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第5話「パーティ崩壊!」

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 オーガキング───。

 人型魔物モンスターの最上位種のオーガにして、その希少種レアモンスターだ。

 体格だけでも人の5倍。
 通常のオーガよりも、倍近い体躯を誇る化け物だ。

 しかも、統率者としても優秀で、魔王級の化け物といっても遜色はない。

 そいつがここに来る……?

 そして、ジェイス達のパーティを強襲する?!
 む、無茶だ!!

「お、オーガキングだぁ?!」

 さすがにこれにはジェイスも驚いたらしいが、即撤退という考えはないようだ。
 自分の実力に過信しているのか、それとも虚勢か……。

 いずれにしても、もう時間がない!

「じぇ、ジェイス、まずいって!」
「さ、さささ、さすがにオーガキングは───」

 パーティのイエスマンこと、メイベルとザラディンも泡を食って反論している。
 さすがにオーガキングは、二人をしてヤバいと感じているようだ。

「う、うるさい!! やってみないと分からんだろうがッ!!」

 メイベル達に一喝して黙らせると、バチバチバチと、大剣に雷光を纏わせ始めたジェイス。

 彼の二つ名の通り、雷光を剣に纏わせ敵集団にぶち込む強力な特殊スキル「雷光剣」だ。

「ばかぁ!! もう間に合わないわ!!」

 リズが絶望と諦めに満ちた顔で双剣を構える。
 彼女の足なら逃げ切れるだろうが、リズにはアルガスを置いて逃げるという選択肢はないのだ。

 だが、それを許すアルガスではない!

「───ジェイス! ここは俺が支える! 今すぐリズを連れて逃げてくれッ!」

 オーガキングの名を聞いた時から、アルガスにはある種の諦めがあった。
 ノロマと言われるだけに、足は遅い。
 リズだけならともかく、アルガスの足では軍団から逃げ切るのは無理だろう。

 身を隠す方法もあるにはあるが、匂い袋のせいで隠れたところで必ず見つかる。

 そして、死ぬ──────呆気なく。

 だから、今できることはリズを逃がすことだけ。
 彼女がアルガスを置いて一人では逃げないことを知りつつも、ジェイスが強引につれていけば、それは別の話だ。

 下種で下心丸出しでも、ジェイスの力ならリズを強引に連れ出せるだろう。
 ジェイスに任せるのは業腹だが、ここでリズが死ぬよりも遥かにいい。

 そう思ってさらに声を掛けようとするアルガスだが、
「おい、ジェイス───頼むから、」
「ふざけろ! 俺の手柄が向こうからやってくるんだ! おもしれぇじゃねーか!!」

 アルガスの言葉に耳など貸さずに、好戦的な目つきでそう言い切ったジェイス。
 そして、その眼前についに魔物の軍団が到達した!

 大地を黒く染め上げるほどの規模で、地震のような地響きを立てて軍団レギオンが来る!!
 


 ぐるぁぁぁああああああああああああああああああああああああ!!!!



 そして、一際巨大なオーガが咆哮し、魔物たちの軍団はジェイス達を飲みこまんとする!

「ぎゃはははは! 来たな、鬼ぃぃ!! ほおぉら、デカいからいい的だぜぇぇぇえ!」

 バチバチバチバチバチ───!!

 ジェイスの雷光が一際輝き、最高潮に熱量をあげる!!

「食らえッ──────雷光剣!!!」


 ズドォォォォオオオン!!!


 稲妻が落ちたような爆音を立て、真っ直ぐにオーガキングに向かう雷光!

 それがオーガキングに直撃するッッッッッッッ!

 バチィィン!! と一瞬オーガキングの体が真っ白に染まり、「やったか!」とジェイスが喜色を浮かべるも───。


 ────ごるるる……。

「な………………!?」

 ズンズンズンと、先ほど変わらぬ様子でオーガキング厳めしい顔を向けて軍団を進めている。
 よく見れば、体毛が少し焦げている程度……。

「ば!? は、外した、のか?」

 バカ野郎! 直撃したっつの!!

 アルガスも多少は期待していただけにその衝撃は大きい。

 だが、ジェイスは現実が見えていないのか、次々に雷光剣をオーガキングにぶつけるも、全く効いていない。
 それどころか少しも怯んだ様子をみせず、巻き込まれて焼き焦げた配下の死体を見て顔を歪めているのみ。

「う、うそだろ……!」
 茫然としたジェイス。
 それを見て真っ青になったメイベルがジェイスを揺さぶる!

「ば、ばか!! 効いてないじゃない、逃げなきゃ!!」

「そんなはずがない!! ザラディン! さっさと、魔法をぶっぱなせ!!」
「は、はいぃぃい!」

 ブツブツと発動の詠唱を唱えるザラディン。
 既に構築していた魔法式を発動させるだけなので、瞬発するはず!!

「大地よ、爆ぜろ!!」

 カ───ズッッドォォォォォオオン!!!

 ザラディンの魔力が迸り、軍団のど真ん中で大爆発が起こる。
 その中心にいたオーガキングも足元がぜ、ブッ飛ん……─────────でない!!


 あ、あの野郎。
 爆発の瞬間、地面をぶん殴って威力を相殺しやがった!!


「ば、ばばばばばば、ばかな!? 威力が減衰したぁぁぁあ!?」

 本来ならもっと広域を吹っ飛ばせる大魔法も、オーガキングの出鱈目な攻撃力でかき消されてしまった。

 これでもう、「光の戦士たちシャイニングガード」の攻撃手段は打ち止めだ!!

 必殺の雷光剣も効かず、大魔法でも倒せないなら──────打つ手なし!!


「逃げろ!!」
「逃げるわ!」
「逃げます!」

 
 ジェイスの反応は早い。
 恥も外聞もかなぐり捨てる勢いで撤退開始!

「ちょ、ちょっと! アルガスを援護してよ!!」

 だが、リズは逃げない!
 鈍足ゆえ逃げられないアルガスを援護するために、効かないと知りつつも弓を射る!!

 射る!!
 射る!!

 射るッッッ!!


 ド───ぶしゅ……!


「ぐるぁぁぁおあお?!」

 それがたまたまか、狙っていたのか───オーガキングの片目に直撃し、奴に初めてダメージを与えた!

 激痛のあまり、片目を押さえて膝をついたオーガキング。
 配下の動きが一瞬止まり、周囲を静寂が包む。

「やった……の?」

 射ったリズ自身が驚き、茫然としている。
 もしかすると、リズなら─────……。


「ぐるぁぁぁあああああああああああああああああああああああああああ!!!!!」


 ビリビリビリ……!!

 冗談抜きで空気が震えた。
 オーガキングの怒りの叫び!

 無理だ!
 これは──────!

「リズ、逃げろッッ!」

 ズボッ、と矢を引き抜き───目玉の付いたそれを投げ捨て踏みつぶすと、ハッキリとリズを睨みつけて、巨大な指を差し向けて咆哮する。

 ……だから、意味が分かった。

 「ぐるぁぁぁぁあああああの女をズタズタああああああにしろッ!」だ!!

 さ、
「───させるかぁぁぁあ!!!」


 パーティに到達せんとする軍団に敢然と立ち塞がったアルガス!

 ズシン! ズシン!
「───ぅおらぁぁぁあああ!!」

 まるで津波のように押し寄せる魔物の軍団に、真正面から全力でのシールドバッシュを叩きつけたッ!!

 ほとんど鉄板にしか見えないタワーシールドの一撃は、強く重く凄まじく!!

 ───バッカァァァアアン!!

 軍団の先頭を征くグレーターゴブリンの小集団を一撃でぶっ飛ばして後続にぶちまけた。

「リズに手を出すなぁぁぁぁあああ!!」

 護身用の剣を引き抜くと、ヘイトを集めんとばかりに、ガンガンガン! とシールドに叩きつけ軍団を挑発する。

 ただでさえ強い匂いを放っているのだ。
 そして、たった一人で軍団の前に立ち塞がるアルガスに、一気にヘイトが集中する。




 ごぉぉあああああああああ!!!

 ぐるあっぁぁああああああ!!!

 げぎゃぁぁぁああああああ!!!



 多数の魔物が発する咆哮がアルガスに集中し、一斉に襲い掛かられる。
 それをすべて受け止め、いなし、弾き返し、肉壁たる「タンク」の役目を全うするアルガス!!

 ───そうだ! これでいい!

 散々殴られ、突かれ、噛みつかれても、防御力「8800」は伊達じゃない!!


 ───かかってこいやぁぁあ!!
「うおらぁぁぁぁぁぁぁぁあああ!!」


 シールドバッシュ!!
 シールドバッシュ!!

 シーーーーーーーールド、バぁぁぁぁああッシュ!!!!


 ───ズガァァァアン!! と、大型馬車が衝突する様な音を立てて魔物の軍団を押し返すアルガス。

「す、すげぇぇ……」
「か、関心してるばあいじゃないわよ! 逃げよ?」
「そ、そうです!! 彼の勇敢な献身を讃え。ここは今すぐ撤退すべきです!」

 そんなことはジェイスも、もちろん分かっている。
 だが、まずいんだ……!!

「ちぃ! のろまタンクめ、飽和するぞ!」

 オーガキングがけしかける魔物の数がドンドン増えていく。

 アルガスに取り付いていた連中も押し返されてはいるが、その枠から外れた連中が徐々に数を増やし始めた。
 
 目標はリズ─────いや、ちがう!! もはやパーティ全部だ!

 それを見て、アルガスは必死に振り返ると言った───。
「───いけ!! 俺に構わず、リズを連れて行けぇぇええ!」
「へ……。言われるまでもない!」

 素早い動きでリズに迫るジェイス。

 弓を連射するリズはその動きに気付かず、ズン! と当て身を受け昏倒する。

「あぐッ!!……───アルガ、す」
 ドサッ……。

 力の抜けたリズをジェイスは担ぐと、
「よう、アルガス──────……あばよ。リズは俺が貰ってやるよ」

 く……!!
 分かってるさ───だけど、ここで果てるよりは、まだ!!

「あとは……おら、ガキぃ!! 時間稼げや!!」
「きゃあ!」

 って、おい!!

 リズを担いでいる分、足が遅くなるのを懸念したのか、ジェイスの野郎はあろうことか身を隠していたミィナを引っ張り出すと、匂い袋を叩きつけ軍団の前に放り投げた。

「ほぉら、餌だぞ!! あははは!」
「な、何をしている?!───ジェイス!!」

 み、ミィナが!!

「へっ。言っただろ? 使い捨てだってよ」

 こ、
 コイツ───……!!

 コイツ──────!!

「あばよ、アルガス───……精々軍団を引きつけておいてくれ。俺はこのまま別の街にズラかるぜ」

 こ、この野郎!!

「ミィナもつれていってやれよぉぉぉお!」
「ぎゃはははははははは! 何度も言わせんなよ───使い捨てってのはこーゆことさ」


 ぎゃーっはっはっはっはっはっは!!


 軍団をさらに煽るように大笑いするジェイスは、メイベルとザラディンの補助魔法を受けて速度をあげると、あっという間に走り去っていった。

 それも、緊急クエストを出した街とは別方向にだ。

 危機を伝えるでもなく、いっそ街ごと滅べと言わんばかりに!!

 あの野郎──────…………!!

 ……ッ、
「───ジェぇぇぇぇぇぇぇぇええええええええーーーーーーーィス!!!」
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