上 下
23 / 44

第23話「任務変更!! 変更ぉぉおお」

しおりを挟む
「んで、今日は何よ? わたしも暇じゃないんで、さっさと言えや」

 据わった目をしたシェイラさん。美人なだけに、超怖い。

「あ、いや、ほら!! これぇぇえ!! 見て、聞いて、読んで、感じてぇぇぇえ!! もーーーー読んで読んでぇぇえ!」

 …………うっざ。

「ペッ! 貸せよ。ん~……何々? ヴァイパーやるじゃない。細かく勇者パーティを見ている──」
「あの……シェイラ──────さん? 唾とか吐かないで欲しいんですけど」
「はぁっ?」

 ジロリ……。

「すんません」
「けっ。───で、なになに……ふんふん。ふむふむ──────って?!」

 あっ!

「な、見ただろッ?! 気付いただろ! な! な! なぁぁあ!?」

「あ、はい。こ、これは確かに───……」
「なッ?! なっなっなぁ?! なぁ!? 思うだろ? 思うだろぉ!? 絶対思うよな!?」

 な、何してんのコイツ?
 何、敵の弱点を克服してあげちゃってんの???

 そいつ、勇者パーティの回復役だよ?!
 一番最初に仕留めたい候補ナンバーワンだよ?!

 それを……。
 それを……!!

 しかも、絶体絶命のピンチを何で助けてるの???

 え??
 え、え、え???

 えええええ??!!

「い、意味わかんないいでしょ?!」
「い、意味わかりません……!!」

 だろ?
 絶対そうだろ??

「なんで? 何で殺さないの?!」
「何で勇者パーティのメンバー助けちゃってるの?!」

 しかも、トラウマ克服とか……!!
 おまけに、滅茶苦茶強力な浄化魔法の覚醒とか!!

 いや、もう!

「いや、どーーーーすんの、これ??」
「いや、どーーーーしましょうか、これ?」

 最近人手不足気味の魔王軍。
 人材募集もままならないので、墓場を掘り起こしてアンデッドを使役しているんだけど───。
 だけど!!

「「───だけどぉぉぉぉお!!」」

 こ、ここここここ、こんなヤバイ能力持った奴いたら勝ち目ないやん?!
 リッチ高位アンデッドも浄化しちゃうとか、どんだけぇ?

 しかも、効果範囲ヤバくない?!
 数キロ?!

 え? マジ?

 今、魔王軍絶賛再建中で、アンデッドを大量使役して員数合わせてるのに……。

 え? どうすんの?

「え。これ詰んでない?」
「え。あ、はい。ここから巻き返すとか──無理、かと」

 ですよねぇ~?!

「ど、どどどど、どーーーーーすんの?! 再編計画見直し? え、徹夜? え、また徹夜? え、軍部の連中にチクチク嫌味言われながら徹夜? ねぇ?! ねぇ、姉ぇぇえええ!!」
「うっせぇなぁ。寝れる日があるだけでもありがたいと思えッつの……」

 いや、どーーすんのよ?!
 マジにやばいんですけど。

 この大僧正が覚醒しちゃったら、アンデッドの軍隊なんてただの案山子かかしですよ?
 後方でしか使えないばかりか、下手すりゃそれも、おじゃん・・・・……。

「やっべぇ……」

 勇者ナナミだけでも厳しいのに、何を敵に塩を送りまくってるのかな、隠密のヴァイパーさんはよぉぉぉお!!

 しかも、なに?
 添い寝?
 二人の女の子と?

 え?
 ちっちゃい子とイチャイチャ・ラブラブ?

 え?
 いいのそれ?

「ダメでしょ?」
「アウトですね」

 ヴァイパーのアホは気付いてなさそうだけど、これって二人とも完全に惚れてるよね?

 シレ~っとハーレム作りそうだよね?

 なによ、日替わりで添い寝とか。

 え?
 何それ?

 魔王様だって、母ちゃんと添い寝してもらったことくらいしかないよ??

 なにそれ。ズルい。
 ワシも添い寝して欲しい。

「シェ───」
「殺すぞジジイ」

 いや、何も言ってないけど───……。

 え、っていうか今、
「───殺すって言った?」
「さぁ?」

 いや、
 いやいやいや……。

「言ったよね?」
「シツコイと嫌われますよ。クソジジイ」

 あ、ほらぁ!!
 言ってるじゃん!!

「言ってません。殺すなんて言ってません死───ね」

 いや!!
 いやいやいや!!

「言ったじゃん!! 今死ねって言ったじゃん!!」
「言ってねぇつってんだろ! 死ねクソジジイ!!」
「言ってる言ってる!! 言ってる死ぃぃぃね!!」
「お前が死ね! 死ねバーーーーカ!!!」
「あーーーーー! 言ったな、言ったな! はい、減給ッッ! 懲戒処分決定ぇぇえ!」
「はーーーー?! そーいうの、パワハラっていうんですよ!? はい、組合に訴えますぅ」
「やってみろターコ!」
「死ねジジイ!!!!」


 ぎゃーぎゃー!!

 わーわーわー!!


「くっそ! ろくな部下がいねぇえ! おい、人事担当!! 人事課ぁぁぁぁあ!! 来ぉい!」
「うるせぇえ!! 経営者がクソ野郎だから部下が苦労してんだよ!! はい、転職ぅぅう!!」


 はぁはぁ……!
 ぜぃぜぃ……!


「くっそ……仕事が終わらねぇ……」
「アンタのせいでしょうが……。あー無駄な時間過ごしたッ!」

 こ、こいつ……。

「言っとくけど、ちゃんと管理職手当はあげてるからね? 知ってる? 四天王は給料イイんだよ?」
「あーはいはい。ひとりで言ってろジジイ。んで何よ? いいからお前は、はよ対策たてろやッ。ヴァイパーの奴、何も分かってないわよ?」

 そうなんだよ……。
 あの子、アホの子なんだよ……。

「いや、お前からもアイデア出してよ。ほら、若い感性ってやつで」
「そー言うの、丸投げとか、無茶振りって言うんですよ」

 そうなんだけどね……。

 いや、だって、どうしろっていうの?
 こんなアホなスパイ、みたことない。

「いっそ撤収命令を出しますか? ヴァイパー抜きの方がまともな戦争できるかもしれませんよ?」
「だよね~……う~~~~~~~~ん」

 魔王デスラードは頭を抱えて悩みこむ。
 ヴァイパーのやっていることは、全部裏目に出ている気がしてならないのだ。

 だが、現在に至るまで勇者パーティに潜入し、正体がバレていないという実績があるうえ、確実に勇者パーティの内情を入手しているのも事実。

 そんな芸当が他の者にできるかというと、それも難しいだろう。

 なにより、一応は勇者パーティの信頼を得ているのだ。
 少なくとも、添い寝するくらいには……。

「も、もう少し様子を見るか……」
「仕方ありませんね───」

 だけどね、敵のトラウマ解消してあげて戦力大幅アップとかは───……。
「───やめて欲しいね~」
「ですね~……」

 うーん……と、考え込む二人。
 ぶっちゃけ、妙案はないのだ。

 こういうのは、一々言わずとも忖度そんたくしてなんぼ・・・ではないだろうか?

「取りあえず、交代要員を探しつつ、現状は命令を厳格にするべきでしょう」
「やっぱそれしかないよね? バカだもんね、アイツ」

 シェイラの意見にウンウンと頷く魔王。

お前・・ほどではないけどね。……コホン、では命令の素案を作りましょう」
「おい」
「まずは、勇者パーティに利することがない様に、しっかりと明文化するべきです」
「おい!」

「何スか?」

 いや、何スか? って軽いねシェイラちゃん。

「お前、口悪すぎ」
「オメェは頭が悪すぎなんだよ」

 ンッだ、このアマ!!
 黙ってりゃ、つけ上がりやがって!!

「テメェ、ごるぁ───」
「辞表出しますよ」

 ………………あ、サーせん。

「もっと誠実に」
「………………すみません。補佐役のシェイラさんがいなくなると、我が軍ガタガタです。ごめんなさい。生意気な口ききません」

 「うむ」とシェイラが満足げに頷き仰け反る。
 大きなおっぱいがブルルんと揺れた。

 おー……。

「では、この程度でいかがでしょう?」

 追加命令(案)
 〇 勇者パーティに利するべからず。

「おー……いいんじゃない? でも、これアイツに分かるかな? 「───利する」っていうとこだけど───これって具体的な基準ってないじゃん?」
「具体的なところは自分で考えてください」

 あ、はい。

「────結局のところ、現地の判断に委ねるしかありません。ヴァイパーが勇者パーティ内で自由に動けるのは、の者が我が軍を相手にしても容赦がないからでしょう」
「確かに……。この命令だと、我が軍に対して指一本触れられなくなるのぉ……」

 うーーーーむ……。

「よし!! こうしよう───」
 ガタンッ! とけたたましい音を立てて立ち上がる魔王は、薙ぎ払うようにして手を払うと命じた。



「隠密のヴァイパー告ぐ、」


 
 魔王デスラードの思い付きに近い命令が届くのは、かなりあとのこと。

※基本命令※
〇いかなる理由があっても勇者パーティのメンバーであると偽れ
〇例え、魔王軍と戦うことがあっても味方と思うな、勇者に協力し信用を獲得せよ
〇ホウレンソウ《報告・連絡・相談》を確実に実施せよ
〇勇者を確実に殺せる隙があれば殺せ───

※追加命令※
〇敵の弱点を最大限に利用せよ
しおりを挟む

処理中です...