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6語り
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ほげぇ、と気の抜けまくったため息をつくケンシローの顔は、嫌悪感を全く隠していなかった。
「苦手ですか、ご家族」
「苦手だし嫌い」
デリケートな話題にきっぱりと打ち返される答え。
死後まで嫌いな人達に気ぃ遣いたくないのよ、といっそ清々しい態度である。
見ての通り、と指をさしたのは己の耳と尻尾。
ふさふさとした毛並みを持つそれらは、彼が獣系統の一族である証でもある。
「檜山家はこういう血筋だから、本能に忠実すぎる子が生まれるのを恐れている。
理性の利かない獣が身内にいたってもてあますだけだからね。
だからまあ、野生動物の死肉にかぶりついた私を忌避するのも仕方ないかな、と思うところはあるんだけど……」
唇を歪めて鼻を鳴らす様は、召喚してから数時間の短い中で、初めて見せたやさぐれ顔であった。
「物心ついて以来、獣、獣、って罵倒された記憶しかない上に早々に寺に預けられて育ててもらった恩はほとんどない、それまで放置だった癖にいきなり戦で人手が足りないから帰ってこいだ?
しかもお兄様方より活躍するな、いざとなったら盾役になれときた!
あんたらにとっちゃ獣かもしれないけどこっちにだって自由意思はあるんですよね!!!」
話している内に怒りがヒートアップしてしまったらしい。
カッ、と吐き捨てる顔は猫の威嚇にも似ていた。
「そんなに大きな戦だったのですか」
「あー……最初から説明した方が早いかな」
年下の娘からの質問に、ようやく冷静さを取り戻したケンシロー。
愚痴っている間に継ぎたしてもらったお茶を啜りつつ、当時の情勢を語り始める。
「そもそも鬼松家は、最初から至国の守護代だったわけじゃない。
元の守護代の部下、だったところを熊様のお父様が打ち倒して自分が守護代の座に収まったんだ。
このままだと国そのものが滅ぶ、みたいな状態を改善するためだったから一概にお父様が悪者、とは言えないんだけど……
自分の上司に下克上を起こして無理やり地位を奪い取ったとも言えるから、国衆、つまり地方の領主達の中には鬼松家に従いたくない人もいた。
お前が反乱で成り上がったんならこっちも反乱を起こしてやる、みたいなことだね。
熊様が橡緒城入りしたのも、現地での反乱を押さえるためだった」
檜山家は代々鬼松家の家臣だったから、叛意もなく付き従った、ってところかな。
「既に熊様のお父様はお亡くなりになってたから、檜山家としては跡を継ぐであろう熊様や千景様には媚を売っとこうって魂胆だったんだろうね。
実際、お兄様方の半分は熊様のいる橡緒城じゃなくて千景様のいる椿山城に行ってたみたいだし」
ケンシローの説明にメモを取りつつ聞き入っていたロッテは、なるほどと頷いてみせた。
「アントニアちゃんの説明より分かりやすいです!」
「そりゃ良かった」
「アントニアちゃんは詳しすぎて逆にわからなくなってしまうので」
間髪入れずに補足された台詞に思わず力が抜けてしまったケンシローだったが、現地人より勉強と研究に励む学生の方が詳しい、なんてこともあるだろうと持ち直す。
「まあそんなわけで、熊様は度々内乱を押さえるために戦に出ることがあった。
橡緒城の一件はその初陣、だね」
「ケンシローさんもその戦に参加された、のですよね。
……言いつけ通りにお兄様方より活躍は」
「とーーぜん、差し置いて大活躍しましたよ?
そもそも槍も刀も練習試合でお兄様方に負けたこと一度もありませんでしたし?
数年勉学に励んでいたとはいえ、それで衰えるほど腑抜けじゃありませんし?
伝言じゃなくて直接熊様からお褒めの言葉を頂くために自分が活躍する必要がある、って結論を出したら手加減する理由なんか一切ありませんしねーーー!」
べべべべ、と大きな耳が左右に揺れるのは興奮ゆえか。
お兄様方とやらが見たら苛立ちで血管をブチ切れさせそうな表情で、ケンシローは高笑う。
そういえば寺に入れられる程度の悪ガキだったなこの人、とロッテは『三つ子の魂百まで』のことわざについて考えるのであった。
「苦手ですか、ご家族」
「苦手だし嫌い」
デリケートな話題にきっぱりと打ち返される答え。
死後まで嫌いな人達に気ぃ遣いたくないのよ、といっそ清々しい態度である。
見ての通り、と指をさしたのは己の耳と尻尾。
ふさふさとした毛並みを持つそれらは、彼が獣系統の一族である証でもある。
「檜山家はこういう血筋だから、本能に忠実すぎる子が生まれるのを恐れている。
理性の利かない獣が身内にいたってもてあますだけだからね。
だからまあ、野生動物の死肉にかぶりついた私を忌避するのも仕方ないかな、と思うところはあるんだけど……」
唇を歪めて鼻を鳴らす様は、召喚してから数時間の短い中で、初めて見せたやさぐれ顔であった。
「物心ついて以来、獣、獣、って罵倒された記憶しかない上に早々に寺に預けられて育ててもらった恩はほとんどない、それまで放置だった癖にいきなり戦で人手が足りないから帰ってこいだ?
しかもお兄様方より活躍するな、いざとなったら盾役になれときた!
あんたらにとっちゃ獣かもしれないけどこっちにだって自由意思はあるんですよね!!!」
話している内に怒りがヒートアップしてしまったらしい。
カッ、と吐き捨てる顔は猫の威嚇にも似ていた。
「そんなに大きな戦だったのですか」
「あー……最初から説明した方が早いかな」
年下の娘からの質問に、ようやく冷静さを取り戻したケンシロー。
愚痴っている間に継ぎたしてもらったお茶を啜りつつ、当時の情勢を語り始める。
「そもそも鬼松家は、最初から至国の守護代だったわけじゃない。
元の守護代の部下、だったところを熊様のお父様が打ち倒して自分が守護代の座に収まったんだ。
このままだと国そのものが滅ぶ、みたいな状態を改善するためだったから一概にお父様が悪者、とは言えないんだけど……
自分の上司に下克上を起こして無理やり地位を奪い取ったとも言えるから、国衆、つまり地方の領主達の中には鬼松家に従いたくない人もいた。
お前が反乱で成り上がったんならこっちも反乱を起こしてやる、みたいなことだね。
熊様が橡緒城入りしたのも、現地での反乱を押さえるためだった」
檜山家は代々鬼松家の家臣だったから、叛意もなく付き従った、ってところかな。
「既に熊様のお父様はお亡くなりになってたから、檜山家としては跡を継ぐであろう熊様や千景様には媚を売っとこうって魂胆だったんだろうね。
実際、お兄様方の半分は熊様のいる橡緒城じゃなくて千景様のいる椿山城に行ってたみたいだし」
ケンシローの説明にメモを取りつつ聞き入っていたロッテは、なるほどと頷いてみせた。
「アントニアちゃんの説明より分かりやすいです!」
「そりゃ良かった」
「アントニアちゃんは詳しすぎて逆にわからなくなってしまうので」
間髪入れずに補足された台詞に思わず力が抜けてしまったケンシローだったが、現地人より勉強と研究に励む学生の方が詳しい、なんてこともあるだろうと持ち直す。
「まあそんなわけで、熊様は度々内乱を押さえるために戦に出ることがあった。
橡緒城の一件はその初陣、だね」
「ケンシローさんもその戦に参加された、のですよね。
……言いつけ通りにお兄様方より活躍は」
「とーーぜん、差し置いて大活躍しましたよ?
そもそも槍も刀も練習試合でお兄様方に負けたこと一度もありませんでしたし?
数年勉学に励んでいたとはいえ、それで衰えるほど腑抜けじゃありませんし?
伝言じゃなくて直接熊様からお褒めの言葉を頂くために自分が活躍する必要がある、って結論を出したら手加減する理由なんか一切ありませんしねーーー!」
べべべべ、と大きな耳が左右に揺れるのは興奮ゆえか。
お兄様方とやらが見たら苛立ちで血管をブチ切れさせそうな表情で、ケンシローは高笑う。
そういえば寺に入れられる程度の悪ガキだったなこの人、とロッテは『三つ子の魂百まで』のことわざについて考えるのであった。
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