私の世界

るい

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選択肢のある世界で、選んで生きていく。

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「皆さんの担任を務めることになりました、上島です。1年間、よろしくね」
 
黒い長い髪を1つに束ねた、綺麗な顔をした女性が新しい担任。
成績が芳しくない生徒が集まったクラスであるためか、生徒の半分は入学当初から悪目だちしていた人たちで、もう半分は影の薄いというか、やる気がないような人たちだった。
 
公立中学ではあるが、地域でも富裕層が集まっている場所にあるために、裕福な家の子どもが多い。
このクラスは、裕福ではあっても成績がよくなくて私立に入ることができなかったという感じだろうか。
 
とは言っても、私立を選ばない人も多いので、そればかりというわけではないが。
 
 
正直、この若い女性の担任に、この生徒たちをまとめることができるのだろうか、と子供心にも思ってしまう。
 
「先生って、彼氏いるの~?」
「辞めなよ~、かわいそうじゃん!」
 
新学期初めてのホームルームで、そんな野次を飛ばされているからこその心配になるし、
それに対して、何をいうわけでもなく困ったように笑っているしかない担任に不安にならない方がおかしいだろう。
 
 
「えっと、とりあえず始業式があと20分で始まるので、体育館に移動してくださいね」
 
 
騒いでいる生徒に注意するわけでもなく、それだけ言って教室を出ていってしまった。
 
正直、このクラスはもうダメだな、としか思えない。
 
 
 
実際、私がそう感じたのは正解だった。
 
 
本格的に授業が始まったが、このクラスでは授業が成立しなかった。
授業中に生徒が騒いで、授業にならないし。
 
どの教科の先生も、成績を期待していないクラスだからか、放置をしているし。
騒いでいない生徒も、好き勝手自習をしていたり、寝ていたり、本を読んでいる。
 
このクラスになった時点で、全てが絶望的だったのだな。
 
 
私も周りの雑音を無視するように自習をしていたが、集中できない。
学期初めてのテストの日、教室に来た生徒は半分以下だった。
 
ろくに授業も受けておらず、自習でなんとか勉強してきたものの、
授業を受けていないから、テストの成績もよくない。
 
 
勉強をすることは苦ではないし、むしろ頑張りたいのに。
これでは、どうすることもできない。
 
 
とうとう私は、高熱を出して学校を1週間休んだ。
そしたら、学校に行く事ができなくなってしまった。
 
 
その後、両親と話し合って、学校に行かないことを決めたが、
クラスがあんな状態であるにも関わらず、学校というか担任と揉めてしまったのだ。
 
副担任も、学年主任も両親の提案に協力的で、後は不登校に関する手続きをするだけだったのに、
担任だけが、ずっと反対していた。
 
最終的に、両親が教育委員会に訴えて、不登校であることを認められたけれど。
 
 
新学期が始まった時、担任の上島先生とは個人面談をしている。
表面上は、笑顔で普通に接してくれていたけれど、
なぜか私は、この先生に嫌われているのでは、と思った。
 
しかし、嫌われるようなことはしていないし、
むしろ、接触すら初めてなのに。
 
 
不登校に関して揉めたとき、両親にこのことを言ったけれど、
2人の結論は「世の中には、生理的にどうしても受け付けない人間は存在する」と。
 
上島先生にとって、私がそれだったのだろう、と。
 
なので、私自身が上島先生と接触することは、一切なかったし、
両親が全て請け負ってくれた。
 
そういう人間とは、関わらなくていい、と。
 
 
学校に行かないことを決めてから、1ヶ月で私は真っ当な不登校になった。
 
 
教育委員会に不登校であるという書類を出して、
地域にあるフリースクールのNPO法人に所属して、
不登校専門のオンライン家庭教師と契約して、
定期的にスクールカウンセラーと面談することが決定して、と。
 
 
これで、私はきちんと手続きを踏んで、学校に行かない子どもになったのだ。
 
 
両親からは「いろいろ言ってくる人もいるだろうけれど、堂々としていればいいし。私たちはあなたの味方よ」と言われた。
 
図書館やカフェなどで勉強してもいいと言ってくれたし、
もし補導員や店員さんに声をかけられた時は、フリースクールで発行してもらった在籍証を見せて、連絡をとって貰えば、問題はないことも教えられた。
 
しかしまあ、フリースクールで聞いたところによると、
平日の昼間であっても、カフェや図書館で勉強をしている子を補導するようなことは、ほぼないとのことだった。
 
 
担任と揉めている時は、不安だったし、疲れてしまったけれど、
解決して、家で勉強するようになってからは、よく眠れるようになったし、勉強も捗っている。
 
オンライン家庭教師にも、少しずつ慣れてきて、こちらから質問をできるようになったし、勉強が楽しくなった。
 
 
学校に行かないことに対して負い目がないわけではなかったけれど、
それでも、私は肩の荷が降りたようで、体が軽くなったのだ。
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