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本編・アリスティアの新学期

入学式

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桃色の花弁咲き誇る並木通りは、学園の扉を叩く新たな来訪者達を盛大に祝福していた。
ここ、イスト王国、最大の国立学校でもあるエチュード学園では新入生達の入学を祝う式典が開かれている。

「皆さんの入学を歓迎すると共に、ますますの進展に祈りを込めまして、開式の挨拶とさせて頂きます。」

微笑む学園長のマナフロアは在校生、新入生全ての学園生徒に向けてそう言った。

「学園長、ありがとうございました。続きまして在校生から新入生に向けて歓迎の言葉をお送りします。在校生代表は学園生徒会長、ローゼリア・オラシオン公爵令嬢…壇上へお願い致します。」

アリスティア達、最上級生担当の教師ソフィアの言葉にローゼリアは「はい」と会場を通る様な力強く気品ある声で返事をするとゆっくりと立ち上がり、壇上へと優雅に向かう。

(人前に立つロゼはとっても格好良いですね…。)

アリスティアはローゼリアの堂々とした出立を惚れ惚れと見つめている。
生徒会長及び役員の選出選挙は先月の卒業式と同時に行われた。
生徒会活動で学業が疎かにならない様に、生徒会長に関しては、最上級生の中でも特に、成績優秀者な上位者から、教師が選び候補者として選出する。その後、選挙により投票数の多い者を生徒会長とするものである。
過去に平民出の生徒を選出した時、あるトラブルが頻発した為、現在では生徒会経験者や有名な貴族が優先される様だ。

勿論のことながら、ジークハルトやアリスティアも候補者の対象となり、二人がルールを知らない間にも、多量の票数を獲得してしまっていたが、結局のところ、責任感の強い二人は、イスト王城の公務を理由にこれを辞退する事となる。
今回の特例措置として、二人は生徒会入りはするものの、会長はジークハルトとほぼ同等の票数を得たローゼリア、副会長にこれまたアリスティアと同程度の票数を得たレオンが就くことになった。
学園の生徒会人数は定員が十名、生徒会長や副会長は最上級生か中級生から選出され、六人を在校生から選出し、残り四名は新入生から選出する慣わしとなる。

壇上に立ったローゼリアは一礼すると、真剣な面持ちとなり、席に座る人々を見渡す彼女からは自信に満ちたオーラの様なものが溢れている様に見えた。
ローゼリアは透き通った声で言葉を紡いで行く。

「新入生の皆様、この度はご入学、本当におめでとうございますですわ。学園在校生一同、心より歓迎とお祝いを申し上げますの。わたくし達は皆様と一緒に学園生活を送れること、今日というこの日を、とても楽しみにしていましてよ、共に切磋琢磨し、一丸となって、より良い学園生活を、わたくし達と皆様で築いていきましょうではありませんか!」

ローゼリアは豪華絢爛な扇子を勢い良く豪快に開くと、満面の笑顔の彼女が後光を背負っている様な、そんな神々しささえも感じさせた。
ローゼリアの威風堂々たる姿には、新入生も在校生も圧倒され、来賓席に居た国王レオルスや王妃ルビアーナは苦笑いで微笑み、アリスティアやジークハルトやレオンは彼女を呆然と見つめていた。
しまいには、彼女の晴れ舞台を父母席のど真ん中で見ていた、オラシオン公爵夫妻は顔面を両手で覆っている、よもや最愛の娘からこの様な素敵なサプライズがあるなどとは、思いもよらなかっただろう。

「えー…コホン…では、新入生挨拶を…アトラ・ルプスハート公爵令嬢、壇上にお願いします。」

「はっ、はい!」

少し緊張している様な面持ちのアトラは勢い良く立ち上がる、背筋をピンと伸ばし、両手両足を棒の様にガチガチにさせて、ぎくしゃくと、ぎこちなく歩く姿のアトラは、まるでブリキの人形の様で少し可愛らしかった。
壇上に立ったアトラの手元には読み上げる挨拶の書かれた文章があった。
緊張からか、頬には冷や汗が一筋流れる、アトラの視線の先の父母席には、微笑むシリウスとデネブの姿があった。
両親は仕事でイストを離れている為、本来なら忙しいところ、二人は親代わりとして来てくれたのだ。

(シリウス兄様、デネブお姉様、それに…)

在校生の席には兄のレオン、ローゼリア、そしてジークハルトとアリスティア、新入生の席にはアナスタシアと皆の微笑む顔を見た瞬間、アトラの緊張は嘘の様に無くなっていた。

(皆が居るから、頑張らなきゃ!)

アトラは一つ深呼吸をして、視線をまっすぐ、会場全土を見渡した。誰もがアトラの言葉を心待ちにしている様であった。

「…並木通りの花々に歓迎される今日、私たちは、晴れて、伝統あるエチュード学園に入学いたします。本日は私たち、新入生一同のために、このような盛大な式を挙行していただき、誠にありがとうございました。新入生を代表して、お礼申し上げます。」

挨拶を言い終えて、アトラが一礼すると、彼女に対する歓声と盛大な拍手が巻き起こる。

「アトラ様、立派ですね」

「ええ、素晴らしい挨拶でしたね」

立派に役目を終えたアトラに、アリスティアとジークハルトは祝福の拍手を送っていた。
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