二度目の語りはどうあれ花よ

mrr

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16語り

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「この時の私、ほんとバカ」

いよいよ日記という名の黒歴史が本領発揮か。
再び力無く倒れ伏すケンシローは顔を覆い、指の間からは……シテ……コロシテ……と小さな嘆きが漏れてきていた。

「典緑の年号に入ってから、『力』と薬草についての記述が増えているように思います。
結局この時、ケンシローさんは何をしようとしていたのですか?」

しかしそうは問屋が下ろさない、とばかりにロッテは追求の手を緩めない。
プロの拷問官でさえやめてやれ、となだめる程の追い詰めっぷりであった。

堅志郎日記から伺える文面には、ケンシローが研究したであろう内容についてはほとんど詳しいことは書かれていない。
薬草や治療については別の冊子に細かな記録が残っているが、今回顔を覆うほど悔いているそれは、その中のどれであったのか。

ちゃぶ台の足の間から顔を覗かせ、しつこく問うてくる少女の眼差しに諦めたのか。
指の隙間をそっと広げたケンシローが、ぽつぽつと話し始める。

「毒薬を作ろうとしてた」
「わあ」

ロッテは前説を思い出す。
暗号化して記載されていた毒薬のレシピ。
これまでの話も人は死んでいたが、いよいよ生々しさを帯びてきてロッテは少しばかり体を震わせてしまった。
ごん、と側頭部がちゃぶ台の天板の裏に当たる。

「一応ね……私、これでも評判の薬師だったもんで……
割と各地のお偉方とも面識はあったから……
こう、診察ついでにちょちょっと処方に加えたら、ね、お手軽暗殺のできあがりって……」
「先程薬師の矜持がどうとかおっしゃってませんでした?」
「ぐうの音も出ねぇ」

悔恨の意を表すケンシローの顔はちゃぶ台の天板と脚に囲まれて、まるで格子戸の向こうで悔いる罪人のようであった。

「……熊様と喧嘩したんですか」

このままでいるとずっとケンシローの反省ポーズを見せられるだけだと判断したロッテは、心を鬼にして話を進める。
その先がケンシローにとって辛い過去でしかない、と分かっていても。

「喧嘩なんて可愛いものじゃなかった。
熊様にとっては目をかけてた犬に噛みつかれたようなものなんだから」

力を抜いて横たわったまま、ケンシローは呟く。

「熊様が義にこだわってるのは知ってた。
人を殺す戦で、人のためを思わなければ簡単に道を外れてしまうからこそ、その信念と行動に義を求めた。
人の心がわからない熊様には、それはある意味、生命線でもあったんだ」

落とした視線は投げ出した手の先へ。
潰れた頬が半分ほど、十徳の布に埋まっていた。

「同じ人でなしだったけど、国を背負った熊様と、熊様のことしか想ってない私とじゃなにもかも違った」

『誰かを排除するだけで手に入る平和ほど、脆く儚いものはなかろうよ』

とたしなめる主に向かって、よりにもよって。

「貴方は戦がしたいからその正当性を求めているだけだ、なんて」

ラグの長い毛足でも、ケンシローの小さな呟きは吸い込みきれず。
無礼などという言葉では表現しようもない、熊様の心の柔らかな所を抉る不敬を働いた重みは、静かにそれを聞いていたロッテにものし掛かった。
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