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第7話「『重戦車』であるッッ!!」

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 ドルドルドルドルドルドルドルドル……。

(ん……? 何だこの騒音───うるせーなー……)

 ズキズキと痛む頭部に手をやろうとしたのだが、上手く手が動かせない。
 それどころか、体の感覚がおかしい。

(───あ、そうか……。─────────俺、死んだんだよな?)

 ここはあの世だろうか。
 それにしては、やけに騒々しいが……。


 ドルドルドルドルドルドルドルドルドルドルドルドルドルドル……!


「何なんだ?! さっきからうるさいぞ!!」

 さすがに耳に響く騒音に耐え切れず、アルガスは抗議の声をあげ、騒音の原因を睨み付けようと目を見開く。

「だれだ! さっきから、うるさい……の、は」

 え?


 ええ?


 お、
 オーガキング?!

 目を開けたアルガスの目の前には、足を振り下ろした姿勢で硬直しているオーガキングがいた。

 それも苦痛に顔を歪めて……。

 いや、その足の下にアルガスがいるのだ。
 そしてオーガキングを見上げている。

 見上げているんだけど、何だ……この視界──────??

 何故か、普段より高い視界。
 そして、体の感覚がなんというか、その──────……変だ。

「ど、どうなってる? 生きてるのか、俺」

 首を振り手足を確認するも、妙に首の動きが重く、耳もとでウィィィィイイン、と変な音を立てる。

「あ? え? うそ───首が」


 一回転した。


「う、嘘ぉぉおおおおん?!」

 まさか、俺の首……オーガキングにねじ切られて、取れてるのか?

 そして、
 その状態のまま、アルガスはゴーストやグールのような、アンデッドになってしまったのだろうか?

 す、ステータスを見れば一目瞭然か。

 ステータスオープン!

 ───ブゥン……。

名 前:アルガス・ハイデマン
職 業:重戦車(ティーガーⅠ)

体 力:1202
筋 力: 906
防御力:9999
魔 力:  38
敏 捷:  58
抵抗力: 122

※ 状態異常なし

残ステータスポイント「+1001」

スキル:スロット1「戦車砲56口径88mm砲
    スロット2「車載機関銃MG34
    スロット3「対人地雷Sマイン投射」
    スロット4「履帯蹂躙轢き殺せ
    スロット5「未設定」
    スロット6「未設定」
    スロット7「未設定」
    スロット8「未設定」


 あれ? 死んでない……。
 状態異常もなし───アンデッド化もないな?

 あれ程攻撃を喰らって、何も異常がないって逆におかしいだろう。

 おかしいよな?

 だって、ほら首がクルーンと一回転!
 つーーーーーか、首が一周まわるとか、おかしいから!

 ───それにしても、なんかオーガキングの様子が……?

「ぐるぉぉお…………!」

 怯えている?
 いや、戸惑いか…………??

 苦痛に顔を歪めたオーガキングが、恐る恐るといった様子でアルガスから距離を取ろうとしている。

 まるで、未知なるものを警戒するように───。

 おかしい。
 何かがおかしい……。

 死んでいるなら、状態異常に『アンデッド』とか、『即死』が出ているはずだが?


名 前:アルガス・ハイデマン
職 業:重戦車(ティーガーⅠ)

体 力:1202
筋 力: 906
防御力:9999
魔 力:  38
敏 捷:  58
抵抗力: 122

※ 状態異常なし


 うん、───異常無しだな?
 うん……変だな?

 うん……──────。


 ……………………うぅん?!

「……って、あれ? 何これ? な、何か、ステータスが───」









 ステータス確認……………………。
 職業「重戦車」






 ほう。
 重戦車………………。

「……………………………………重戦車?」



 ドルドルドルドルドルドルドルドル……!

 ……って。
「──重戦車(ティーガーⅠ)ぁぁあ?!」

 妙な天職に進化していたアルガスは頭を押さえる。

 いや、正確には押さえようとした───。

 だが、ウィィィィィンと「砲塔」が動くのみで、ちっとも頭を押さえられない。

 それどころか、足も手もない!!

 ど、どどどどどど、どうなってんだ?!
 俺の体あぁぁぁああああ!!!

 あれ?
 なにこれ?

 顔みたいなとこに、象みたいな長い鼻が突き出してる……。

 ええ? そ、それに……。
 足が洗濯板みたいな、ギザギザのベルトみたいになっとる?

 そんで、なにこれ?

 俺、全身が鋼鉄になってない?!
 スッッッゲー固そう。

 ってゆーか!
 デカッ!!

 俺、スゲー……───デッカぁぁあ!!!

「どどどどどどどどど、どないなっとんねん? 俺の体ぁぁぁああああ!!」

「ぐるるるるるるるるる……!!」

 アルガスの素っ頓狂な声を聴いて、オーガキングが最大級の警戒をあらわにしている。
 そして、今にも殴りかからんと────。

「く……!!」

 しまった。
 体が鋼鉄だとか、今はそれどころじゃなかった!!

 いや、それどころだけど、それどころじゃない!!

「───く、くそぉぉぉお……!!」

 オーガキング───!
 コイツを倒さない限り、俺はミィナを守れない!

 また…………守れないッ!

 ならば───せめて相打ち……。
 悪くとも、一矢報いねば!!

 そうとも!
 なんとしてでも……────刺し違えてでも、コイツを倒さないと!
 この子を……。ミィナを守れないんだ!!

 だからッ!!
「───かかってこいやぁぁぁああ! オぉぉおガキングぅぅぅうう!」

 どうせ───。
 とうせ、殺される……!

 ならば、やるだけやってやる!!

 そして、俺を殺せッッ!!
 そして、子供を見逃せッ!
 
 お前にも……!
 お前にも、心があるだろうオーガキング!

 だったら、
「───俺を殺して、それで満足しやがれぇぇぇぇええ!!」

 ミィナに手は出させない!!
 リズも追わせない!!

 もう───誰も死なせないッッ!

 それが……、
 ───それが俺の覚悟だぁぁぁああ!!

「───うおぉぉぉおおおおお!!!!」

 一矢報いんとアルガスが疾走し、右ストレートをオーガキングに叩き込む────。


 くーーーーーらーーーえーーーーー!!


 ギャララララララララララララ!!


 妙な足音も、この際どうでもいい!!
 今は、コイツのヘイトを俺に向けさせればそれでいい!!

「うらぁぁぁぁあああああああ!!」

 そして、右ストレート!!!
 そいつを、全力で殴り抜いてやるぁぁぁああああ──────!!

 スキル「戦車砲56口径88mm砲

 ───発射ッッッッフォィェェエエル!!


 カッ──────!!!!

 ───ズドォォォォオオオオオン!!


 「うおぁッ?!」


 右ストレートで殴り抜いたはずが、
 突然、目の前に火の玉が現れて視界が黒煙に覆われる。

 そして、
 真っ赤に燃える、何かが────……飛翔して───。



 チュドォォオオーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン!!!!



「ひぃッッ?!」

 ちょ! お、おまッ!
 ちゅ、チュドーン! って……。

「お、」

 お、おおおお、

 おおおおおおおお?!

「───オぉぉぉおガキングが、フッ飛んどるがなッ!!??」

 バラバラ……ベチャベチャ───と、程よく焼けたオーガの肉がばら撒かれていく。

 吹っ飛んだオーガキングの顔は、「嘘ぉ?!」って表情だ。

 うん……。
 俺もそんな気持ち……。

 っていうか、
「───嘘ぉお?!」

 っそんでもって、

 ば、
「……爆発、したぁぁあ?」

 いや、爆発もそうだけど───そもそも、な、何が起こったの?
 
 信じられないことにアルガスの目の間には、上半身が消失しフラフラと力なく揺れるオーガキングの足が二本……。

 そして、奴がズゥゥウンと地響きを立てて倒れ伏す。

 なんてこった……。
 アルガスは、一撃でオーガキングを倒してしまったのだ。

「う、うっそだろ……?──────いや、それよりも、」

 し、しまった!!
 ───忘れていた!!!

 無茶苦茶必死だったとはいえ、守っていたはずのミィナを放置してオーガキングを殴りに行ってしまった!

 下手をすれば、さっきの場所でミィナが魔物どもに───!

「───ミィナぁぁぁあああ!!」

 グルリと振り返ったアルガスの足回りは相変わらず妙な音を立てている。

 ギャリギャリギャリギャリ!!

 それに、なんか動きが──────早くしろぉぉおお!!

 ゴゴゴン───ゴゴゴゴゴ……………!!

 前へマルシュッ!!

「テメェら、そこをどけぇぇぇええ!!」

 アルガスに群がっていた連中は腰を抜かして一様に怯えている。
 オーガキングが倒されたのだから当然だろう。

 だが、それで軍団が殲滅できたわけではない。
 コイツ等はもともと群れホードなのだ。

 ゆえに統率者がいなくなれば、それぞれの群れに戻るというもの。

 まだまだ戦闘力は唸るほど持っていやがる───!

 そして、そんなことよりも、
「ミィナぁぁぁああ!! 今行くぞッ」 

 魔物が群がる位置。
 アルガスがオーガに踏まれた場所───そこに彼女はいるはずだ!!

「どかないなら、轢き殺ぉぉぉおおす!!」

 戦車前へパンツァーフォー!!

 ギャラギャラギャラギャラ!!!

 そうだ……!
 そうだ……!!

 俺は守る!!
 守って見せるッッ!!

 バカにされ、ノロマと言われてもいい!

 盾役だろうが、肉壁だろうが、捨て石だろうが───なんでもいい!!

「俺はタンク戦車だ!!!」

 望むと望まざると、タンクなんだ!

「───タンクなら、タンクらしくお前たち魔物から仲間を守るのが仕事だ!」

 だから、
「俺の仲間に手を出すなぁぁぁあああ!!」

 突撃ぃぃぃいいアングリィィイフ!!

 ───ドッカーーーーーーーン!!

 茫然としている魔物の群れを、次々に引き潰すアルガス。

 というか、その圧倒的蹂躙力にアルガス自身が仰天していた。

「──ま、まじ? 俺どーなってんの?!」

 信じられないことだが、アルガスの体は鋼鉄に覆われている。

 そして、ランクアップ後に明かされる情報開示が来た!
 徐々に、徐々にと、天職の情報がアルガスに流れ込んでくる───。

 重戦士から重戦車へと!!
 「重戦士ヘヴィアーマー」→「重戦車ヘヴィタンク」!!

 アルガスの頭に重戦車の情報が!
 の者の戦歴が!!

 そして…………、
 ───あの戦場がぁぁぁぁあああ!!!

 それは、
 南はアフリカ、北はロシアまで、ヨーロッパ中と地中海世界を駆け抜けた鋼鉄の騎士!

 全てを防ぎ、あらゆる砲弾を跳ね返し、戦友を守るための重戦車!!


 そうとも───それが、重戦車だ!!

 ───重戦車ティーガーⅠアルガス・ハイデマンである!!!!

「ミィナぁぁぁああああ!!」

 グッッッシャァァア……!!

 碌な抵抗も出来ずに、魔物たちが轢き潰されていく。
 そして、逃げ惑う!!

 アルガス重戦車から逃げ惑うのだ!!

 逃げたところで……。

「───だが、許さんッ!! ミィナが死んでいたら、お前たちを俺は許さ」
「あ、あの……」

「許さーーーーーーん、って───ん?」
「あ、お、オジさん───その?」

 え?

 あれ?

 視界が目まぐるしく切り替わる。
 本当にアルガスの体はどうなってしまったのだろうか?

 妙に高い視界から、脳内に別の映像が現れる。
 それは鋼鉄の体の内部───。
 アルガスの重戦車の中だった。

 そこにミィナはいた。

 戸惑った顔で、キョロキョロとしつつ、鋼鉄の体のあちこちに触れる───やべぇ、くすぐったい。

 うん…………。
「───オジさんちゃうわ!! まだ二十代だっつの!」

 そうだ、オジさんじゃない!
 見た目が厳ついから、年食って見えるけど……、
 
 って、ちゃうちゃうちゃう!!
 そこと、ちゃう!!

「ミィナ?!」
「オジさん───あ」

 オジさんちゃう!!───けど、話進まんから、今はスルー!

「アルガスでいい」
「あ、アルガス───さん」
「おう。……無事でよかった」
「は、はい! え、えっと……その?───ここは……」

 あーうん。
 ……………………どこなんだろう?

「あー……俺の中?」

 中……だよね?
 つーか、俺今どうなってんの?!

 ちょ、ちょっとステータスを───!

 ブゥン……!

名 前:アルガス・ハイデマン
職 業:重戦車(ティーガーⅠ)

体 力:1202
筋 力: 906
防御力:9999
魔 力:  38
敏 捷:  58
抵抗力: 122

※ 状態異常なし

残ステータスポイント「+1001」

スキル:スロット1「戦車砲56口径88mm砲
    スロット2「車載機関銃MG34
    スロット3「対人地雷Sマイン投射」
    スロット4「履帯蹂躙轢き殺せ
    スロット5「未設定」
    スロット6「未設定」
    スロット7「未設定」
    スロット8「未設定」


 うお……。

 なんじゃこりゃ?!

 スキルのスロットまで増えとるし!
 前のスキル消えとるし!!

 つーか、重戦車ってなんやねん?!

職業:重戦車(ティーガーⅠ)←「ヘルプ」

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 ※備考欄※
 重戦車(その1)ティーガーⅠ

 重量57t。
 正面装甲100mm。
 マイバッハ製700馬力エンジン。

 路上走行、最大速度40km/h
 路外走行、最大速度25km/h

 主砲、
 56口径───88mmアハトアハト戦車砲を搭載
 副武装、
 車載機関銃MG347.92mm機関銃3丁を装備
 (内1丁は対空機銃)
 対人兵器
 Sマイン対人地雷を各所に装備

 ドイツ軍、最強の戦車────。








 ドイツ軍???
 戦車???




「───戦、車…………………………って、うん。………………わからん」
「え?」

 いや、わかるか!?
 わかるわけあるか!!!

 なんやねん!
 エンジンとか、主砲とか、対人兵器って!

 装甲100mmとか───アホですか?!
 そんなもん着てたら動けるか!!

 って動いとるがな!!

 しかも、時速25km/h~40kmって、アホか!!

 もっぺんいうわ、アホかーーーーーーーー!!!!!!

 そんなもん、ノロマちゃうわ!!
 俊足でんがな!!

 めっちゃ、早いやん?!

「これ……………………『重戦車』って、最強なんじゃね?」

 アルガスがポツリと呟いた先で、魔物の群れは無意識に走り回っていたアルガスによって殲滅されていた。


 無慈悲な重戦車は、一匹の魔物をも余すことなく蹂躙し、大地に刷り込んでいったのだ───。

 アルガス・ハイデマン───!

 軍団を一人で殲滅すワンマンアーミー───……。
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