二度目の語りはどうあれ花よ

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2語り

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「ケンシローさんとあの方は寺、で会ったのですよね。
この寺というのは……」
「宗教施設の一種、と思ってもらえたら。
当時は子供の義務教育なんてものはなかったから、武将やその家臣が教養を身につけさせるために子供をしばらく寺に預ける、なんてのはよくあったんだよ」

説明しながら用意された菓子を一つまみ。
え、なにこれうまい、と目を丸くするケンシローに、セレクトしたロッテはしたり顔だ。
先ほどまで殺し殺されそうになっていた間柄とは思えないまったりぶりである。

コイバナ会の開催が決定した直後。
それじゃあ私はざっくり語ればいいの? あの方周りのエピソードを重点的に、でもケンシローさん自身の話もお聞きしたいです、対価はその間に考えておいてください、できることであれば尽力いたします。だからそういう相手任せは危機管理がさ……などと、軽く契約内容に関する打ち合わせを終えてから、二人はちゃぶ台の周りに着席した。

そうしてなあなあで始まったケンシロー物語。
ちゃぶ台の真ん中に据えられているのはもちろん、件の『堅志郎日記』である。
話の肴にするには重すぎる全世界に翻訳&暴露という事実を纏いながら、開かれたページは冒頭も冒頭、幼少期の頃だった。

「それではケンシローさんやあの方の他にも学びに来た子供達がたくさんいたのですね」

寺を昔の教育施設と認識したロッテが何気なく呟くと、なぜかケンシローは渋い顔。

「えーと……城で教育係に教わる子の方が多かったかな……
寺にまで入れられるってのはつまり、うん、相当な悪がきの証だったというわけでして」
「なにをしたのですか」

脚絆をほどいた足が所在なさげに揺すられる。
白けた視線に、誤魔化すように笑うケンシロー。
こめかみに、冷や汗が一つ二つ、滴りおちた。

「別に大したことはしてないよ、食欲と好奇心が旺盛だったせいで目に映るものなんでもかんでも口に入れて獣って言われたくらいだもの……」
「具体的にはなにを?」
「解体する前の猪の肉とか」

口周りを血でベタベタにしながら肉を貪る幼児。
獣と言われても仕方ない絵面である。

「あ、でもあの方の事情はもっと深刻だったよ!」

さすがに年下からのドン引き顔は堪えたらしい、ケンシローは話題の変更を試みる。

すちゃ、と取り出されたのは紙と筆。
何冊もの冊子を世に送り出しているだけあって、それらは常備している道具のようであった。

「ある程度は知ってると思うけど、至国は内乱の小競り合いが激しかったところを鬼松のご当主様が武力で無理やりまとめたのが当時の状況だった。
いまだに隙あらば下克上を狙う者が多い中で、次こそはと国をまとめあげる期待を背負わされて生まれてきたのが長男の鬼松 千景様と」

使いふるされた道具を手慣れたように動かして、あっという間に墨が線を描き、線は絵となる。

「期待で上を望む声、兄と比べる視線、鬼の一族の癖に随分華奢だと叩かれる陰口。
そこへいきなり寺へ行けと来たもんだから、そりゃ拗ねもするよね。
まだ幼子だった『あの方』。
鬼松 千熊様だよ」

子供特有の柔らかそうな頬、女の子と見間違うほどの線の細さ、そして額からにょっきり生えた二本の角。
ケンシローの見たであろう、あの方の幼少期が紙面に息づいていた。

「あ、ところで誤解のないように言っておくけど、寺では節制が原則なので余分な間食は禁止されていたから、夜遅くのおにぎりもほんとは駄目なことだったんだよ」
「おにぎりはどこから持ってきたのですか?」
「熊様が抜いた夕食のあまりから拝借しました、はい」

悪いことと言う割に反省のない表情に、おそらくおにぎりの受け渡し時点でも一悶着あったに違いない、とロッテは予想したのだった。
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