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第30話「準備完了」

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「毎度~♪」

 ホクホク顔の店主に見送られてレイルは店をあとにする。
 その手元には買ったばかりの大量の商品が、借りた荷車に乗っていた。

「ったく、フラウの奴どんな筋力してやがんだ?」

 試しに一つ買い物袋を持ってみたが、腕が抜け落ちそうな重量だった。

 中身はポーションやら、マジックアイテムやら、消耗品がぎっしりだ。
 それと、高級酒類に携帯食料。しかも、どれも普通よりグレードの高いものばかり。

「おーおー……さすがSランク。イイもの食ってんねー」

 試しに一つ、堅パンを頬張ってみるが、なかなかどうしてうまい。
 それをワインで流し込む。

「っぷぅ……うめぇ」

 監視で疲れた体を癒しつつ、レイルは少し移動して目立たない場所に荷車を止めると検品を始めた。
 目的は『放浪者』の買った消耗品の内容を知ることだ。

 だが、そのためだけにこんな買い物をする必要があったのだろうか?

「──……ま、教えてくれって言ってもそう簡単には教えてくれないだろうからな」

 多少金を積めば教えてくれえる可能性もあるが、嘘をつかれる可能性も高い。
 それ以前に商店の────しかも、金持ちを相手に商売をしているようなところは存外口が堅い。

 だから、こうして同じものを買ってきたというわけだ。
 これなら、店側もレイルが『放浪者』の買い物を見ていて、同じものを欲したと思ってもおかしくはない。

 少々お金はかかるが、これが連中の買い物内容を知るための、最も確実なやり方だろう。
 のぞき見をするには『放浪者』は手強すぎてバレるリスクの方が高いのだから仕方がない。

(連中に気付かれては元もこうもないからな……)

 まぁ、今しばらくは──。間抜けな『疫病神』と連中に思われている方がいい。

「さて、…………あった。これとこれだな」

 地面に並べていくのはポーションや強化薬ブースターの類。

 ポーションは言わずもがなだが、強化薬も消耗品で、中々お高い。
 使えばなくなるものゆえ、普通の冒険者にはなかなか手が出るものではないが、Sランクともなれば常用していてもおかしくはない。

 ちなみに強化薬とは、一定期間、使用者の能力を上昇させるブーストアイテムだ。
 もっとも、効果時間が限られているので、使いどころが難しいアイテムでもある。

 お店が推奨するのは、戦闘開始直前に飲むことだが──ダンジョンなどの不期遭遇戦ではそんな時間がないこともざらにある……おっと閑話休題。

「ったく、どんだけ買ってやがるんだ?」

 大量の消耗品の中で、レイルが選別したのは高級ハイポーションと、高級強化薬ハイブースター
 それもこれもお高いものばかり。

 それだけに製造には厳格さが求められる。

「ふふ。だから、あるのさ────……」

 そ~っと、ポーションを見分すると、レイルはすぐにそれを見つけた。

 そう。探していたものは、
「……あった。ロット番号────」

 ロット番号。
 大量製品を管理する際につける番号のことで、数字と文字の組み合わせだ。

 普段なら、目にはしても意識もしないその数字の羅列は、わかるものにはわかる一種の記号だ。
 そして、大量の商品の製造を管理するための番号でもある。

 これは、高級品ではあるがまさに大量生産品。大都市の大店で生産された、安全安心の品質保証──。

「──工業化、万歳だな」

 チラっと、目を通したポーションの瓶の底。

 HPハイポーション-10012~30
 そして、
 HBハイブースター-5623~41

「……これを探していたんだよ!」

 ニヤリと笑うレイル。
 そして、整然と商品が並べられた店を思い出し、頭の中で逆算していく。

「つまり──」

 ……『放浪者シュトライフェン』が購入したそれらの番号は、

「HP-9993~10011とHB5604~5622…………。ここまでわかれば、」

 レイルは残った商品の検分を終え、持ちきれないものは近くの商店に捨て値で売り払う。
 あとは夜を待てばいい……。

「さて、これが終われば仕込みはあと一つ……」


 その夜。
 レイルは『よろず屋カイマン』に侵入し、スキル『一昨日に行く』を使用した。

 その手にはあの時に使った「ドラゴンキラー」が握られていたがいったい何に使うつもりなのか──……。



「スキル! 『一昨日へ行く』発動!!」



 カッ──────……。



 確固たる目的を秘めてレイルは一昨日へ行く。
 ……そして、レイルと『放浪者シュトライフェン』の模擬戦の日がやってきた。
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