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第32話「嵐を呼ぶ女」

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「この子の保護者っちゅうんは、どいつやぁぁああ!」

 バーーーン!! と、ギルドのスイングドアを胸で押し開ける小柄な人影が一人───いや、二人だ。

 一人はミィナ。
 お菓子をいっぱい抱えてニッコニコ。

 もう一人はミィナを小脇に抱えた見覚えのない、チンマイ少女─────誰だコイツ?

 ……っていうか、ミィナ!

 ミィナはアルガスの姿を見つけると、少女から離れて、満面の笑みでテテテテーと小走りで近づき、

「見て見て~♪ アルガスさん! お菓子一杯貰っちゃったー! お金足りなかったんだけど、この人が───」

 ゴンッ!

「あぅち!」

 ミィナにゲンコを落とすアルガス。
 一瞬で涙目になるミィナだが、その頬を掴み、ギニューーーン……と引っ張る。

「いはいいはい、いはいほー!」
(痛い、痛い 、 痛いよー!)

 痛い痛いと訴えるミィナだが、アルガスは容赦しない。
 というか、そこまでキツクはしていない。
 当たり前だが……。

「ミィナ……。俺は何つったか覚えてる?」
「ほえ?」

 ハテナ顔のミィナに、ニッコリ笑いかけるアルガス。

「───さん、はい♪」

 頬をはなし、目が笑っていない顔でミィナを促すと、

「あ、あぅ……。えっと、『知らない奴から物を貰わない……。知らない奴に着いていかない……。メイベルとザラディンはぶん殴るぅ?』───」

「その通りだ! おまッ! それを知っていながら、知らない奴からお菓子貰って、着いていっとるやないかい! ツーアウトやぞ。ツーアウトぉぉお!」

 アルガスの剣幕に驚き、涙目のミィナ。

 だけど、こういうのはしっかりしないとダメ!
 教育と躾は大人の仕事!!!

 昔、リズが誘拐されたことがあったが、あれもこんな状況だったという。
 だからね!
 知らない人は、怖い人と思いなさいッ!

「はぅぅう……ごめんなさい」

 シュ~~~ン……としたミィナ。

 うむ。反省してるようなので、ここらへんで───、
「───お前は、小~さい子に、何をしとんねんッ!」

 ゴッキン!!!───「ブハッ!」

 と、唐突に目の前にゲンコツが飛んでくる。
 あまりにも至近距離であったため、アルガスをして反応が遅れるも───。

 ゴキン、とイイ一撃……。

 が、
「──────い、……ったぁぁあ! いったッ、いったいわぁぁぁあ!! な、何食うたらそんな固くなるねん!」

 防御力9999は、伊達じゃないぞ。

「ブッ……てめぇ」

 アルガスの鼻っ面に思いっきりパンチをくれやがったのは、さっきまでミィナを抱えていた少女だ。

 赤い髪に鼻眼鏡。
 チッパイ&背も低く、どうみても少女にしか見えないが……。

 そいつが、殴りたての手を押さえて、ピョンピョン跳ねていやがる。
 フーフーと、真っ赤に晴れた手に息を吹いているが、人をぶん殴っといて何それ?!

「イッタぁぁ……。アンタどんだけ固いねん!」
「一発は一発だ」

「え?」

 キョトンとした少女に向け、アルガスがゆら~りと立ち上がる。

 防御力が9999でもな、痛いものは痛いねん。
 特に鼻っ面とか、急所だしね……。

 しかも、コイツ子供の割にスゲー力がある。

 タラーと、アルガスの鼻から血が一筋───。

「──────こぉんのクソガキ!!」

 ゴッツンッ!!───「はぶぁ?!」

 多少は手加減しつつも、脳天に一発ゲンコツを落とす!

 少女は顔面を爆発させつつ、床にビッタ―ン!! と叩きつけられ、カエルを潰したような声をあげている。

「うぶぶぶぶぶ……。あ、アンタぁあ、」

 ヨロヨロと体を起こしつつ、凄い恨みがかった目でアルガスを見上げると、

「───こ、こんな美少女に手をあげるとかありえへんで……!」

「自分で美少女とか言ってんじゃねぇよ!」

 なんか、戯言たわごとをほざいているが、ガン無視だ。
 いつの間にかミィナが泣き止み、少女の頭をイイコイイコしている。

「───くぅ。屈辱だわー。オッサンに罵倒されるとか、ありえへんで」

 ブルブル震えながら立ち上がると、ガン泣きしてやがる。
 しかし、それを無視しつつ、アルガスは席についてエールをグビグビ。

「ミィナ座れ。説教は終わりだ」
「無視ぃ?!」

 少女は無視されたことにさらに腹を立ててプンプンと怒っているが、相手にするだけ面倒くさい。

 事情はあとでミィナに聞こう。

 しかし、そこに、
「───あー。アルガスさん……?」

 困惑顔をした副ギルドマスターのリーグがいた。

「なんだよ?───向こうが殴って来たんだが……」

「あ、いえ。そのことではなくて」
「そのこと、ちゃうんかい!?」

 少女がピーピーと言っているがリーグもガン無視。

「───この方です。アルガスさんを探しているのは……」


「は?」


 なにやら、いきなり面倒くさい予感にアルガスの表情が引き攣った。
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