黒の皇子と七人の嫁

野良ねこ

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第四章 海まで行こう

41.虹色の石

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「隊長!船に接近する魚影三つです!」
「船長と呼べねぇのならテメェはクビだっ!だいたい魚影ってなんなんだ?魔物なのか?獲物なのか?ハッキリしやがれ!」
「判りませんっ!見たことのない奴ですっ」

 まだ食べ足りないとほざく食料を全て食い尽くす怪獣フラウを引っ張り甲板へと上がると、朝日を浴びてキラキラと輝く蒼い海が広がっていた。
 見渡す限りの水平線、しかし見た感じは何者も居らず、メインマストの監視台から指差す船員さんに従い目を凝らすものの、やはり何も見えない。

 遠くで黒い魚影が宙を舞った。アレは……鯨か?ドッパーンッと聞こえそうな勢いで水飛沫を上げ海中へと消えて行く。

「ありゃ~シャチじゃないか?あいつ等気まぐれだからなぁ。襲って来ないといいんだが」

 船長が言い終わるかどうかの時にフラウが俺の手を振り払い船縁へと走り出した。そのまま手摺を踏み台にして飛んだ先は当然のように海、綺麗な放物線を描き五メートル下の海へとダイブする。

「お、おいっ!ねぇちゃんっ!!」

 船員さんの慌てた声がいくつも聞こえ、慌てて海面を覗き込む人も居るが自分から飛び出したんだ、大丈夫だろ?

 しばらくすると遠くで海から飛び出す人魚の姿が見えたかと思うば、まるでその真似をするかのように、その周りで次々とシャチの黒い魚体が宙を舞う。
 驚いたのはその後だ。フラウの体がニュッと海面に突き出たかと思うと、そのままの姿勢を維持して物凄いスピードでこっちに向かいやってくる。

 近くまで来てようやく分かった。フラウはシャチの口の先に尻尾で立ち、両手を広げてバランスを取りながら海の上を滑るように移動して来たのだ。

「何アレ!?すっご~いっ!私もやりたい!」

 いやいや、モニカさん。アレってシャチが口を開けたらパクリですよ?それは駄目です。

「ヒャッホーーーーイッ!!」

 俺の心配とは裏腹に楽しそうなフラウの声が聞こえ、船の上からは歓声さえ上がっている。
 なんだよ、随分と楽しそうじゃないか。

「レ~~イッ!降りて来なよっ!乗せてくれるって~!一緒にやろぉっ」

 フラウが呼ぶ声が聞こえてくるので船縁から覗き込むと、蒼い海に浮かぶ青い髪の人魚が手を振っている。その周りを囲むように黒い体に白いお腹のシャチがフラウの真似をして水面から顔を出し、キュイキュイと甲高くも可愛らしい鳴き声を上げている。

「かっわいいっ!!フラウさーんっ!私も行っていい?」

 手摺から落ちるかと言うほどに乗り出すモニカを後ろから捕まえていたが、フラウがチョイチョイと手招きをしやがる。そんな事をされれば満面の笑みのモニカがすぐさま海へと飛び込んだのは言うまでもないだろう。

 仕方がないので俺もモニカに続き海へとダイブすると、海中でゴンゴンと鼻先を押し付けて来る体長が四メートルはあろうかという大きなシャチ。その身に似つかわしくない真っ黒でクリクリとした小さな瞳が俺を見つめ、キュッと鳴く声が耳に届く。海中の方がよく聞こえるんだな。
 可愛くて鼻先を撫でると嬉しそうに突つき返して来る。何これ!メッチャ可愛いじゃん!?誰?襲うとか言ったの!

「やっほーーーいっ!!」

 海上へ顔を出すと背中に飛び出たシャチの背びれに掴まり、海の上を楽しそうに走り回るモニカがいた。

「サラも来いよ!メッチャ可愛いぞ!!コレットさんもっ」

 ドボンッドボンッと水飛沫が上がり飛び込む音がする。あれ?数が多いと思ったらランとリンもシャチに触りキャーキャー言っていた。


▲▼▲▼


 陽の光で蒼い海がオレンジに染まる頃、ミョルニル号は出発した港に帰って来た。船から降りるとフワ~フワ~と身体が揺れている感覚がして面白い。

「お前等には感謝してもしきれないよ。船が必要な時はいつでも言ってくれ、俺達の出来ることならなんでもするぜ?」

 そう言って手を差し伸べるアラン船長の手を握り返す。
 副船長以下二日を共にした乗組員達に別れを告げて迎えに来ていた馬車へ向かおうとした時、背後から肩越しに手が回り俺に抱き付く奴がいた。

「もう一回借りるよっ!返却は明日の朝ねっ」

 そのまま桟橋脇の海中に投げ落とされたかと思った直後、急激に頭にのし掛かる水圧。力任せに身体が回されたかと思いきや、唇に柔らかな感触がする。薄目を開ければ拉致した張本人の笑顔。言葉も発せられず身動きもままならない、せめてもの抗議としてジトーとした目を向けてやるがそれですら嬉しいかのようにニコリと微笑む……予告は無いのか!予告は!

 されるがままに連れてこられたフラウの家だと言う洞窟、息つく間もないままに天蓋付きのベッドのある部屋に連れ込まれた。

「なぁ、一言くらい無いのか?」
「言ったら駄目って言うでしょ?それくらい分かってるんだからねっ!それより、もう帰るんでしょ?」

 ん?帰る?ここに来たばかりなのに宿に帰っていいのか?ならなんで拉致なんてしたんだ?

「違うわよ。レイの家に帰るって話よ。ここに来た目的はもう果たしたんでしょ?なら帰るんじゃないの?それとも私とずっとここに居てくれるの?」

 ここに来た目的?話は出来なかったがアリサには会えたし、あとなんだっけ?封印石?そっちはまるで手がかりが無いな。あの占い師が言い出した事だしそっちは別にどうでも良いんだけどな。

 差し出されたフラウの手のひら、握られていたのは星型をした虹色に輝く綺麗な石だった。
 虹色の石なんて珍しい物持ってるな。見せびらかしたりして、俺にくれるのか?

「貴方の求めてる物よ。レイにならあげてもいいと思ったから持って行きなさい」

 俺の手を取り虹色の石を握らせると満足げに笑みを浮かべる。

「私の大事な物を貴方にあげる。見返りは勿論くれるわよね?今夜は寝かさないからっ!」

 チロっと出した舌を左端から右端へと移動する。その動きから目を離すことが出来ずに見ていれば、誰かさんに襲われたプリッツェレの夜を思い出してゾクリとした。

 フラウは俺に近寄りゆっくりと服を脱がせ始める。こうして長い夜は彼女と共に始まりを迎えた。


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