幽黒のポラリスと十二の妖鬼たち〜怪異が集まりすぎて学校崩壊〜

大杉巨樹

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第6章 キラキラ系グループを襲った悲劇

ライコウ四天王

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 ライコウ四天王とは平安時代中期に活躍した源頼光みなもとのよりみつの四人の家臣であり、頼光を含めて五人で名だたる鬼を退治したなどという伝承がある。そんな史実というよりはややファンタジックな存在の五人だったが、まるで自分たちがその本人であるかのように、碓井うすい貞光さだみつと名乗った刑事はセリの驚く反応に満足気に頷いた。

「私達、ちょっとずつ名前を変えてるんだけどね、この人は面倒くさいから本名のままでいいなんて言うのよ」

 渡辺わたなべ奈津なつ刑事がフォローするようなことを言うが、

「いや本名を名乗ったところで誰も頼光様の家臣がこの世界に生きているなどとは思わないだろう」

 と、碓井の返し言葉には悪びれた様子もない。立ち上がっていたセリは前のテーブルに片手を付きながら、もう片方の手を彼らの前でフルフルと振る。

「いやいや、平安時代の人がこの令和の時代まで生きてるわけないでしょ?」

 セリはそう言いながら、真面目に返すのもバカらしいという思いがした。きっとからかわれているのだ、そんな気がしてきて、一度息を落ち着かせてストンと椅子に座った。そして前の二人を睨む。

「不謹慎です。生徒がたくさん亡くなってるんですよ?」

 そのセリの様子を見て、隣りのマキが、

「ね?」

 と、刑事たちに相槌を促す。

「本当に記憶がないようだな」

 碓井の反応で、マキの言った、ね、とはセリの記憶がないということを指していることが分かった。マキがセリに向き、説明し出す。

「ほら、前に神ちゃまが人間界に降りてくる方法には三つあるって言ったでしょ?セリちゃんは転生したから記憶もリセットされちゃってるんだけど、この二人と、そう、担任の卜部うらべっちもそうだね。この人たちは作られた人間の姿に乗り移って来たのよ。セリちゃん言ってたじゃない?アバターにフルダイブするってことだねって。ゲームに例えるとそういうこと。その方法だとね、ある程度神性を宿したまま人間界で活動できるの」

 確かにあの時、そんなことを言っていたなと思い出した。

「え?じゃあ…源頼光もこの世界に存在してるの?」

 セリがそう聞くと、渡辺が頷く。

「ちゃんといるわよ、この世界に。私達イケイの管轄者としてね」

 隣りのダンジョウのような雰囲気の男ならいざ知らず、渡辺が下らない冗談を言うようには思えなかった。実際、神と名乗るマキや、ダンジョウやノアといったアヤカシもいるのだ。ここは頑なに否定するところではないのかもしれない。セリは物語で頼光らいこう四天王が登場する小説も読んだことがあり、特に頼光が好きだった。なので、本物がこの世界にいると言われ、少しテンションが上がる。そのセリの顔に明るみが差したのを碓井が見つめ、分かりやすく首を振った。

「どうやらお前は勘違いしてるようだがな、俺たちはべつに平安時代からずっと生きてるわけじゃない。そもそも平安時代に行ったのも、あの時代の世界線がヤバかったからアヤカシ退治に天界から赴いただけだ。俺等はな、天照あまてらす様付きの、いわば人間界担当の監察官みたいなもんだ。どの時代であっても、アヤカシが悪さをしていれば、そこに赴いて討伐するのさ」

 そういえばそれもシュンスケやマキから聞いていた。この世界には都市伝説でいうところのアカシックレコード的なプログラムがあり、神、もしくは転生するタマシイに取っては過去も未来もなく、時間軸に囚われることなく自由に平行世界を行き来できるということを。


 碓井はセリに自分たちの存在について掻い摘んで説明すると、あ~あと落胆の息をついた。

「同じクラスにもう一人神がいると聞いて期待したが、記憶が無いんじゃ仕方がない。言っておくが時間は限られている。奥破魔湖おくはまこのほとりで四人もの女子高生が亡くなったんだ。マスコミが詰めかけて来るのも時間の問題だろう。その前に俺たちは何とか元凶のアヤカシを退治しなければならないんだ」

 碓井はそこまで言うと、顔の向きを完全にマキの方に固定した。

「そっちも天照様の命を受けて別働隊として動いてんだろ?ここは協力しようじゃないか。現時点で分かってることを全部教えてくれ」

 碓井に聞かれ、マキはのっぺらぼうのことを話した。おそらく、生徒に姿を変えて校内を闊歩していることを。

「そこまで分かってんなら、何でそいつを特定できないんだ?」

 碓井が呆れたように言ったことに対し、渡辺が説明する。

千草ちぐささんからも報告が上がってるんですが、校内からはアヤカシの匂いがしないそうなんです。おそらく巧みに人間に擬態して、匂いも消していると思われます」

 それを聞き、碓井はフンと鼻を鳴らす。その仕草が、やはりダンジョウに似ている。

「あちらさんの方には坂田さかたが呪具を持って張り付いてるんだろ?なら、遅かれ早かれ、生徒の中にアヤカシがいるなら分かるか…」

 碓井の言ったあちらさんとは、おそらく別室で事情聴取している捜査一課のことなのだろう。どうやらそちらに、ここにいないもう一人のライコウ四天王、坂田がいるようだ。

「タマちゃんたちもさあ、まだ始めたばっかなんだよ。どうやら今回関わってるのはのっぺらぼうだけじゃないんでしょ?ならそんなにサクサク解決できないっちゅーの!」

 ずっとこちらを蔑んだような目線を向けてくる碓井に、マキが苦情を言う。その彼女の言葉を聞いて、セリもここぞとばかりに聞きたかったことを聞いた。

「そもそも、福生ふっささんはあなたたちのチームの一員なんですよね?それが何で殺されるなんてことになるんですか?あと、さっきから聞いてると、福生さんが矢で射た石神いしがみさんはのっぺらぼうではなかったような話しの持って行きようではありませんか。協力しようと仰るなら、湖で見たかった遺体がどんな状態だったのか、教えていただきませんか?」

 渋面を作りながらセリが聞くと、碓井はむっとした表情で口を結んだので、渡辺がその質問に答える。

「まず、福生は顔の中身が完全に掘り返された状態で見つかったの。ほら、あなたも見たでしょ?立川たちかわ家の夫婦が亡くなっていた様子を。状態はあの時と同じだったわね。福生は、間違いなくアヤカシに殺られた。そしてね、これはまだ報道されてないことなんだけど、亡くなった他の三人も間違いなく殺人によるものなの。体がね、バラバラで見つかったのよ」

 え、と喉の奥底から思わず声が出た。立川家の惨状を思い出し、胃液が上がってくる思いだったことろに不意を突かれた形となる。

「バラバラ…っていうと…?」

 青褪めて聞き返すセリに、碓井がニヤッとした笑顔を向ける。

「バラバラっちゅうより、細切れって感じだったな。今ごろ鑑識官も、どれが誰のパーツか組み立てるのに苦労してるだろうよ」

 碓井は楽しそうに言ってくれるが、現場の状態を想像するだけで吐きそうだった。朝のミーティングでは亡くなったとしか聞いていなかったので、その惨状を思い描くだけでこみ上げてくるものがある。うっと呻いて口を膨らませたセリを見て、碓井が人を払い除ける仕草をする。

「おいおい!ここで吐くなよ?吐くなら手洗いに行ってくれ」

 コクンと喉を鳴らしてせり上がってきたものを飲み下し、大丈夫ですと答える。喉が焼けて熱くなり、声が掠れていた。

「だれかが遺体を切り刻んだってことですか?」
「いや、刃物で切った切り口じゃないな。あれは鎌鼬かまいたちだ。まあアヤカシの鎌鼬かどうかは分からんが、のっぺらぼうとは別に、風で人を切り刻むことのできる能力を持ったアヤカシが関わってるっていうことだ。ああそうそう、さっき嬢ちゃんはアヤカシ担当の福生がなぜ殺られたのかって聞いてたが、あれは現地調達組でな。人間の中にもたまに異能の力を持って生まれるやつもいる。あいつもそこそこの力を持ってたんで、簡単に殺られるわけはない。それを考えても、今回は複数のアヤカシが関与してると見て間違いないな」

 碓井はそこまで言うと、顔を天井に向け、遠い目をした。

「ギャルっぽいやつで、俺はこんなやつ力になるのかって懐疑的だったが、今回の任務にはもう一度女子高生になれるって張り切ってたな。それがよぉ、まだ手柄を立てる前に簡単に殺られやがって……俺は福生を殺したやつを絶対に許さねえ。俺がこの手で、ギタギタに切り刻んでやるよ」

 顔を天井に向けているのは、涙が落ちないようにしているのかもしれない。見た目に反して意外に情は厚いのかもしれない。セリはメイと親しかったわけではないが、指輪を奪った理由を聞く前にイトを殺したメイに、文句の一つも言ってやりたかった。まるで誰かがこちらの先手を打っているように、次々と情報が消されている。


(敵側に、かなーり頭の切れる神ちゃまがいるみたい)


 いつか、マキが言ったその言葉が、セリの頭でリフレインしていた。




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