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三章 イヴィルターズ編

29話 宴

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 ジャンヌの思いつきで開催された宴は豪華絢爛な内容だった。
 まずメイド達の手によっていくつかの円卓が並べられていき、上に高級そうなテーブルクロスが開かれる。
 食事形式は立食のようで椅子は用意されていない。
 各円卓の中央で巨大な肉の塊が存在感を示しそのサイドにお洒落な料理が並んでいく。
 あまりの光景に俺たちはあいた口が塞がらない。

 満足そうにセッティングされていく会場を眺めていたジャンヌが俺を手招きしている。
「どうじゃ、クロツキ、スーパー派手じゃろ」
「そうだね、なんといっていいか……」
 あまりにも規模が違いすぎる。
 あまりにも現実離れした貴族の遊び。
 まぁ、実際に現実ではなくゲームの世界なんだけど……

「お前は村人と話し合うべきじゃな、立食で会話もしやすいじゃろ」
「ありがとう」
 随分と気を遣われたものだ。
「まぁ、我は酒が飲みたかっただけじゃがな、なっはっはっは」
現地人ローカルズのアルコール摂取は何歳からなんだ?」
「…………」
 どう考えても未成年にしか見えないが許されるのか?
 そういばこの世界の飲酒していい年齢なんて知らないな。
 一応、未成年の来訪者ビジターはお酒を飲めない仕様になっている。
 酩酊状態という状態異常も未成年は少し変わっていて、アルコールによる酔いではなく、乗り物酔いのような感覚になるらしい。

「なっ、何を言っておるんじゃ、そんなもの我なのだから飲んでいいに決まっておろう……さっ、さぁ皆のもの、今夜は無礼講じゃーーー」
 俺の疑問を無視するように宴は始まった。
「リオン、元気そうだな」
 つい数刻前まで監禁されていた少女は巨大肉を片手に豪快にかぶりついている。
「元気も元気だ。それにしてもすげぇなこれは……」
 リオンにキルされたときはそれなりに恨みもしたが村を救おうとした姿を見て、村人の話を聞いて、もはやリオンに負の感情をもってはいない。
 だが、よく考えればまともに話したこともなく、会話は続かない。
「リオンちゃん、はしたないよぉ。クロツキさんお疲れ様です」
「あぁ、お疲れさま……それ美味しいよね……」
 ルティが会話に入ってきてくれるがこちらともまともに話したことがない。
 以前ここで食べたことのある料理をルティがもっていたのでついつい広がりもしない話題を振ってしまった。

「そうですね、とても美味しいです。どの料理もリアルを超えていて驚きました」
「俺もはじめて食べたときは驚いたよ」
「クロツキさん、今日は本当にありがとうございました。もし何かできることがあるのなら何でもしますからいってください」
「いえいえ、そこまでのことはしてないから気にしないで。それに恩賞も何か貰えるようだし」
 うーん、なんだかルティはとても気まずそうにしている。

 あれかな、俺も社畜時代に経験したことがある。 
 飲みの場での接待……
 面白くもない話を聞いて大袈裟にリアクションをして場を盛り上げる。
 あれはなんとも辛かった。
 ルティもそんな感じなのかもしれない。
 そう思うと急に話しづらくなり静かな時間が流れる。

「おーーい、何をお通夜みたいにしてんだよ。私が気になること聞いてやる。クロツキは何歳なんですかあぁぁ? 彼女はいるんですかあぁ? 年下に興味はあるんですかぁ?」
「リオンちゃん、そんなこと聞くのはマナー違反だよ。すみませんクロツキさん。本当にすみません」
「なんだとー姉ちゃんが気になるっていってたから代わりに聞いたんだよぉぉぉぉ、なんだよぉぉぉぉ」
「こっこれは違うんですよ、クロツキさん」
 いつの間にかリオンのもっていた巨大肉は巨大ジョッキに変わり、中にはお酒が並々と注がれている。

 目の前のリオンは顔を赤くして千鳥足で焦点もあっていない。
 完全な酩酊状態だった。
 ふらふらなリオンを介抱するということでルティがどこかへ引っ張っていく。
 リオンの質問は酔っ払いの冗談だと流して、俺の興味はお酒にうつる。

 だがその前にやらなければいけないことがあった。
 逃げてはいけない。目を背けてはいけない。正面から向き合わなければいけない。
 ジャンヌに言われたように村人達と積極的に交流しにいく。

 村人達は歌え踊れよのどんちゃん騒ぎ。
 大人は全員が出来上がっている。
「きましたきました村の英雄殿のご到着だ」
「さぁさぁ、これを持って飲んで飲んで」
 ジョッキを渡されてなぜか飲まされる。
 そしてお味の方は絶品でした。
 喉が焼けるような度数ながらも味はスッキリとして飲みやすいという凶器。
 そして暗殺者の俺がしっかりと簡単に酩酊状態になるほどのものだ。

 村人達は俺のことを受け入れてくれるがどうにも乗り切れない俺の顔を見てママさん集団が俺を囲む。
 その中には旦那さんを亡くした人だっている。
「あんたのおかげでみんなで笑ってられる。子供も無事だった。旦那もあんたには笑っていて欲しいと思ってるはずさね」
「本当にすみませんでした」
「何いってんだい、顔を上げな。さぁ、弔いの意味を込めて今日は飲み明かすんだよ!!」
「「うぉーーーーー」」
 ママさんがジョッキを空に掲げると村人達も一層と盛り上がる。
 そしてママさん集団に気にするなと背中を叩かれて喝を入れられた。
 あぁ、少しだけ楽になった気がする。

 その後も宴は朝方まで続けられた。


§


 ルキファナス・オンライン、特別サーバー室で骸骨は頭を抱えて必死に計算をしていた。
「社長、これでは王国と他国との差がありすぎます」
「くぅぅ、なら他国の難易度を下げて王国に合わせるというのはどうだろうか?」
「すでにその案を提案して各チームから却下されています」
「そっ、そんな……僕って社長だよね」
「今回の件は任せておけと言い切った社長に非があるかと思いますが」
 一人の女性は顔色一つ変えずに淡々と真実を告げる。
 その間も同じ顔の他の女性は画面見て仕事を続ける。
 女性は五つ子というわけではない。
 本体は一人でドッペルゲンガーをモチーフにキャラメイクされている。
 アナザルドでは全員が好きなようにキャラメイクしたキャラクターで仕事をしている。
 社長の骸骨もそういうことである。

「だってさ、ヴェルヴァがやられるなんて思わなかったんだよね。地下奥深くで経験値を溜めまくって強力なレイドのボスキャラとして出そうと思っていたのに……これじゃあ全部、水の泡だよ」
「後、数ヶ月は期間がありますから全力で準備してください」
「まぁ、ある程度のプランはできてるんだけど、四神の獣だけじゃ、あと少し足りないんだよな」
「それでは王国のプレイヤーに他国へ移ってもらえればいいのでは?」
「うーん……移ってもらうか……そうだね。そうしよう!!」

 社長は何かを閃き画面と睨めっこを始める。
 しかし、それを邪魔するようにドッペルゲンガーの女性から社長に声がかけられる。
「社長、ブンブクさんからツクモシステムについての計画変更の資料が送られてきています」
「ツクモシステムは全面的にブンブクさんに任せてあるからなぁ、うん、今後もブンブクさんに任せた。こっちはもう少しで完璧な立て直しができそうなんだ」
「では、ブンブクさんの裁量に任せると回答しておきますよ」
「はい、お願いします」
 骸骨の眼窩は画面に映るイーブルとクロツキの戦闘を捉えていた。
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