黒騎士爆走物語

黒騎士爆走物語5

がこん、がらららら。
背後からひときわ大きな音が響いた。
振り返ると同時に、振動で床が揺れる。

目の前には入ってきた扉があったはずなのに、視界にはただの壁。
どうやら上から降ってきたものらしい。

「えっ」

突然の変化についていけずに戸惑っていると、今度は壁に等間隔で穴が開く。
なんの穴かと疑問に思うまでもなく、向こうから答えが提示された。

じゃっこん。
覗き穴のように見えたそこから、鋭利なトゲが飛び出した。
後数ミリ近づいていたら兜に刺さっていたかもしれない。
一面に生えたトゲは、じわじわと動き出す。
否。
壁全体が動き始めているのだ。

「……まさか」

考えてみれば、ただただ慎重に避けていけばいいだけの落とし穴を罠とは呼ばない。
強制的に焦らせ、失敗する確率を上げる仕組みがあるからこその罠なのだ。

壁がとうとう前進を始める。
思っていたより速い！

「うぉおおお！」

踏み込むための床がある内に、と私は走り始めた。
私の早歩きよりも速い壁は、それ一つならば脅威でもないというのに足場の悪さが難易度を上げる。

いっそトゲに掴まって向こう側まで送り届けてもらうのはどうだろう。
鎧着用者ならではの邪道な思いつきで振り返ったが、バチンという弾けるような音で断念した。
おそらくあのトゲ、電気かなにかが走っていて触れないようになっている。

「ふん！ せい！ おおお！」

一声ずつ気合を入れながら穴を飛び越える。
これは意外といけるか！？
と、わずかでも油断したのが良くなかった。