不要な僕と化け物公爵様

たなぱ

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奥様と呼びたい

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Side アデリナ




私はルドレッド公爵家に古くから使えるメイド、アデリナ
数十年前より人への変化を完璧にこなす事が出来ている為、表の舞台へ出ることが許されている食人花族の一人…それが私

私の任務は、ルドレッド公爵家へ訪れた人間のお客様へ我々が食人花だと思わせない完璧なおもてなしと給仕を行い、正確な情報を撹乱し、屋敷で働くまだ人化が不安定な他の食人花達守り、統括する事



そんな私にある仕事が追加されました
事の発端はフレイズ様と古くから親交のあるベゼル侯爵様が自らの番を人間に害された事がきっかけ
フレイズ様とはまた違った力を持つベゼル侯爵様の連れに害をなす阿呆がこの世界に居るのかと、話を聞いた時は理解が出来なかったのですが…

ベゼル侯爵様は恐ろしいお方…自分の所有物を何よりも大切にし歪んだ愛情と狂気で包み込む異常とも言える考えを持っている…
大切な所有物に手を出されたら直ぐにでも加害者を家族ごと闇に葬り、この国の肥やしにする性格の持ち主だからです


今回の事件で、貴族だったという加害者をこれまで通り闇に葬る事で、食人花と人間の均衡が崩れてしまうのでは?と、焦ったのを覚えています
けど、そうはならなかった
事件の相手、ベゼル侯爵様の番を害した相手がサージェス伯爵家の者だったから…


サージェス伯爵家、それは昔フレイズ様が助けた貴族の子の生家
ベゼル侯爵様はフレイズ様が助けた子の話を覚えておられたのか、サージェス伯爵家を直に潰すことを辞め今回の事件の賠償としてその子を貰い受け、フレイズ様と婚姻を結ぶ事で表面上解決する展開になったのです
表向きには世間的に化け物公爵と呼ばれているフレイズ様への貢物…賠償の品として差し出される生贄として…


そのお相手こそ、過去にフレイズ様が助け出され少年…アレン.サージェス伯爵子息様
使用人である私達は知らなかったが、そのアレン様は母を目の前で失い心の病から事件の後一度も屋敷を出ることなく過ごされている…今回事件を起こしたのは後妻の子供
アレン様は既に心の壊れた人形なのだと…
しかし、その影で爵位を狙うアレン様の父がバレぬようにアレン様を病死で殺すため、閉じ込めて心を壊していると、来訪したベゼル様が調査結果を教えて下さいました



心が壊れ人形となった存在…フレイズ様が助け出した子が哀れな成長を遂げて嫁いでくる
始めはそんなアレン様を苗床として一生飼い、壊れた心をせめて苦痛の無い快楽で塗りつぶそう…そう計画されたフレイズ様にアレン様のお世話をするよう任されたのですが…



現実はそうはならず違う展開を迎えました
なんと、アレン様は8年も自宅に閉じ込められ、蔑まれても尚!心が壊れきること無く人として生きておられたのです!
心の壊れた人形を受け取る…そんな気持ちでいた我々の想像を越えていました…

書類上の婚姻を結んだ日の出来事は一生忘れる事は出来ないでしょう
大雨の中、ボロボロの馬車でルドレッド公爵家へ訪れたアレン様は付き人の一人もおらず雨に濡れ、げっそりと痩せ細り平然と立っているのが不思議なほど哀れなお姿でしたが、確実に人形ではく言葉を交わし、確かに生きてそこに居る…どう考えても奇跡と言っていい状況だったのです




サージェス伯爵家でどのような仕打ちを受けたのか考えたくも無いほど…アレン様は心だけではなく身体まで酷く傷付いておられました…
ですが、何か未来を見据える美しく瞳をされている…そんな状態にフレイズ様が苗床ではなく番として契りを結びたいと考えを改めたのも頷けます



地下室に用意していた美しい飼育部屋ではなく、フレイズ様のお部屋で共に過ごす事になったアレン様

書類上は婚姻を既に結んでいる為…当日、本当は初夜まで行う予定でした
しかし、それでは賠償として売られてきた物扱いになってしまうと予定を変更し、アレン様のお身体にある酷い怪我が治り、フレイズ様にお心を開いて下さるまで夫夫としての交わりはしないという事になったのです

今は療養が先決、アレン様が健やかになられた時、改めて結婚式から初夜までを行いたいと…





そんな訳で私はフレイズ様が執務中や外出されている間、アレン様のお世話を任されているのですが…
既に、奥様と呼びたくて呼びたくて仕方なくなっています…!!!
奥様とお呼び出来るのは旦那様であるフレイズ公爵様と初夜を迎えてから!それは分かっているのに…!!




「…………………アデリナ…ちょっといい?忙しい時にごめん…図書室にある本を借りたいんだ
刺繍の本とか…このお屋敷にはあるかな?」

「…………っ!!!それなら北側の蔵書に確かございます、私が共に探します故重いもの等持たれぬよう…お願いします…怪我に響いてしまいますので」

「……………うん、ごめんね?分かってる
一緒に探してくれると嬉しい…ありがとう」




………………っ!!!可愛いっ!!!
本当に美しい琥珀色の瞳を揺らしながら申し訳なさそうにメイドである私にお願いをしてくるアレン様…!
笑顔がぎこちないのも、首を傾げ私の様子を伺う姿も本当に可愛い…!

この屋敷に来た当初に比べると少し肉付きも良くなり…身体の怪我も徐々に良くなっているこの方は貴族らしからぬ貴族と言うのでしょうか…自分はこの世界で不要な存在だと思われている節があるように感じる儚げなお方…更には内面はとてもお優しく慈愛に満ちている性格もお持ちなのです
食人花はその人間の内面が匂いでわかる為、アレン様の虐げられても尚、美しい心を持ったままという奇跡の存在が神々しく見えてしまう…!




生後間もない子猫のようなか弱さと儚さが常にあり、守ってあげたい…幸せにしてあげたい…そう強く、フレイズ様が思うのも無理は無いほど私自身、アレン様を幸せにしたくて仕方ない日々が続いています

早く奥様と呼びたい!奥様なアレン様に仕えたい!しかし今奥様なんて呼んでしまったら物だと思われてしまう!
フレイズ様もアレン様が可愛い、大変だ早く抱きたい抱きたいと執務中呟く始末…!
恐ろしく強く寡黙で人から恐れられる公爵様のキャラがブレブレですと言いたくなるほど、アレン様に心をかき乱されているのです
寝る必要など殆ど無いのに毎日アレン様を抱き締め寝顔をみるためだけにベットに向かわれるフレイズ様が耐えている…なら私達も耐えなければなりません

家令であるヤジェも、直接会うことをまだ禁止されている使用人の皆々もアレン様がルドレッド公爵夫人となる事を望んでいるのは明白…!






早くアレン様がルドレッド公爵家夫人になられる日を楽しみにしつつ、私は今日もお仕えするのです…

アレン様の生家を潰すよりもいい案があると、フレイズ様がベゼル侯爵を呼び出されていたのも気になりますが…とりあえず今は刺繍の本を借りれて嬉しいアレン様の可愛らしさをしっかり目に焼き付けながら仕事をしましょう








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