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第九章 大森林に咲く一輪の花
15.軍人とはこれ如何に
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振り下ろされたレイピアと同時に周りの空気を歪ませる程の勢いで放たれた、九人分の魔力を合わせた超強力な火魔法。
「くっ……」
光魔法かと思うほどに眩しく輝く炎の柱が現れた次の瞬間には行く手を阻む無限氷壁へと接触し、猛烈な勢いで高まる温度を一定に保とうと大量に消費されて行く魔力の反動に歯を食いしばった。
「冷たっ」
三十センチほど喰い込んだ収束砲の光が無限氷壁全体に映り込み幻想的な輝きを放つ中、無意識に伸ばしたティナの手が氷壁に触れた事に自分で驚き手を引っ込めたので笑みが零れたが、根こそぎ奪われるのではないかと心配になるほどに雄大な滝の如く流れ出て行く魔力に意識が朦朧とし始める。
ビキキキキキキッ
そんな俺を引き戻したのは他ならぬ力比べ真っ最中の収束砲だった。
最後の一押しなのか、炎の柱が一回り太くなると同時に無限氷壁全体に雷を閉じ込めたかのような大きな亀裂が走り、そこから更に細かなヒビが所狭しと入って行く。
「大丈夫、なの?」
亀裂に乱反射する光が先程とは一味変えた演出をするのを横目に、それでも心配そうに見上げる彼女の頭を抱き寄せると言葉無くとも安心してくれたようだ。
抱きついたままに氷壁へと顔を向けると一瞬後には骨も残さず消えて無くなるかもしれないと言うのに「綺麗ね」と呟く声が聞こえる。
ジワリジワリと押し入り氷壁の中程まで移動した接触地点へと魔力を集中させるのに精一杯で、亀裂を直している余裕などありはしない。
右手に在る守りたい者と、左手に有る頼るべき物に『俺は負けない!』と改めて誓うと、無意識に流れ出す魔力を自らの力で押し出すように身体の奥底に眠る魔力を叩き起こして総動員させ白結氣へとねじ込んだ。
パキキッ!! パァァァァァァンッ
俺の魔力の増加に呼応するかのように、それと同時に全てを飲み込み焼き尽くさんと輝きを増してもう一回り太くなった炎の柱。対する無限氷壁も負けじと光を帯びると、魔力の集中する焦点付近以外は耐えきれず砕け散ってしまう。
「レイっ!?」
「負けないっ!」
極限まで集中力を高めると握りしめた白結氣が俺の想いに応えて更に輝きを増す。
「うぉぉおぉおぉぉぉっ!!!」
それに伴い無限氷壁も発する光を強めると、長かったような短い収束砲の照射が ピタリ と止むと同時に、目が眩むほどの光が急激に鳴りを潜めて静寂がその場を支配した。
後に残ったのは収束砲との接点となっていた人間の身長程の円筒形の氷。
しかしそれも戦いの終わりを悟った俺の気が抜けると、霧のように細かな破片へと姿を変えて吹き抜ける微風に流され消えて行く。
「我々は……負けた、のか?」
収束砲に晒された俺とティナが無傷で立っているということは、マーゴットの呟きの通り俺達の勝ちという事に他ならない。
愕然と立ち尽くすマーゴットと、息を荒げてしゃがみ込んでしまったサラマンダーの女の子達の中心で膝を突き、肩で息をするミルドレッドを視認して勝利を確信すると、ホッと一息吐いた。
ティナを連れて彼女達の元に歩み寄るが、マーゴットは余程ショックだったのか反応すらしてくれず放心したまま。
しかし、芯の強そうなミルドレッドは無理矢理息を整えてよろよろと立ち上がると俺達の前に進み出た。
「はぁはぁ……私達の、負けを認めます。
ですが、私が貴方の言いなりになりますので、どうかこの子達には手を出さないで下さい。
私はどの様な仕打ちも抵抗することなく素直に受け入れると誓います。ですから、どうかこの子達には……」
「あのさ、俺達は魔族じゃなくて……」
「せぃっ!!」
戦闘の終わりを感じ完全に油断していたが、それでも遅れを取る事はなかった。
細身の剣だけあって振り上げられた剣速はなかなかのものだったが、左手一本で鍔を押し上げ少しだけ顔を覗かせた白結氣の刀身でレイピアを受け止めると、不意打ちというやり方に顔を歪ませたティナが飛び出し、持ち手を守る護剣部分に一撃を入れて叩き落とす。
「くっ!」
悔しそうに歪ませた顔面へと突き入れられた拳に「あっ!?」と思った時には既に遅かったが、怒りに任せて振り抜かれることはなく、寸止めされて目を丸くしたところに鳩尾へのキツイ一撃が入り呼吸困難になったマーゴットは腹を押さえながら尻餅を突くことになった。
「お願いします!それ以上はお止めくださいっ」
他の子と違い意識を奪われなかったのは流石指揮官だと褒められたものだが、自分もキツイ筈なのに自分の上官の為にすかさず間に入って両手を広げたミルドレッドには頭が下がる思いだ。
冷ややかな目で彼女を見るティナの頭に手を置き「そこまでだよ」と分からせると、まだやり足りないと握られていた拳を降ろしケイリスフェラシオンの魔力を解いてくれる。
「さっきも言いかけたけど俺達は魔族じゃなく人間だ。君達が何を想像していたのか知らないけどお願いするのはこっちの方らしいから、まずはウチの外交担当と話をしてもらえないかな?」
俺が何を言い出したのか理解出来ず キョトン とするミルドレッドに笑顔を向けると、魔力を消費し過ぎて怠い身体をティナに預けながらも左耳にぶら下がる通信具に手を添えた。
「ララ、戦闘は終わったからエレナにアリシアを連れて降りてくるように伝えてくれる?……うん、よろしく」
向こうでも戦闘が終わったのを感知していたのか、エレナと手を繋いだアリシアがすぐに姿を現したのだった。
上空に停滞している風の絨毯から空を飛んでやって来た二人に驚き、その姿に目を見開くサラマンダーの女の子達。
すぐ隣に降り立ったエレナは、ようやく息の整いかけた俺の前で両手を腰に当てると風船の如く目一杯まで頬を膨らませた。
「なんで私は置いてけぼりなんですか!?私だって前衛です。ティナさんだけ連れて行くなんてズルイじゃないですかっ!」
何故そこまで怒るのかは知らないが自分の不満を最大限にアピールしてくる。俺はただ君が熱心に講義を受けていたからティナだけを連れて来たんだけどなぁと白い目を向けつつ、それでも不満に思うものは仕方ないかと諦めた。
「ほら、エレナが得意なのは槍だろ?それだと相手を止めるのには不向きだ。だから……」
「何故獣人王家と魔族が一緒に居るんだ!?これは一体どう言うことなのか説明を求める!!」
それほどダメージは受けなかったのか、俺達の痴話喧嘩など耳に入らないマーゴットは突然声を荒げて立ち上がると、自分を守ろうとしてくれたミルドレッドの肩に手を置き押し退けた。
「私達は貴方がたと話がしたくてこの地を訪れただけなので、そちらに戦闘の意思が無ければ争うつもりは一切ありません。
できれば族長へと取り次いで頂きたいのですが、それは可能ですか?」
てっきりアリシアが話すのかと思いきや受け答えをしたのはエレナの方。先程まで膨らませていた頬は戻り、惚れ惚れするほど凛とした表情にピンと立てた長い耳が王族然としたある種の威厳を醸し出している。
「ハッ!お申し出は承りました。しかしながら私如き弱小者が判断出来る事柄では無い故、つきましてはそちらにおります黒髪の護衛に眠らされた私の上官であり、この部隊を統括するリュエーヴ中将を起こして頂きたく存じます」
急に態度の変わったマーゴットに違和感満載だったが、縦社会で生きる彼女からすれば違う種族とはいえ王族であるエレナには相応の配慮をするのが当然なのだろう。
姿勢良く踵を揃えて見つめられたエレナは俺へと振り返ると、その顔からは先程の凛々しさがカケラも無くなっており『あの人苦手』と言いたげに苦笑いをしていたのでティナと二人して吹き出しそうになった。
「くっ……」
光魔法かと思うほどに眩しく輝く炎の柱が現れた次の瞬間には行く手を阻む無限氷壁へと接触し、猛烈な勢いで高まる温度を一定に保とうと大量に消費されて行く魔力の反動に歯を食いしばった。
「冷たっ」
三十センチほど喰い込んだ収束砲の光が無限氷壁全体に映り込み幻想的な輝きを放つ中、無意識に伸ばしたティナの手が氷壁に触れた事に自分で驚き手を引っ込めたので笑みが零れたが、根こそぎ奪われるのではないかと心配になるほどに雄大な滝の如く流れ出て行く魔力に意識が朦朧とし始める。
ビキキキキキキッ
そんな俺を引き戻したのは他ならぬ力比べ真っ最中の収束砲だった。
最後の一押しなのか、炎の柱が一回り太くなると同時に無限氷壁全体に雷を閉じ込めたかのような大きな亀裂が走り、そこから更に細かなヒビが所狭しと入って行く。
「大丈夫、なの?」
亀裂に乱反射する光が先程とは一味変えた演出をするのを横目に、それでも心配そうに見上げる彼女の頭を抱き寄せると言葉無くとも安心してくれたようだ。
抱きついたままに氷壁へと顔を向けると一瞬後には骨も残さず消えて無くなるかもしれないと言うのに「綺麗ね」と呟く声が聞こえる。
ジワリジワリと押し入り氷壁の中程まで移動した接触地点へと魔力を集中させるのに精一杯で、亀裂を直している余裕などありはしない。
右手に在る守りたい者と、左手に有る頼るべき物に『俺は負けない!』と改めて誓うと、無意識に流れ出す魔力を自らの力で押し出すように身体の奥底に眠る魔力を叩き起こして総動員させ白結氣へとねじ込んだ。
パキキッ!! パァァァァァァンッ
俺の魔力の増加に呼応するかのように、それと同時に全てを飲み込み焼き尽くさんと輝きを増してもう一回り太くなった炎の柱。対する無限氷壁も負けじと光を帯びると、魔力の集中する焦点付近以外は耐えきれず砕け散ってしまう。
「レイっ!?」
「負けないっ!」
極限まで集中力を高めると握りしめた白結氣が俺の想いに応えて更に輝きを増す。
「うぉぉおぉおぉぉぉっ!!!」
それに伴い無限氷壁も発する光を強めると、長かったような短い収束砲の照射が ピタリ と止むと同時に、目が眩むほどの光が急激に鳴りを潜めて静寂がその場を支配した。
後に残ったのは収束砲との接点となっていた人間の身長程の円筒形の氷。
しかしそれも戦いの終わりを悟った俺の気が抜けると、霧のように細かな破片へと姿を変えて吹き抜ける微風に流され消えて行く。
「我々は……負けた、のか?」
収束砲に晒された俺とティナが無傷で立っているということは、マーゴットの呟きの通り俺達の勝ちという事に他ならない。
愕然と立ち尽くすマーゴットと、息を荒げてしゃがみ込んでしまったサラマンダーの女の子達の中心で膝を突き、肩で息をするミルドレッドを視認して勝利を確信すると、ホッと一息吐いた。
ティナを連れて彼女達の元に歩み寄るが、マーゴットは余程ショックだったのか反応すらしてくれず放心したまま。
しかし、芯の強そうなミルドレッドは無理矢理息を整えてよろよろと立ち上がると俺達の前に進み出た。
「はぁはぁ……私達の、負けを認めます。
ですが、私が貴方の言いなりになりますので、どうかこの子達には手を出さないで下さい。
私はどの様な仕打ちも抵抗することなく素直に受け入れると誓います。ですから、どうかこの子達には……」
「あのさ、俺達は魔族じゃなくて……」
「せぃっ!!」
戦闘の終わりを感じ完全に油断していたが、それでも遅れを取る事はなかった。
細身の剣だけあって振り上げられた剣速はなかなかのものだったが、左手一本で鍔を押し上げ少しだけ顔を覗かせた白結氣の刀身でレイピアを受け止めると、不意打ちというやり方に顔を歪ませたティナが飛び出し、持ち手を守る護剣部分に一撃を入れて叩き落とす。
「くっ!」
悔しそうに歪ませた顔面へと突き入れられた拳に「あっ!?」と思った時には既に遅かったが、怒りに任せて振り抜かれることはなく、寸止めされて目を丸くしたところに鳩尾へのキツイ一撃が入り呼吸困難になったマーゴットは腹を押さえながら尻餅を突くことになった。
「お願いします!それ以上はお止めくださいっ」
他の子と違い意識を奪われなかったのは流石指揮官だと褒められたものだが、自分もキツイ筈なのに自分の上官の為にすかさず間に入って両手を広げたミルドレッドには頭が下がる思いだ。
冷ややかな目で彼女を見るティナの頭に手を置き「そこまでだよ」と分からせると、まだやり足りないと握られていた拳を降ろしケイリスフェラシオンの魔力を解いてくれる。
「さっきも言いかけたけど俺達は魔族じゃなく人間だ。君達が何を想像していたのか知らないけどお願いするのはこっちの方らしいから、まずはウチの外交担当と話をしてもらえないかな?」
俺が何を言い出したのか理解出来ず キョトン とするミルドレッドに笑顔を向けると、魔力を消費し過ぎて怠い身体をティナに預けながらも左耳にぶら下がる通信具に手を添えた。
「ララ、戦闘は終わったからエレナにアリシアを連れて降りてくるように伝えてくれる?……うん、よろしく」
向こうでも戦闘が終わったのを感知していたのか、エレナと手を繋いだアリシアがすぐに姿を現したのだった。
上空に停滞している風の絨毯から空を飛んでやって来た二人に驚き、その姿に目を見開くサラマンダーの女の子達。
すぐ隣に降り立ったエレナは、ようやく息の整いかけた俺の前で両手を腰に当てると風船の如く目一杯まで頬を膨らませた。
「なんで私は置いてけぼりなんですか!?私だって前衛です。ティナさんだけ連れて行くなんてズルイじゃないですかっ!」
何故そこまで怒るのかは知らないが自分の不満を最大限にアピールしてくる。俺はただ君が熱心に講義を受けていたからティナだけを連れて来たんだけどなぁと白い目を向けつつ、それでも不満に思うものは仕方ないかと諦めた。
「ほら、エレナが得意なのは槍だろ?それだと相手を止めるのには不向きだ。だから……」
「何故獣人王家と魔族が一緒に居るんだ!?これは一体どう言うことなのか説明を求める!!」
それほどダメージは受けなかったのか、俺達の痴話喧嘩など耳に入らないマーゴットは突然声を荒げて立ち上がると、自分を守ろうとしてくれたミルドレッドの肩に手を置き押し退けた。
「私達は貴方がたと話がしたくてこの地を訪れただけなので、そちらに戦闘の意思が無ければ争うつもりは一切ありません。
できれば族長へと取り次いで頂きたいのですが、それは可能ですか?」
てっきりアリシアが話すのかと思いきや受け答えをしたのはエレナの方。先程まで膨らませていた頬は戻り、惚れ惚れするほど凛とした表情にピンと立てた長い耳が王族然としたある種の威厳を醸し出している。
「ハッ!お申し出は承りました。しかしながら私如き弱小者が判断出来る事柄では無い故、つきましてはそちらにおります黒髪の護衛に眠らされた私の上官であり、この部隊を統括するリュエーヴ中将を起こして頂きたく存じます」
急に態度の変わったマーゴットに違和感満載だったが、縦社会で生きる彼女からすれば違う種族とはいえ王族であるエレナには相応の配慮をするのが当然なのだろう。
姿勢良く踵を揃えて見つめられたエレナは俺へと振り返ると、その顔からは先程の凛々しさがカケラも無くなっており『あの人苦手』と言いたげに苦笑いをしていたのでティナと二人して吹き出しそうになった。
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