黒騎士爆走物語

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従業員は動き出す5

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すぅ、と息を吸う。
管理室のやや埃っぽい空気で肺を満たしてから、テンリィは決意した。

「キュー。テンリィは少し外に出ます」
「どこへ行くんだ」
「誤解を解くためのフェイクスライムに関する資料を集めに」

理由を述べれば、キューは納得したように頷いた。
ようやく画面から離れた視線が、テンリィヘ向く。

「資料は研究棟の方にあるだろうからな。鉢合わせないように気をつけろよ」

少し熱を冷ました目は、敵と認定された自分と同じ立ち位置であるテンリィへの心配が込められている。

「大丈夫ですよ」

後ろ手にひらりと手を振って、テンリィは管理室のドアをくぐる。
自動的に閉まる金属製のそれがキューの姿を完全に覆い隠したのを目視して、テンリィは己が身につけている装備を確認した。
先程馬車を炎上させた物と同じ構造の爆弾が数個、小手と脚絆型の革鎧、後は普段使いの小刀。
戦闘のプロと対面するにはあまりに心もとないが、こちらにも場数を踏んだ経験がある。
戦場を仕事場とする同業者として負けられぬと、テンリィは目に決意を込めた。

当然、気をつけるつもりはある。
鉢合わせるために。

あの様子では、もはや言葉による説得は不可能とテンリィは判断した。
ならば死なない程度の傷を負わせ、他者の目がある国営の病院あたりに逃がす。
体力と魔力の回復ができると判明しているこの施設はまだ探索中なのだ、外傷の治療は他所に頼るしかない。

「……できることなら本調子の騎士と戦ってみたかったんですが……致し方ないですね」

自分の種族を受け入れられず、四苦八苦して。
器は小さいくせに、なんだかんだお人好しなので頼まれれば突っぱねられず。
巡り巡ってなんでも屋を営むことになってしまった苦労人。
テンリィは、不器用な雇用主のことを気に入っていた。

故に、一歩踏み出す。
彼を変態の犯罪者にしないために。
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