魔攻機装

野良ねこ

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第三章 紡がれた詩

3-3.二度目の襲撃

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 獣人の国【ルピナウス】やエルフの国【レユニョレ】へ向かう時のように、人里離れた荒野を突き進むではないドワーフ国【サンタ・サ・スケス】への道のり。
 今はまだ魔導車であるとバレるのは得策ではないと判断されたミネルバはザルツラウ商業連邦を出るときから自動車より若干早いだけのスピードを維持し、途中にあったハウゼルプに属する町や村を通過してきた。

 走っていたのは町から町を繋ぐ街道。そこは当然のようにミネルバ以外の自動車や馬車も行き交う一般的な道だ。

 小高い丘の合間にさしかかったところに設置されていたのは地雷原。世界条約に反する行為ではあるが無防備に突っ込んだのがミネルバだったのが幸いした。
 可視化された常時魔力障壁フリーズィエスは車体の下側までもを完璧にカバーしており、爆弾程度では傷も付けられぬほど頑強な守備力を誇る。

 しかし残念なことに、威力を相殺して何事もなかったかのように走り続けるなどという物理法則を覆す芸当は不可能であり、空中へと打ち上げられた車体は放物線を描く。

「どうした!」
「何事だっ!」
「勝手なことをするのはどこのどいつだ!」
「だが、実験をする手間が省けたわい」
「うむ、計算通り成功」
「ちと出力が弱すぎたか?」
「いや、初期設計通りの効果だ」

 ノルンの放送が終わるや否や慌てた様子で客席部キャビンへと雪崩れ込んだ爺ちゃんズは、窓から見える景色からミネルバがゆったりとした速度で地面へと向かっているのを理解し、一様に満足そうな顔を浮かべた。

「おいっ!どうなってる!」

 それとは対照的に驚愕を顔に貼り付けたのは用意周到に待ち構えていた者達。

 可能性としては事前に気付かれ魔攻機装ミカニマギアによる反撃があるだろうことは予測していた。
 しかし、一般的常識でいけばシークァなど爆弾一つでスクラップと化すはず。にも関わらず原型そのままに空へと吹き飛ばされた事に思考が固まったのだ。

 よく見なければ分からない淡い水色の光に包まれたミネルバ。新たに付けられた重力制御機構はまだ未完成なれど大地に引き寄せられる力を緩和し、舞い上がった鉄の塊が風船の如くゆったりとしたスピードで地上へと降りてくる。

「何でもいいっ、潰せ!」

 一斉に向けられた銃口、それは対魔攻機装ミカニマギアを想定された重火器。一秒間に六発も放つ連射式の軽い弾から、三秒に一度しか放てない重いものまでの多種多様な銃弾の雨。

 ゆったりと降下するミネルバなど格好の的。その道のプロたる彼等が外すなどあり得ない。
 しかし、その全てを薄い虹色の膜が防いで見せる様子に襲撃者達の目の色が変わった。

第二章セクションⅡへ移行』

 無線機を通じて伝えられる指令。通信距離は百メートルと長くはないが、相手に知られる事なく行動を起こせるのは団体戦を得意とする彼等の強みをバックアップする。

「敵襲ってなによ!?」

 攻撃を受けようとも振動さえ伝わってこないミネルバの内部。
 客席部キャビンへと駆けつけたディアナ達だが、窓の外に展開された虹膜が雨あられと押し寄せる銃弾を防いでいるのを見て焦りを覚える。

 キンキンと小気味良い音を立てて弾かれる弾丸。それに炎が混じれば焦燥感が煽られるのも正常な反応。一発一発の威力は弱くともダメージは確実に蓄積し、魔力障壁パリエスといえどもやがて崩壊する。それは機構を同じくするミネルバの常時魔力障壁フリーズィエスとて変わりはしない。

「黒い……魔攻機装ミカニマギア!!!」

 咲いては消える炎の花。視界を遮るその向こうに見えたのは、それの元となる弾丸を放つ魔攻機装ミカニマギアの一団だ。

「馬鹿、ルイス!待て!!」

 それが黒き厄災ディザストロではないことは視覚的にも直感的にも理解していた。しかし黒というなかなか見ない機体の色に居ても立っても居られなくなくなり出入り口を開け放つ。幸いだったのはそれが上部の窓であったこと。
 銃弾に飛び込むほど冷静さを失っていないルイスは、純白の光を纏いながら天窓を抜け外へと飛び出して行った。

「あのクソがっ! 俺も行くぞ!!」

 狙われるには十分な理由があり、つい先日も襲って来たばかりだ。出所が同じ指令であればこちらの戦力は把握している。
 ざっと見、二十機もの集団。待ち構えていたのなら周到な用意はされているだろう事など考えるまでもないのだが、火のついた馬鹿野郎を放って置くわけにもいかない。

「私も行く! シェリルっ、足が付いたら回避に徹して!ニナはシェリルのサポートをよろしく」

 レーンに続き天窓から飛び出すディアナ。しかし、それを見守っていたカーヤの目が細められる。

「貴方は行かないんですの?」

「これ以上は過剰戦力だ、だから俺はここで待機なのっ。そんな目で見つめられるとゾクゾクするから止めてくれねぇか?」

「変態の上にクズだなんて……見る価値すらありませんね」

「おおぅ……齢四十を超えて違う道に目覚めてしまいそうだぜ。今から二人っきりでその先に行きませんか?お嬢さん」

「死ねばいいのに!」

「ち、致命傷!……ゴフッ」

 銃弾を受けたかの如く胸に手を当てよろけて見せるグルカだが、ブラウンの瞳は戦闘に入ったルイスの姿を捉えて離さなかった。


△▽


第三節パートⅢ。 上位機体だとはいえ所詮は同じ魔攻機装ミカニマギアだ。いつも通り冷静に当たれ』

 標的を切り替えた集団は魔法を乗せた弾丸をルイスへと集中させる。
 だが魔力障壁パリエスを展開したアンジェラスはびくともせず、黒い集団へと一直線に突き進む。

「本物の馬鹿かっ!誘われてるのに気付けや!!」

 銃という生身の人間に対しては最有用とされる武器が、魔攻機装ミカニマギアに採用され難い理由としては二つ。

 一つは火薬による威力よりも魔攻機装ミカニマギアを纏うことで強化された腕力の方が強いから。これは弾薬の質や量、特殊弾丸に込められる爆薬にもよりけりで一概には言えないが、小火器程度では比べるべくもない。

 もう一つは、機銃の特性である連射が仇となっている。

 一秒の間に数発も撃ち出される弾丸に魔法を付与するとなると銃口、もしくはバレルを通過する極短時間での作業となる。それ自体は難しい技術ではないのだが、かけられる時間の短さに比例して威力の弱い魔法しか付与することが出来ない。
 それに対して持ったまま使う武器ならば継続して魔力を送り込めるので桁違いに強力、かつ、多彩な魔法が扱えるのだ。

 魔力障壁パリエスを覆っていた炎を抜ければ、それを放ったとは別の二機がすぐ目の前に迫っており、両手に持つ黒い細剣を振るう寸前であった。

(機体色だけじゃなく武器まで似てるなんてっ!)

 左右に分かれてのすれ違いざま、同時に襲い来る細剣を突き出した槍で冷静に受け止める。
 木製の柄がそれを受け止められたのは槍全体を仄かな光が包んでいたから。紅月家へと足繁く通っていたレーンと時を同じくして鉱山で培った魔力操作練習の賜物だった。

 初撃が止められるのを見越して放たれた弾丸、第二撃は二機が離れた次の瞬間には再びルイスの視界を赤で埋め尽くす。

(そう来るか……でもっ)

 次いで襲い来るのは鏡写しのように寸分違わぬタイミングで迫る左右からの挟撃。しかしそれはルイスが動かぬ計算上のもの。

──片側に的を絞り一歩を踏み込む

 突き入れた槍は魔力障壁パリエスに阻まれるものの相手を去なすことには成功している。そのままもう一歩踏み込みつつ身体を捩り、背後から迫る黒剣を弾きあげた。

「ふんっ」

 相手の口角が吊り上がるのが目に入る。それはショボそうな見た目に反して期待以上に動けるルイスへの賞賛。
 相手が身を翻したタイミングでその場所を二発の弾丸が通り過ぎて行く。それを目の当たりにしながら『動かなきゃ封じられる』と悟ったルイスは移動を意識しつつ攻勢に出ることにした。

「チッ!」

 集団で襲撃を企てるような相手なのだ、底辺の兵士や魔攻機装ミカニマギアを手に入れたばかりの素人とは明らかに動きが違う。
 その良い証拠がルイスを狙っていた射手。一箇所に留まって撃ち続けるなどということはなく、絶えず動いて位置取りをするのはそれが専門であり良く訓練されている証拠だ。

 それでいてルイスの横を的確に通過した弾丸は射線上に捉えたもう一つのターゲット、加勢に向かっていたレーンにランスを振るわせることで足を止めさせる。

『4ー6ー10』

 すぐに群がる黒い魔攻機装ミカニマギアの群れに囲まれ身動きが取れなくなったレーンは、間髪開けずひっきりなしにやってくる黒い刃の対応に追われることとなった。

「雑魚が……うぜぇっ!!」

 レーンより勝る数を活かし、一撃離脱を繰り返すだけで深入りしようとしない。相手からしても攻め切れていない現状だが、それは捌くのに手一杯で一撃を入れられないレーンも同じ。

 しかし、同じではないのは精神こころの在り方だった。
 

紫電乱舞フルミエ・ヴァースティ


 練られた魔力に力ある言葉が反応を示す。

 レーンの持つ双頭ランスを中心に膨れ上がった魔力は激しく明滅する無数の稲妻を生み出し、苛立ちを体現するかの如く半径十五メートルもの範囲で渦を巻いて荒れ狂う。

 聞こえる轟音、それに混じる短い叫び。しかし、地に伏せたのは僅か二機だけだった。

 首元を掴まれゴミのように投げ捨てられる黒い機体。意識を刈られた二人の男は回避に成功した仲間によってすぐに回収されてしまう。

「動いてっ、レーン!!」

 苛立ちを吐き出したことにより多少スッキリとしたレーンは高威力の魔法を放った悦に浸ってはいた。
 しかしそれも、ものの数秒。

 耳に届いたディアナの声に我に返れば、間近に迫る黒い影。
 背後に気配を感じつつの応戦。振り上げたランスの勢いを味方にすぐさま身を捩れば、次に捌くべき黒刃が目の前にあった。



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