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第三章 騎士伯の称号
23.御前試合
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連れてこられた闘技場の控え室、魔法の使用もオッケーだったので魔留丸くんを取り出し予め身体強化をしておく。自分で魔法が作り出せない俺に取って準備は必要不可欠なのだ。
相手の実力がさっぱり分からないから準備は万端にしておくに限る。と、言っても後はすることがないのでストレッチをするくらいかな?
案内の騎士さんに連れられ薄暗い廊下を歩いて行けば コツコツコツ とブーツが床を叩く音が響きわたる。
「なぁ、近衛って強いのか?」
何気なく聞いてみると、歩きながら少し振り向きこちらを見た。
「そうですね、我々騎士の中の選ばれた者しか就く事が出来ない栄誉ある職です。王国騎士は現在二千人弱だと言われています。その中から選ばれた五十人と言えばその凄さが分かりますか?
さらにその中の三人の隊長は近衛三銃士と呼ばれ、一般的に近衛と言えば彼等のことを指します。そしてこの国最強の男『近衛隊長クロヴァン・ルズコート』が彼等のまとめ役として君臨しています」
誇らしげに騎士団を語る彼の憧れが近衛騎士団、ひいては近衛隊長ということだな。さて、どんな奴が出てくることやら。何にしろそれなりに強いだろうという事は分かった。舐めてかかると痛い目に合うな。
「でも貴方も凄いですねハーキース卿。武勲を挙げて貴族の仲間入りなんて俺には想像もつきませんよ。御前試合、頑張ってください」
通路の終わりで振り向き激励を送ると、そこにある扉を開いてくれた。
彼に見送られ進んだ先は眩しい陽の光と喧騒に包まれていた。
そこは〈コロッセオ〉と呼ばれる施設で直径百五十メートルの円形をした闘技場、周りを取り囲むように観客席が設置されており、どこの席からでも見やすいように階段状の造りで四階席まである。先程までいた会議場の巨大バージョンだ。
一部の区画にはガラス窓に囲われる部屋のようになった席があり、恐らくそれが陛下を初めとする貴族達の座る席なのだろう。
予め教えられた通り誰も居ない闘技場を観客の声援を浴びながら真ん中まで進む。観客席は物凄い人で溢れかえっていた。
世界最大の都市であるサルグレッド王国の人口が七万人に対しコロッセオの収容人数は四万人、危機的状況に陥った場合はここが避難所になるというので施設が広いのは分かるが、見た感じ観客席の八割は埋まっている。流れの商人や住居を固定しない冒険者もいるので一概には言えないが、この都市に住む人口のおよそ半数が集まっていることになるのだ。
御前試合の開催が決定されてからそこまで時間が経ってない筈なのに、これだけの人が集まるというのは言い得て妙な話し。もしかすると王都の人間が娯楽に飢えているのか、御前試合という言葉の響きが成せる技なのか、そのどちらかではなかろうか。
「お兄ちゃ~~んっ、頑張ってぇ~っ」
ビップルームの一つから身を乗り出し、喧騒を掻い潜って声を届けた奴がいる。肩までの艶々としたアッシュグレーの髪を振り乱し、遠くの俺に見えるよう力一杯手を振ってくれているのがココからでもよく分かる。
嬉しく思い、愛しき者に軽く手を振り返すと、こんな所でとんでもない事を言い放った。
「お兄ちゃ~~んっ、ちゃんと勝って私をお嫁さんにしてよぉ~っ!!」
一際目立っているビップルームのお嬢さんから放たれた一言、遠く離れている俺にまで聞こえる声だ。当然観客席の人間に聞こえない訳はない。
声援から野次混じりの冷やかしに変わったのは言うまでもないだろう……恥ずかしい。
しかし、突然あんな事を言い出したのはなぜだ?もしやとは思うがストライムさんが?アレは俺を鼓舞する為に言った冗談だと思っていたが……まさかの本気!?
まだ『モニカを嫁に』という想いこそ無かったが、それでも好きな女には変わらない。貴族の家を継ぐとか俺には無理なので考えないようにしていたが、それでも近いうちに別れてしまうというのも嫌なのは確か。
親の提案で貰えるのなら……貰っちまおう!後で泣いても知らないからな、ストライムさん?っつかヒルヴォネン家って貴族だよな、貴族って格式を重んじるんじゃないのか?一人娘が冒険者の嫁って……大丈夫なの?
会場が微妙な雰囲気に包まれた頃、俺とは対角線上にある扉が開いて人が出てきた。ここに来るということは対戦相手に間違いない。
ボサボサの短い白髪に不敵な笑いを浮かべる口元がニッと開いて白い歯を覗かせている。細身なのに羨むほどの筋肉の鎧を纏っており、肉体美に自身があるのか、上半身は裸だ。
手には槍の先に斧の頭が融合した変わった武器。あれは確かハルバードと呼ばれる物だが、常人では扱いきれないほどに斧部分が大きい。なんとなく “戦闘狂” そういう印象のする男だった。
⦅え~、それではこれより、皆様お待ちかねの御前試合を始めたいと思います。
先ず紹介するのは……知らぬ者はこの町にはいないでしょう。我等が王都サルグレッドを守る騎士団、その中から選ばれし精鋭中の精鋭しか入隊が許されぬ近衛騎士団の中でも無類の強さを誇る近衛三銃士が一人、ガイア・トルトレノ!!!⦆
司会進行役の男が、魔導具だろうか?手に短い棒のような物を持ち、それを口に当てながら喋るとコロッセオ全体に声が響き渡る。相手の紹介が終わると割れんばかりの声援が会場全体を埋め尽くし、耳を塞ぎたくなるくらいうるさい。
⦅対する相手は……本日、騎士の爵位を賜る事が決まったばかりの冒険者パーティー、ヴァルトファータのリーダーを務めるレイシュア・ハーキース!彼は先日、ゾルタインに襲撃をかけた魔族共を撃退した紛れもない英雄だっ!!⦆
見ず知らずの俺の紹介でも会場は熱い声援に包まれ「兄ちゃん頑張れ」という声が俺の耳に入ってくる。応援してくれる人がいるというのは嬉しい事、そんな中でもモニカの声はまたしても俺まで届いてきたので手を振り返しておいた。
それにしてもいきなり近衛の主力とは俺も高く見られものだな。ご期待に沿えるように頑張っちゃうぞ?
身体強化をゆっくりと強めて準備万端にしていく。奴の顔といい、感じる強さといい、どう考えても油断は出来ない相手だ。
⦅それでは……始めっ!⦆
合図と同時に突っ込んで来るガイア。吹きっ晒しの広い闘技場ということもありスピード自体はそこまで脅威に感じない。
小手調べのつもりかもしれないがモニカの期待に応える為に、頑張っちゃうぞ!
相手の実力がさっぱり分からないから準備は万端にしておくに限る。と、言っても後はすることがないのでストレッチをするくらいかな?
案内の騎士さんに連れられ薄暗い廊下を歩いて行けば コツコツコツ とブーツが床を叩く音が響きわたる。
「なぁ、近衛って強いのか?」
何気なく聞いてみると、歩きながら少し振り向きこちらを見た。
「そうですね、我々騎士の中の選ばれた者しか就く事が出来ない栄誉ある職です。王国騎士は現在二千人弱だと言われています。その中から選ばれた五十人と言えばその凄さが分かりますか?
さらにその中の三人の隊長は近衛三銃士と呼ばれ、一般的に近衛と言えば彼等のことを指します。そしてこの国最強の男『近衛隊長クロヴァン・ルズコート』が彼等のまとめ役として君臨しています」
誇らしげに騎士団を語る彼の憧れが近衛騎士団、ひいては近衛隊長ということだな。さて、どんな奴が出てくることやら。何にしろそれなりに強いだろうという事は分かった。舐めてかかると痛い目に合うな。
「でも貴方も凄いですねハーキース卿。武勲を挙げて貴族の仲間入りなんて俺には想像もつきませんよ。御前試合、頑張ってください」
通路の終わりで振り向き激励を送ると、そこにある扉を開いてくれた。
彼に見送られ進んだ先は眩しい陽の光と喧騒に包まれていた。
そこは〈コロッセオ〉と呼ばれる施設で直径百五十メートルの円形をした闘技場、周りを取り囲むように観客席が設置されており、どこの席からでも見やすいように階段状の造りで四階席まである。先程までいた会議場の巨大バージョンだ。
一部の区画にはガラス窓に囲われる部屋のようになった席があり、恐らくそれが陛下を初めとする貴族達の座る席なのだろう。
予め教えられた通り誰も居ない闘技場を観客の声援を浴びながら真ん中まで進む。観客席は物凄い人で溢れかえっていた。
世界最大の都市であるサルグレッド王国の人口が七万人に対しコロッセオの収容人数は四万人、危機的状況に陥った場合はここが避難所になるというので施設が広いのは分かるが、見た感じ観客席の八割は埋まっている。流れの商人や住居を固定しない冒険者もいるので一概には言えないが、この都市に住む人口のおよそ半数が集まっていることになるのだ。
御前試合の開催が決定されてからそこまで時間が経ってない筈なのに、これだけの人が集まるというのは言い得て妙な話し。もしかすると王都の人間が娯楽に飢えているのか、御前試合という言葉の響きが成せる技なのか、そのどちらかではなかろうか。
「お兄ちゃ~~んっ、頑張ってぇ~っ」
ビップルームの一つから身を乗り出し、喧騒を掻い潜って声を届けた奴がいる。肩までの艶々としたアッシュグレーの髪を振り乱し、遠くの俺に見えるよう力一杯手を振ってくれているのがココからでもよく分かる。
嬉しく思い、愛しき者に軽く手を振り返すと、こんな所でとんでもない事を言い放った。
「お兄ちゃ~~んっ、ちゃんと勝って私をお嫁さんにしてよぉ~っ!!」
一際目立っているビップルームのお嬢さんから放たれた一言、遠く離れている俺にまで聞こえる声だ。当然観客席の人間に聞こえない訳はない。
声援から野次混じりの冷やかしに変わったのは言うまでもないだろう……恥ずかしい。
しかし、突然あんな事を言い出したのはなぜだ?もしやとは思うがストライムさんが?アレは俺を鼓舞する為に言った冗談だと思っていたが……まさかの本気!?
まだ『モニカを嫁に』という想いこそ無かったが、それでも好きな女には変わらない。貴族の家を継ぐとか俺には無理なので考えないようにしていたが、それでも近いうちに別れてしまうというのも嫌なのは確か。
親の提案で貰えるのなら……貰っちまおう!後で泣いても知らないからな、ストライムさん?っつかヒルヴォネン家って貴族だよな、貴族って格式を重んじるんじゃないのか?一人娘が冒険者の嫁って……大丈夫なの?
会場が微妙な雰囲気に包まれた頃、俺とは対角線上にある扉が開いて人が出てきた。ここに来るということは対戦相手に間違いない。
ボサボサの短い白髪に不敵な笑いを浮かべる口元がニッと開いて白い歯を覗かせている。細身なのに羨むほどの筋肉の鎧を纏っており、肉体美に自身があるのか、上半身は裸だ。
手には槍の先に斧の頭が融合した変わった武器。あれは確かハルバードと呼ばれる物だが、常人では扱いきれないほどに斧部分が大きい。なんとなく “戦闘狂” そういう印象のする男だった。
⦅え~、それではこれより、皆様お待ちかねの御前試合を始めたいと思います。
先ず紹介するのは……知らぬ者はこの町にはいないでしょう。我等が王都サルグレッドを守る騎士団、その中から選ばれし精鋭中の精鋭しか入隊が許されぬ近衛騎士団の中でも無類の強さを誇る近衛三銃士が一人、ガイア・トルトレノ!!!⦆
司会進行役の男が、魔導具だろうか?手に短い棒のような物を持ち、それを口に当てながら喋るとコロッセオ全体に声が響き渡る。相手の紹介が終わると割れんばかりの声援が会場全体を埋め尽くし、耳を塞ぎたくなるくらいうるさい。
⦅対する相手は……本日、騎士の爵位を賜る事が決まったばかりの冒険者パーティー、ヴァルトファータのリーダーを務めるレイシュア・ハーキース!彼は先日、ゾルタインに襲撃をかけた魔族共を撃退した紛れもない英雄だっ!!⦆
見ず知らずの俺の紹介でも会場は熱い声援に包まれ「兄ちゃん頑張れ」という声が俺の耳に入ってくる。応援してくれる人がいるというのは嬉しい事、そんな中でもモニカの声はまたしても俺まで届いてきたので手を振り返しておいた。
それにしてもいきなり近衛の主力とは俺も高く見られものだな。ご期待に沿えるように頑張っちゃうぞ?
身体強化をゆっくりと強めて準備万端にしていく。奴の顔といい、感じる強さといい、どう考えても油断は出来ない相手だ。
⦅それでは……始めっ!⦆
合図と同時に突っ込んで来るガイア。吹きっ晒しの広い闘技場ということもありスピード自体はそこまで脅威に感じない。
小手調べのつもりかもしれないがモニカの期待に応える為に、頑張っちゃうぞ!
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