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勇者のエピローグ 感嘆・ナッシングチェンジレス
しおりを挟む「神の妹君の笑い方は神によく似ている」
「はぁ?」
言っている言葉が電波すぎて思わず顔をしかめれば、スタームに気付いたキナーはふいと視線を反らした。
「ちょっと、なんだよその態度」
「これは特別、あなただけの態度です」
「あなただけってお得感出しても全然嬉しくない!
そうじゃなくて、合同試合サボった分しっかり働いてくれ!」
スタームは抱えた木箱を乱暴に叩きつける――気持ちで中の荷物に傷がつかないよう極力そっと下ろした。
『ハッチポッチ』の品である。
キナー引きこもり事件から二週間が過ぎようとしていた。
予算の件は無事生徒会を仲介としてオンダーヌ家と取引できたものの、問題は現金を手に入れるために売りはらったニトアのあれやこれやで。
『え、買い戻したい? こっちにも都合があるし、かなり難しいんだけどー、チームFが総出でアルバイトしてくれるんなら手は貸してあげるわよ』
というわけで、勇者科二年のスタームと僧侶科一年のキナーはハッチポッチで棚卸をしている。
何故この組み合わせになってしまったかといえば、ひとえにくじ引きのせいだ。
店の裏路地に幌馬車が止まっている。
店に運び込む木箱はまだ半分を切ったところで、待たされ続けているぶちもようの馬はそろそろ飽きてひとつあくびをした。
「一応僕もチームFなんだから!
みんなみたいに仲良くしようという気持ちはないのか!」
腕力的にはスタームよりも頼りになるキナーは途中で手を止め、狭い空をぼんやりと見上げている。
むき出しの腕に木箱を三つ乗せたままだ。
ささくれとか気にならないのだろうか、とスタームは見ていて思わず自分の腕をさする。
「仲良くなんてしてない」
「え?」
「いつか自分のことを存在ごとなかったことにする相手に、好きになってもらおうなんて思えるはずもない」
だから、わたしは愛でてるだけだ。
幼女と男の娘と巨乳のお姉さんと、そしておっさんが好きだから。
続いた言葉にシリアスさのかけらもないため台無しだが、キナーはたまに全てを諦めているような言動をする。
フィブロ山に潜り込んだ影使いは警備隊に引き渡され、王都の牢で尋問されるだろうという顛末を聞いた時も、いつもの無表情で「そうか」としか返さなかった。
キナーと影使いがどういう関係か、知る由もなかったけれど。
「おーい、はやいとこ荷物入れちまってくれよ。その馬車他にも用はあるんだからよ」
常勤バイトのドンが店内からひょっこりと顔を出し、荷物運びに加わってくれる。
キナーは手こそ動かすようになったが、視点は下がり、ペンキの塗りのこしと嘔吐物が固まっている壁に向かっている。
多分どこも見ていない。
「なかったことにしてるのは、キナーの方じゃないか」
ぶれていた焦点がスタームに合わせられる。
ドンは聞いているのかいないのか、黙々と作業をこなしていた。
「何がどうなってそんな結論になるのか知らないけど、例えみんながいなくなっても、キナーが今ここにいて、いろんな人と関わっているのは事実だろう。
受け取った想いは自分が忘れない限り絶対になくならない」
だから、そんな不安になることなんかない。
そう続けようとして、スタームはキナーが形容しがたい表情を浮かべていることに気が付いた。
上半分は無表情だが、口は笑い損ねたようにひん曲がっている。
たぶん笑みを浮かべようとした訳ではない。
片手で口を押さえたドンが震えているのと、頭上に少しの重みと、勢いのあるぶっふーという声で、スタームは自分がいわゆる『滑った』状態になったことを悟った。
「ちょっと、Kちゃん、わざわざ笑いに来ないでよ」
「これが笑わずにいられようか!
キナーを安心させようと少年がくっさい台詞はいたですよ、プークスクス」
店内の二人にも伝えてくるです、と小さな身体が軽やかに駆ける。
人をからかうことにかけての行動力は凄まじい。
「これだけ面白いのに、わたしの興味を微塵もひかない生物も珍しい」
ひん曲がった口のまま、キナーがスタームに言う。
おそらくこんな顔をさせたのはスタームが初めてだろう。
全く嬉しくない。
「あなたの主張は分かった。
もし全てがなくなってわたしだけが残ったとして、その気持ちがなくなっていなければ『スターム=レリリオット』という少年の見事な滑りっぷりを語り継いでやろう」
だから、これからよろしく。
言外に込められた意思は、キナーのチームF入りを宣言していた。
ひん曲がった口は徐々に元に戻り、現タイミングでは微笑に見えなくもない。
余計な一言がなければ、いがみあっていた者同士の美しい和解だった。
「ちなみに、あなたがわたしに送りつけている想いって?」
「お前なんか大っきらいだ」
木箱を抱えて、スタームは早足で店内へと逃げ戻った。
そして顔をしかめる。
どうやら逃げ場はなさそうだ。
店内は初めて訪れた時と同じく、二つのスペースに仕切られていた。
残りの二人は武器屋である『ハッジポッジ』をよく手伝っている。
魔法使いであるニトアが武器屋に興味を持つのは予想外だったが、そもそも被害者であるニトア本人が手伝ってくれていること自体申し訳ないのであえて言及はしない。
一軍チームが店にいるという情報もあって、ハッチポッチは常より人の行き交いが激しい。
興味本位の野次馬がほとんどだが、バイトし始めてから毎日のように通い詰めているのは、
「よお、冒険マニアの根暗野郎。今日もわざわざおまえの商人もどきっぷりを見に来てやったぜ」
両頬に広がるそばかす、目に痛い蛍光色のパーカー。
チームBの勇者、ダイス=フラッターである。
身につけたエプロンを笑い、荷物の運搬を笑い、接客を笑い、お前どんだけ僕のこと見てんの、と言ってやりたいのはスタームだけではないはずだ。
最後の木箱を二つずつ両脇に抱え、無表情に戻ったキナーが店内に入ってくる。
ダイス=フラッターの姿を目にとめる。
そういえばダイスとキナーが顔を合わせるのはこれが初めてだった。
いっそ遠慮のない注視っぷりに、キナーは諦めているからこそためらいがないのかもしれない、とスタームは思った。
決めたら即実行。
ある意味うらやましい生き方だ。
真似したくないが。
「なに見てんだよ、落ちこぼれ僧侶。能面みてーな面晒す暇あったら働けば?」
ダイスが憎まれ口を叩く。ああ、やっぱり彼は。
スタームは口を開いた。
実はこの時キナーも同時に口を開いていたことを、彼は知る由もない。
一部始終を見ていたカリウタは、呆れてため息を一つつくと、客に耳をふさぐよう促した。
コクトウ店主に武器のことを聞いていたニトアは、なにが起こるのかときょとんとしながらも素直に耳をふさぐ。
ああはなりたくない、とお互いに思っている二人の言葉はピッタリと重なった。
『素晴らしいくらいの三下っぷりだな』
ひきつけを起こした豚のような鳴き声が店内に響くまで、あと三秒。
《おわり》
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