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第2話「絶望の言葉すら生ぬるい」
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エミリアが囚われてから時がたち───。
ついに魔族最後の拠点が陥落した。
「全ての魔族が降伏ッ!───ここに魔族領の完全制覇を宣言するッッ!」
帝国軍の侵攻部隊最高司令官のギーラン将軍が高らかに告げた。
少し前から、鈴なりになった魔族の捕虜が旧エーベルンシュタットの前庭に運び込まれ、次々に断頭されていく。
「お願いします! 命だけはぁぁあ! ぎゃああああ!」
「お母さん! おかあさーーん!!」
ぎゃははははははははははははは!!
わはははははははははははははは!!
喊声を上げる帝国兵たち。
そして、そこかしこで上がる悲鳴の数々。それは古今東西、陥落した都市で起こる殲滅戦の様相だった。
「……まったく下品極まりないですねー」
その様子をつまらなさそうに見ている帝国の賢者ロベルトが、勇者に話しかけた。
「ところで勇者殿……エミリアのこと、よろしかったのですか?」
「はぁ?…………何が??」
聖剣をボロ布で磨きながら、まったく心当たりがなさそうに答えた。
そこに、
「ほぉらぁ、あの哀れなダークエルフのことよー」
「おいおい、シュウジ──助命を約束したんじゃなかったのかのー? 散々に甚振っといてからに?」
ケラケラと笑いながら現れたのは、
ロベルトと同じく勇者小隊の一員で、森エルフの神官長サティラとドワーフの重騎士グスタフだ。
……自分たちも散々にネチネチとエミリアを甚振っておいて、まるで他人事のよう。
「約束ぅ? あー…………あれか。どーーーーーでもいいよ。あんな、汚くてクセぇ女とした口約束なんざ、もう時効・時効~」
心底どうでもよさげな勇者の言葉。
「あ! それなら、アタシに頂戴よ。ダークエルフの一派は、我らエルフ族の汚点なのよ、一人残らず死滅させず義務があるわ」
「おいおい、それを言うならわしらドワーフに任せるべきじゃろ? エルフは皆───」
ギロッ!
「それ以上言ったらぶっ殺すわよ、おじいちゃん」
「あんだと! この年増がぁぁあ!」
ギャイギャイと騒がしい勇者小隊の面々を見ながら、ゲラゲラと笑う勇者。
「はは! エミリアは人気者だなー。しばらくとはいえ、俺のパーティのマスコットだったからな」
「くく……。マスコットねぇ、あれがぁ?───ペットの間違いでしょうに。……さんざん皆で虐め、ゲフンゲフン、遊びましたからね~。まだ生きてるのが不思議なくらいですよ」
隷属の首輪で『魅了』されたエミリアは、恐ろしい程に従順だったので、口にするのも憚られる程おぞましい行為の数々を試した。
頑丈なだけが取り柄のダークエルフだからこそ、生きていたものの、並の人間なら100回は死んでもおかしくはない。
「ん? ロベルト、なんだ? もしかして───お前、あのガキが欲しいのか?」
「えぇ。僕は、彼女の【死霊術】に興味がありますね。【アンデッド】の呪印にあれほど手を焼かされたのです───……帝国一の頭脳、賢者として知的好奇心が疼きますよ!!」
「そうか。そうだな……。ちょうど、戦争も終わったみたいだし──────」
ニヤリと笑った勇者は、全員に振り返ると、
「エミリアを連れてこいよ、………………最後に盛大にやろうぜ」
ぎゃはははははははははははははははは!
数分後……。
「おら! 起きろッ!!」
「おらぁぁあ!!」
桶いっぱいの水を運んできた帝国兵たちが、エミリアの柔な肌に水をかけ無理やり覚醒させる。
「寝ぼけてんじゃねぇぞ! クソ売女が!」
ボロクズの様に地面に転がるエミリアを蔑む帝国兵。
「ガハッ! ゲホ、ゲホ!!…………あ、あれ?」
意識が朦朧としていたエミリアは、自分の首から隷属の首輪が外されていることに気付いた。
何日ぶりに事だろう……?
「よう! お目覚めか、エミリア───」
「ぐ……! 勇者、さま」
刷り込み現象のように、反射的に勇者の靴に口づけしようとするが、
ごッ!!
「きったねぇ! 触るじゃねーよ! いつまで、呆けてんだ? もうとっくに、『魅了』は解けてんだろ?」
ブチブチブチ……!
「きゃあ!」
エミリアの髪を掴んで起こす勇者。
(……く、一体何が? まるで頭に霞がかかっていたような……??)
ぼんやりとした思考を手繰り寄せると、ハッ! して周囲を見渡す。
そこにはニヤニヤと笑う帝国の軍人どもと、勇者小隊の面々。
「お、ようやくシャンとしたか? みろよ───そろそろ、メインイベントだぜ?」
「な、なにが…………?」
「いいから見ろってーの!」首を掴んで無理やり振り向かせる勇者。
そこに、エミリアは多数の人影を捉えた。
「え……?」
ぽかんと口をあける。
そこにいたのは───。
エミリアと同じ褐色の肌。
長い笹耳───。
白銀の髪、
そして、よく見知った人々………………。
「う、そ」
あ、あれって───。
まさ、か……。
「みん、な?」
「───そ、ダークエルフの皆さんだぜぇ」
ちょ、
ちょっと待ってよ───。
「な、なんで皆が捕まってるの? なんで? て、抵抗しなければ、服従すれば……。な、仲間は見逃すって……。あんな、処刑の列になんて……!」
「ん~そうだったっけ?」
すっとぼける勇者を見て思わず激高するエミリア。
「い、言った! 言ったじゃないか! いった! 言った言った!!確かに言ったぁぁあ──!!」
ダメ!
ダメだ! ダメ!!
傷だらけになりながらも、ズルズルと勇者に這い寄るエミリア。
「勇者さま、しゅ、シュウジさま……! 何でもします。なんでも!!」
その靴の先に口づけする。何度も何度も口付けする。
服従しろというならする!
拷問でも何でも好きにすればいい───……だから!!
何をおいても、皆だけは守らなければ。
父よ母と、仲間とルギアをぉぉおおお……!
「おいおい、感動的だな、おい~。俺も涙が出てきたぜ──」
お涙頂戴のエミリアに勇者が顔を覆って天を仰ぐ。
ブルブルと震えているのは泣いているのだろうか?
他の勇者小隊の連中も涙を───……。
これは、言葉が…………思いが通じた?
みんなを助けて───……
いや……違う。わ、笑って……?
「「「「ブハハハハハハハハハ!」」」」
バンバンと膝を叩いて笑う勇者たち。帝国兵も加わり大笑いだ。
「いやー! お前は面白いなぁ!? なぁ、エミリアぁ」
「……え?」
ポンと優し気に肩を叩く勇者に思わず顔をあげたエミリアであったが、その顔が徐々に絶望に染まっていく。
「……本当に約束守ってもらえると思ってたのかぁあ?」ニタァァア!
こ、コイツ───……!
「……お前よぉ、散々帝国軍を殺しまくったんだぜぇ? 今さらケツを振ったくらいで誰が見逃すかよ。ほんっと馬鹿だな」
そんな……。
「そんなぁぁ…………」
なら、あの服従の日々は何だったのだ?
あの激痛は? あの屈辱は……。
あ、あの……。あの───。
あ、
「……あ、あんなものまで食べたのイぃぃぃぃぃいいいいいいいいい!!!」
服従を強いられていた日々が次々にフラッシュバックし、精神が汚染されていくエミリア。
もう、何が正しくて、何が間違っていたのかすらわからない。
ただただ、苦いものが喉からこみあげてきて───。
うぐぉえ……!
「───おえええええええ……!」
「「「「ぎゃはははははははははははははは!」」」」
ヒーヒー! と腹を抱えて笑い転げる勇者たち。
そして、彼等は言った。
軍人たちが捕虜たちの背後に立つと、一斉に剣を振り上げる。
そして、それを合図にピタリと笑いを止めると、
「───そんじゃま、…………やれッ」
パチン。
そう指をはじくと、帝国軍と勇者小隊が一斉に拘束されているダークエルフたちに襲い掛かる。
ひ……!
「「「「うわぁっぁあああああああああああああああああ!!」」」」
その瞬間、無数の血煙が舞い上がる!!
「い、いやぁっぁぁああああああああああ!! やめてぇぇぇええ!」
思わず手を伸ばすエミリアであったが、もう遅い!
帝国軍の兇刃が次々にダークエルフの首を刎ね、腹を切り裂き、血の海に沈めていく!!
「やめて、やめて!!」
やめてぇぇぇーーーーーーーーーーーーーーーーー!!
絶叫するエミリア。
だが、帝国軍に止める道理はない。
誰も彼も、微塵も敵であり、魔族であり、ただのダークエルフに好意を持っていないのだ。
ましてや、捕虜……生かしておく理由など、どこにもないのだ。
「よ、よせ!」
「やめろ!!」
「た、助けてくれ───」
命乞いするダークエルフ達。
それを完全に無視して、捕虜になったダークエルフ達を帝国兵が競って殺し合う。
人の兵士も、エルフの兵士も、ドワーフの兵士も、ゲラゲラと笑いダークエルフを殺しつくす。
ゲラゲラとゲラゲラと。
阿鼻叫喚の悲鳴など聞くこともなく……。
「うわぁぁぁぁああ! 皆ぁぁぁぁぁああ!!」
心が……!
心が死んでいく───……!
みんなが死んでいく…………!
何を賭しても守りたかったものが死んでいく───!!
「そんな! なんでこんなことを?! 私が何を?! みんなが何を?! ねぇぇぇええ!」
知るか、ばーーーーーーーーーーーーーーか!
お前らは「敵」。ただそれだけだよ、ばーーーーーーーーーか!
「い、いやぁっぁあああああああああああああああああああああああああああ!!」
「「「ぎゃははははははははははは!」」」
笑う。
笑う勇者たち。
そして、
「……そんじゃ、フィナーレだぁぁあ!!」
パチン! と指を弾く勇者。
その合図をみて、捕虜の間から進み出て来たもの───。
「もういい! もうやめて! もう、たくさんよぉぉおお!」
泣き叫ぶエミリアであったが、その涙をそっと拭ってくれる人がいた。
それは一人の女性。
勇者に呼ばれて進み出て来た、美しい女……。
「え? あ……ル───」
それは、よく見知った…………。
「る、ルギア?」
「えぇ、義姉さん。お久しぶりね」
ニコリと優し気に微笑むのは、ルギア・ルイジアナ───エミリアの仲間にして、義理の姉妹の契りを交わした大切な人。
家族……。
「なん、で? ここ、に?」
うふふふ。
ルギアの微笑み。
「それはね?…………はい、これ」
ルギアがそっと手渡してくれたもの。
それは、まぁるい、まぁるい…………。
「今日までお勤めご苦労様でした、義姉さん」
そういってニコリとほほ笑み、
這いつくばるエミリアの目の間にそっと渡したのは二つの生首。
「ひ、」
ひ、……!
「ひぃぃぃいいいいいいいい!!
それをみて、エミリアの髪が一瞬にして白く染まっていく!!
「いやぁっぁああああああああああああ!!」
なんで?
なんで?
なんで隠れてなかったのぉ!?
どさ、コロコロ……。
転がる生首───。
「───父さん、母さん!!!」
ついに魔族最後の拠点が陥落した。
「全ての魔族が降伏ッ!───ここに魔族領の完全制覇を宣言するッッ!」
帝国軍の侵攻部隊最高司令官のギーラン将軍が高らかに告げた。
少し前から、鈴なりになった魔族の捕虜が旧エーベルンシュタットの前庭に運び込まれ、次々に断頭されていく。
「お願いします! 命だけはぁぁあ! ぎゃああああ!」
「お母さん! おかあさーーん!!」
ぎゃははははははははははははは!!
わはははははははははははははは!!
喊声を上げる帝国兵たち。
そして、そこかしこで上がる悲鳴の数々。それは古今東西、陥落した都市で起こる殲滅戦の様相だった。
「……まったく下品極まりないですねー」
その様子をつまらなさそうに見ている帝国の賢者ロベルトが、勇者に話しかけた。
「ところで勇者殿……エミリアのこと、よろしかったのですか?」
「はぁ?…………何が??」
聖剣をボロ布で磨きながら、まったく心当たりがなさそうに答えた。
そこに、
「ほぉらぁ、あの哀れなダークエルフのことよー」
「おいおい、シュウジ──助命を約束したんじゃなかったのかのー? 散々に甚振っといてからに?」
ケラケラと笑いながら現れたのは、
ロベルトと同じく勇者小隊の一員で、森エルフの神官長サティラとドワーフの重騎士グスタフだ。
……自分たちも散々にネチネチとエミリアを甚振っておいて、まるで他人事のよう。
「約束ぅ? あー…………あれか。どーーーーーでもいいよ。あんな、汚くてクセぇ女とした口約束なんざ、もう時効・時効~」
心底どうでもよさげな勇者の言葉。
「あ! それなら、アタシに頂戴よ。ダークエルフの一派は、我らエルフ族の汚点なのよ、一人残らず死滅させず義務があるわ」
「おいおい、それを言うならわしらドワーフに任せるべきじゃろ? エルフは皆───」
ギロッ!
「それ以上言ったらぶっ殺すわよ、おじいちゃん」
「あんだと! この年増がぁぁあ!」
ギャイギャイと騒がしい勇者小隊の面々を見ながら、ゲラゲラと笑う勇者。
「はは! エミリアは人気者だなー。しばらくとはいえ、俺のパーティのマスコットだったからな」
「くく……。マスコットねぇ、あれがぁ?───ペットの間違いでしょうに。……さんざん皆で虐め、ゲフンゲフン、遊びましたからね~。まだ生きてるのが不思議なくらいですよ」
隷属の首輪で『魅了』されたエミリアは、恐ろしい程に従順だったので、口にするのも憚られる程おぞましい行為の数々を試した。
頑丈なだけが取り柄のダークエルフだからこそ、生きていたものの、並の人間なら100回は死んでもおかしくはない。
「ん? ロベルト、なんだ? もしかして───お前、あのガキが欲しいのか?」
「えぇ。僕は、彼女の【死霊術】に興味がありますね。【アンデッド】の呪印にあれほど手を焼かされたのです───……帝国一の頭脳、賢者として知的好奇心が疼きますよ!!」
「そうか。そうだな……。ちょうど、戦争も終わったみたいだし──────」
ニヤリと笑った勇者は、全員に振り返ると、
「エミリアを連れてこいよ、………………最後に盛大にやろうぜ」
ぎゃはははははははははははははははは!
数分後……。
「おら! 起きろッ!!」
「おらぁぁあ!!」
桶いっぱいの水を運んできた帝国兵たちが、エミリアの柔な肌に水をかけ無理やり覚醒させる。
「寝ぼけてんじゃねぇぞ! クソ売女が!」
ボロクズの様に地面に転がるエミリアを蔑む帝国兵。
「ガハッ! ゲホ、ゲホ!!…………あ、あれ?」
意識が朦朧としていたエミリアは、自分の首から隷属の首輪が外されていることに気付いた。
何日ぶりに事だろう……?
「よう! お目覚めか、エミリア───」
「ぐ……! 勇者、さま」
刷り込み現象のように、反射的に勇者の靴に口づけしようとするが、
ごッ!!
「きったねぇ! 触るじゃねーよ! いつまで、呆けてんだ? もうとっくに、『魅了』は解けてんだろ?」
ブチブチブチ……!
「きゃあ!」
エミリアの髪を掴んで起こす勇者。
(……く、一体何が? まるで頭に霞がかかっていたような……??)
ぼんやりとした思考を手繰り寄せると、ハッ! して周囲を見渡す。
そこにはニヤニヤと笑う帝国の軍人どもと、勇者小隊の面々。
「お、ようやくシャンとしたか? みろよ───そろそろ、メインイベントだぜ?」
「な、なにが…………?」
「いいから見ろってーの!」首を掴んで無理やり振り向かせる勇者。
そこに、エミリアは多数の人影を捉えた。
「え……?」
ぽかんと口をあける。
そこにいたのは───。
エミリアと同じ褐色の肌。
長い笹耳───。
白銀の髪、
そして、よく見知った人々………………。
「う、そ」
あ、あれって───。
まさ、か……。
「みん、な?」
「───そ、ダークエルフの皆さんだぜぇ」
ちょ、
ちょっと待ってよ───。
「な、なんで皆が捕まってるの? なんで? て、抵抗しなければ、服従すれば……。な、仲間は見逃すって……。あんな、処刑の列になんて……!」
「ん~そうだったっけ?」
すっとぼける勇者を見て思わず激高するエミリア。
「い、言った! 言ったじゃないか! いった! 言った言った!!確かに言ったぁぁあ──!!」
ダメ!
ダメだ! ダメ!!
傷だらけになりながらも、ズルズルと勇者に這い寄るエミリア。
「勇者さま、しゅ、シュウジさま……! 何でもします。なんでも!!」
その靴の先に口づけする。何度も何度も口付けする。
服従しろというならする!
拷問でも何でも好きにすればいい───……だから!!
何をおいても、皆だけは守らなければ。
父よ母と、仲間とルギアをぉぉおおお……!
「おいおい、感動的だな、おい~。俺も涙が出てきたぜ──」
お涙頂戴のエミリアに勇者が顔を覆って天を仰ぐ。
ブルブルと震えているのは泣いているのだろうか?
他の勇者小隊の連中も涙を───……。
これは、言葉が…………思いが通じた?
みんなを助けて───……
いや……違う。わ、笑って……?
「「「「ブハハハハハハハハハ!」」」」
バンバンと膝を叩いて笑う勇者たち。帝国兵も加わり大笑いだ。
「いやー! お前は面白いなぁ!? なぁ、エミリアぁ」
「……え?」
ポンと優し気に肩を叩く勇者に思わず顔をあげたエミリアであったが、その顔が徐々に絶望に染まっていく。
「……本当に約束守ってもらえると思ってたのかぁあ?」ニタァァア!
こ、コイツ───……!
「……お前よぉ、散々帝国軍を殺しまくったんだぜぇ? 今さらケツを振ったくらいで誰が見逃すかよ。ほんっと馬鹿だな」
そんな……。
「そんなぁぁ…………」
なら、あの服従の日々は何だったのだ?
あの激痛は? あの屈辱は……。
あ、あの……。あの───。
あ、
「……あ、あんなものまで食べたのイぃぃぃぃぃいいいいいいいいい!!!」
服従を強いられていた日々が次々にフラッシュバックし、精神が汚染されていくエミリア。
もう、何が正しくて、何が間違っていたのかすらわからない。
ただただ、苦いものが喉からこみあげてきて───。
うぐぉえ……!
「───おえええええええ……!」
「「「「ぎゃはははははははははははははは!」」」」
ヒーヒー! と腹を抱えて笑い転げる勇者たち。
そして、彼等は言った。
軍人たちが捕虜たちの背後に立つと、一斉に剣を振り上げる。
そして、それを合図にピタリと笑いを止めると、
「───そんじゃま、…………やれッ」
パチン。
そう指をはじくと、帝国軍と勇者小隊が一斉に拘束されているダークエルフたちに襲い掛かる。
ひ……!
「「「「うわぁっぁあああああああああああああああああ!!」」」」
その瞬間、無数の血煙が舞い上がる!!
「い、いやぁっぁぁああああああああああ!! やめてぇぇぇええ!」
思わず手を伸ばすエミリアであったが、もう遅い!
帝国軍の兇刃が次々にダークエルフの首を刎ね、腹を切り裂き、血の海に沈めていく!!
「やめて、やめて!!」
やめてぇぇぇーーーーーーーーーーーーーーーーー!!
絶叫するエミリア。
だが、帝国軍に止める道理はない。
誰も彼も、微塵も敵であり、魔族であり、ただのダークエルフに好意を持っていないのだ。
ましてや、捕虜……生かしておく理由など、どこにもないのだ。
「よ、よせ!」
「やめろ!!」
「た、助けてくれ───」
命乞いするダークエルフ達。
それを完全に無視して、捕虜になったダークエルフ達を帝国兵が競って殺し合う。
人の兵士も、エルフの兵士も、ドワーフの兵士も、ゲラゲラと笑いダークエルフを殺しつくす。
ゲラゲラとゲラゲラと。
阿鼻叫喚の悲鳴など聞くこともなく……。
「うわぁぁぁぁああ! 皆ぁぁぁぁぁああ!!」
心が……!
心が死んでいく───……!
みんなが死んでいく…………!
何を賭しても守りたかったものが死んでいく───!!
「そんな! なんでこんなことを?! 私が何を?! みんなが何を?! ねぇぇぇええ!」
知るか、ばーーーーーーーーーーーーーーか!
お前らは「敵」。ただそれだけだよ、ばーーーーーーーーーか!
「い、いやぁっぁあああああああああああああああああああああああああああ!!」
「「「ぎゃははははははははははは!」」」
笑う。
笑う勇者たち。
そして、
「……そんじゃ、フィナーレだぁぁあ!!」
パチン! と指を弾く勇者。
その合図をみて、捕虜の間から進み出て来たもの───。
「もういい! もうやめて! もう、たくさんよぉぉおお!」
泣き叫ぶエミリアであったが、その涙をそっと拭ってくれる人がいた。
それは一人の女性。
勇者に呼ばれて進み出て来た、美しい女……。
「え? あ……ル───」
それは、よく見知った…………。
「る、ルギア?」
「えぇ、義姉さん。お久しぶりね」
ニコリと優し気に微笑むのは、ルギア・ルイジアナ───エミリアの仲間にして、義理の姉妹の契りを交わした大切な人。
家族……。
「なん、で? ここ、に?」
うふふふ。
ルギアの微笑み。
「それはね?…………はい、これ」
ルギアがそっと手渡してくれたもの。
それは、まぁるい、まぁるい…………。
「今日までお勤めご苦労様でした、義姉さん」
そういってニコリとほほ笑み、
這いつくばるエミリアの目の間にそっと渡したのは二つの生首。
「ひ、」
ひ、……!
「ひぃぃぃいいいいいいいい!!
それをみて、エミリアの髪が一瞬にして白く染まっていく!!
「いやぁっぁああああああああああああ!!」
なんで?
なんで?
なんで隠れてなかったのぉ!?
どさ、コロコロ……。
転がる生首───。
「───父さん、母さん!!!」
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