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第七章 母を訪ねて三千里
幕間──シンデレラ・ノア 後編
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翌る日、レイ様は「用事がある」と言い残し、朝食が終わるとすぐに私を置いてお出かけになりました。
一人きりになるとなんだか夢のような生活が終わってしまったような気がしてレイ様と共にしたベッドでゴロゴロとしてましたが、レイ様も居ないのに仕事をサボっていては流石に不味かろうと部屋の掃除をして、今夜も天国に連れて行ってくれるのかなぁなどと淡い期待を胸にベッドメイキングをしていると、ツィアーナさんが呼びに来たので後に付いて庭へと向かいました。
「これがあの男のお気に入りか。キツネなんてありふれた種別だがそこそこ可愛い娘だな、クククッ」
突然目の前に現れた男の人は怯える私の顎を持ち上げ、品定めするように見てきます。
『レイ様、助けてっ!』
怖くなり動かない足を無理矢理にでも動かし逃げようとする私を、事もあろうかツィアーナさんが羽交い締めにします。
「嫌っ!離して!!ツィアーナさんっ、何でっ?どうして!?」
そこは庭でも目立つ場所、作業していた人達が呼んだのかその騒ぎを聞きつけた屋敷の人達が集まって来ました。
駆け付けた男の獣人さんが私を助けようとしてくれましたが、女であるはずのツィアーナさんに簡単にあしらわれてしまいます。それも片手で私を羽交い締めにし、残りのたった一本の手だけで……。
「ツィアーナ!何故君がっ!ジェイアス!どういうことか説明してくれ!!」
ご主人様と男の人は知り合いのようでしたが、どういうわけか仲違いをされたようです。
「この娘の彼氏が嗅ぎまわってるのに気付いてたかしら?ちょっとやり過ぎて秘密がバレちゃったみたい、残念ね、男爵」
ご主人様が悔しそうにしていると私の王子様が空から降って来ました。呼びかける私に笑顔をくれます。
「今助けるから少しだけ待ってろ」
私は捕まっている筈なのにその事も忘れ胸が キュンッ としました。レイ様が助けに来てくださった!昨日の約束を守ってくださった!
でもその時でした。銀狼に変身したミアちゃんが私を助けようとツィアーナさんに飛びかかったのです。
しかし男の人でも敵わなかったのにミアちゃんが敵うはずもなく、呆気なくあしらわれて魔法まで撃ち込まれました……私はそれを黙って見てるしかありません。なんと無力な存在、この時ほど自分の力の無さに愕然としたことはありませんでした。
でも、それを見て怒ったレイ様はあっと言う間に私を助け、ミアちゃんも抱き起こしたのです。
なんてお強い、さすが勇者様!
ミアちゃんと二人で大好きなレイ様に抱き付くとレイ様も私達を優しく抱きしめてくださいます。私の独占じゃなくなってしまったけど、それでも構いません。
そんな時、一台の魔導車が庭の中を走って来たかと思うと、その中からレイ様と一緒にいた本物のお姫様達が現れて、事件の犯人である男の人に戦いを挑み始めました。
最初に飛び出した両手に剣を持った金髪の女性は犯人の男を物ともせず剣で押し切り、続いてグレーの髪の女の人が水で出来た蛇を作り出したのにはびっくりしました。銀髪のサラ姫様は火の魔法でどっかんどっかんと犯人を痛ぶり、最後にはオレンジの髪の女性が眩しい雷を撃ち出したのです。
唖然や呆然とはこの時のためにある言葉ではないかと言うほどに凄い魔法で、滅多打ちにされた犯人さんは黒焦げになり地面に倒れ込みました。
でももっと驚いたのは、レイ様に連れられて犯人さんに近付いたとき、声をかけて来た金髪の女性が「物足りない」と言ったことでしょう。あれだけ凄い戦いをして尚まだ足りないと言われる……レイ様のお連れ様は本当に凄い人達ばかりなのですね。
その後のイオネ姫様の話によれば、どうやらご主人様も悪い事をしていたらしく裁きを受けるようです。
ですが屋敷のみんなの嘆願叶い恩赦が認められたようです。難しい話は分かりませんが、そんな感じでした。
亡くなったツィアーナさんのお墓の前にいたジェルフォさん。どうやらお二人は親密な仲だったようです。愛する人を亡くす痛みは分かりませんがジェルフォさんが言った『レイ様の旅』その一言がレイ様との別れを連想させ ズキンッ と激しく胸に刺さりました。
レイ様は多分、ご主人様の悪事を暴く為にここにいらっしゃった。じゃあその仕事が終わったのなら……ここに留まる理由は、無い。
ミアちゃんとご主人様も来て四人でお話ししています。どうやらミアちゃんと入れ違いで屋敷を出て行ったアリシアさんの所に、ミアちゃんとレイ様の二人きりで向かうようです。
ミアちゃんいいなぁと思うと同時に、レイ様がこの屋敷を出る事をはっきりと認識した私の胸は誰かが ギュッ と握りつぶそうとしているのではないかというほどに締め付けられます。
──レイ様とお別れ
そう、 “ノアという名のシンデレラ” に掛けられた魔法は “レイ様の旅立ち” という鐘の音と共に消え失せるのです。
後に残るのはいつも通りの不出来なメイドキツネ。夢の時間は終わりを告げ、レイ様という初めて好きになった人との別れの時なのです。
ズキズキと訴える心の痛みを抑えながら少しでも傍に居たくてレイ様に着いて行けば、金髪の女性とオレンジ髪の女性が戦っていました。
金髪の女性が言われたように犯人さんと戦った時よりもっと激しい音を立てています。身内同士で戦うのですからあれでも加減をしているのでしょう。
──守られるだけの私とは住む世界が違うんだ
改めてそう感じてしまい更に胸が痛んだ所に追い打ちがかけられます。
サラ姫様はレイ様の婚約者なのは知っていました。ですが二人のお話を聞いているとサラ姫様も、戦ってるお二人も、そしてサラ姫様の隣に居るグレーの髪の女性も……みんな綺麗な人ばかり、そしてみんなレイ様のモノ……。
──敵う筈がない
──レイ様が私なんかを好きになる筈がない
──だってこんな綺麗で凄い人達が傍にいるんですもの
私はこの屋敷にいる間限定の……そう、ペットなのだと改めて気が付きました。シンデレラの魔法が解けた私など、何の魅力もないでしょう。
ここは物語の中ではなく現実の世界、王子様と釣り合うのはお姫様だけなのです。
──だから私はこの気持ちを胸に生きていきます
ですがそんな私にレイ様は「一緒に来ないか」と誘って下さいます。
それはもう夢のようなお言葉。
さっきまでの不安はなんだったのかと言いたくなるようでした……ですがレイ様の傍に立つ女性達が目に入った時、現実というものが見えてしまいました。
──レイ様も私とは住む世界が違う方……
現実をしっかりと目に焼き付けた私は笑顔でお礼とお別れを言いました。ですが意外な事にレイ様が食って掛かって来たのです。
お別れをすると決めた心と、傍に居たいという気持ちがぶつかり合い、とうとう涙が出てしまい……隠しておこうと決めていた本音まで晒してしまいました。
でも……それでも私がレイ様と一緒にいると邪魔なだけだと自分に言い聞かせサヨナラを告げると、その場から駆け出し自分の部屋に逃げ込みました。
晩御飯も食べずに泣き腫らし少しはスッキリしたのか、次の日には叱られるのを覚悟でご主人様のところに謝りに行くと優しく抱きしめられ頭まで撫でてくれます。
「みんなお前の事は分かってる。心が落ち着くまで無理して働かなくていいから好きなだけ休んでいなさい」
優しい言葉をかけられまた涙が出そうでしたが、それに甘えると二度と動けなくなりそうだったので「大丈夫です」とお断りして普段通りの仕事に戻りました。
──数日後の事です。
箒を片手に何気なく見た外にはレイ様と一緒にお昼寝した思い出の木。その根元にはレイ様と二人、寄り添っている様子が目の裏に浮かんできます。
⦅またなっ⦆
暖かな日差しの中、開け放たれた窓から風が入って来たかと思うと、レイ様の声が聞こえた気がしました。
えっ?と木を見上げるとそよ風では揺れるはずのない太い枝がユサユサと揺れているのに目が丸くなります。
──まさか、もう帰ってきた!?
あるはずのない事に胸が膨らみ窓に駆け寄り外を見ますが愛しいレイ様の姿など当然のようにありはしません。
「あははっ、何が大丈夫よ……がんばれ、わたし」
独り言を呟いて心を落ち着かせると、開けられていた窓をゆっくりと閉めました。
レイ様、いつかの日を心待ちにしております……
そのときまで、お元気で。
一人きりになるとなんだか夢のような生活が終わってしまったような気がしてレイ様と共にしたベッドでゴロゴロとしてましたが、レイ様も居ないのに仕事をサボっていては流石に不味かろうと部屋の掃除をして、今夜も天国に連れて行ってくれるのかなぁなどと淡い期待を胸にベッドメイキングをしていると、ツィアーナさんが呼びに来たので後に付いて庭へと向かいました。
「これがあの男のお気に入りか。キツネなんてありふれた種別だがそこそこ可愛い娘だな、クククッ」
突然目の前に現れた男の人は怯える私の顎を持ち上げ、品定めするように見てきます。
『レイ様、助けてっ!』
怖くなり動かない足を無理矢理にでも動かし逃げようとする私を、事もあろうかツィアーナさんが羽交い締めにします。
「嫌っ!離して!!ツィアーナさんっ、何でっ?どうして!?」
そこは庭でも目立つ場所、作業していた人達が呼んだのかその騒ぎを聞きつけた屋敷の人達が集まって来ました。
駆け付けた男の獣人さんが私を助けようとしてくれましたが、女であるはずのツィアーナさんに簡単にあしらわれてしまいます。それも片手で私を羽交い締めにし、残りのたった一本の手だけで……。
「ツィアーナ!何故君がっ!ジェイアス!どういうことか説明してくれ!!」
ご主人様と男の人は知り合いのようでしたが、どういうわけか仲違いをされたようです。
「この娘の彼氏が嗅ぎまわってるのに気付いてたかしら?ちょっとやり過ぎて秘密がバレちゃったみたい、残念ね、男爵」
ご主人様が悔しそうにしていると私の王子様が空から降って来ました。呼びかける私に笑顔をくれます。
「今助けるから少しだけ待ってろ」
私は捕まっている筈なのにその事も忘れ胸が キュンッ としました。レイ様が助けに来てくださった!昨日の約束を守ってくださった!
でもその時でした。銀狼に変身したミアちゃんが私を助けようとツィアーナさんに飛びかかったのです。
しかし男の人でも敵わなかったのにミアちゃんが敵うはずもなく、呆気なくあしらわれて魔法まで撃ち込まれました……私はそれを黙って見てるしかありません。なんと無力な存在、この時ほど自分の力の無さに愕然としたことはありませんでした。
でも、それを見て怒ったレイ様はあっと言う間に私を助け、ミアちゃんも抱き起こしたのです。
なんてお強い、さすが勇者様!
ミアちゃんと二人で大好きなレイ様に抱き付くとレイ様も私達を優しく抱きしめてくださいます。私の独占じゃなくなってしまったけど、それでも構いません。
そんな時、一台の魔導車が庭の中を走って来たかと思うと、その中からレイ様と一緒にいた本物のお姫様達が現れて、事件の犯人である男の人に戦いを挑み始めました。
最初に飛び出した両手に剣を持った金髪の女性は犯人の男を物ともせず剣で押し切り、続いてグレーの髪の女の人が水で出来た蛇を作り出したのにはびっくりしました。銀髪のサラ姫様は火の魔法でどっかんどっかんと犯人を痛ぶり、最後にはオレンジの髪の女性が眩しい雷を撃ち出したのです。
唖然や呆然とはこの時のためにある言葉ではないかと言うほどに凄い魔法で、滅多打ちにされた犯人さんは黒焦げになり地面に倒れ込みました。
でももっと驚いたのは、レイ様に連れられて犯人さんに近付いたとき、声をかけて来た金髪の女性が「物足りない」と言ったことでしょう。あれだけ凄い戦いをして尚まだ足りないと言われる……レイ様のお連れ様は本当に凄い人達ばかりなのですね。
その後のイオネ姫様の話によれば、どうやらご主人様も悪い事をしていたらしく裁きを受けるようです。
ですが屋敷のみんなの嘆願叶い恩赦が認められたようです。難しい話は分かりませんが、そんな感じでした。
亡くなったツィアーナさんのお墓の前にいたジェルフォさん。どうやらお二人は親密な仲だったようです。愛する人を亡くす痛みは分かりませんがジェルフォさんが言った『レイ様の旅』その一言がレイ様との別れを連想させ ズキンッ と激しく胸に刺さりました。
レイ様は多分、ご主人様の悪事を暴く為にここにいらっしゃった。じゃあその仕事が終わったのなら……ここに留まる理由は、無い。
ミアちゃんとご主人様も来て四人でお話ししています。どうやらミアちゃんと入れ違いで屋敷を出て行ったアリシアさんの所に、ミアちゃんとレイ様の二人きりで向かうようです。
ミアちゃんいいなぁと思うと同時に、レイ様がこの屋敷を出る事をはっきりと認識した私の胸は誰かが ギュッ と握りつぶそうとしているのではないかというほどに締め付けられます。
──レイ様とお別れ
そう、 “ノアという名のシンデレラ” に掛けられた魔法は “レイ様の旅立ち” という鐘の音と共に消え失せるのです。
後に残るのはいつも通りの不出来なメイドキツネ。夢の時間は終わりを告げ、レイ様という初めて好きになった人との別れの時なのです。
ズキズキと訴える心の痛みを抑えながら少しでも傍に居たくてレイ様に着いて行けば、金髪の女性とオレンジ髪の女性が戦っていました。
金髪の女性が言われたように犯人さんと戦った時よりもっと激しい音を立てています。身内同士で戦うのですからあれでも加減をしているのでしょう。
──守られるだけの私とは住む世界が違うんだ
改めてそう感じてしまい更に胸が痛んだ所に追い打ちがかけられます。
サラ姫様はレイ様の婚約者なのは知っていました。ですが二人のお話を聞いているとサラ姫様も、戦ってるお二人も、そしてサラ姫様の隣に居るグレーの髪の女性も……みんな綺麗な人ばかり、そしてみんなレイ様のモノ……。
──敵う筈がない
──レイ様が私なんかを好きになる筈がない
──だってこんな綺麗で凄い人達が傍にいるんですもの
私はこの屋敷にいる間限定の……そう、ペットなのだと改めて気が付きました。シンデレラの魔法が解けた私など、何の魅力もないでしょう。
ここは物語の中ではなく現実の世界、王子様と釣り合うのはお姫様だけなのです。
──だから私はこの気持ちを胸に生きていきます
ですがそんな私にレイ様は「一緒に来ないか」と誘って下さいます。
それはもう夢のようなお言葉。
さっきまでの不安はなんだったのかと言いたくなるようでした……ですがレイ様の傍に立つ女性達が目に入った時、現実というものが見えてしまいました。
──レイ様も私とは住む世界が違う方……
現実をしっかりと目に焼き付けた私は笑顔でお礼とお別れを言いました。ですが意外な事にレイ様が食って掛かって来たのです。
お別れをすると決めた心と、傍に居たいという気持ちがぶつかり合い、とうとう涙が出てしまい……隠しておこうと決めていた本音まで晒してしまいました。
でも……それでも私がレイ様と一緒にいると邪魔なだけだと自分に言い聞かせサヨナラを告げると、その場から駆け出し自分の部屋に逃げ込みました。
晩御飯も食べずに泣き腫らし少しはスッキリしたのか、次の日には叱られるのを覚悟でご主人様のところに謝りに行くと優しく抱きしめられ頭まで撫でてくれます。
「みんなお前の事は分かってる。心が落ち着くまで無理して働かなくていいから好きなだけ休んでいなさい」
優しい言葉をかけられまた涙が出そうでしたが、それに甘えると二度と動けなくなりそうだったので「大丈夫です」とお断りして普段通りの仕事に戻りました。
──数日後の事です。
箒を片手に何気なく見た外にはレイ様と一緒にお昼寝した思い出の木。その根元にはレイ様と二人、寄り添っている様子が目の裏に浮かんできます。
⦅またなっ⦆
暖かな日差しの中、開け放たれた窓から風が入って来たかと思うと、レイ様の声が聞こえた気がしました。
えっ?と木を見上げるとそよ風では揺れるはずのない太い枝がユサユサと揺れているのに目が丸くなります。
──まさか、もう帰ってきた!?
あるはずのない事に胸が膨らみ窓に駆け寄り外を見ますが愛しいレイ様の姿など当然のようにありはしません。
「あははっ、何が大丈夫よ……がんばれ、わたし」
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