロールするんだよ?」

 小さいとはいえコレットさんの周りに十もの風魔法の玉が浮かび上がる。これには流石に驚いたが、こんな事が出来るなら最低でもギルドランクBⅡは確定、BⅠやAだと言われてもおかしくないレベルだ。モニカと二人で狩りに出かけるのが暗黙ながらも認められているのはこのせいか。いやはや、とんでもないメイドだな。

 モニカが巣穴に火魔法を送り込めば再びトープフレッサーが何匹も飛び出してくる……こいつら、どんだけいるんだ?
 飛び出したトープフレッサー目掛けて正確に魔法の玉が飛んでいき次々と倒していくコレットさん、二つ外れたものの一度で八匹の土竜を倒していたのは流石だった。

「目標はコレットさんだな、頑張れよっ」

「すぐに出来るようになるもんっ!」

 そうかそうか、頑張れよ。魔法は日々の鍛錬こそが大事だからな。

 俺はあの日以来、一切の鍛錬をしてない。身体強化もしていない。これではユリアーネに怒られてしまう……ちゃんとしないと、な。


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