―まひる家長男は異世界迷子の『カミサマ』だった事案について―

スガヤヒロ

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異世界へ

異世界で迷子の末

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 鹿の火を消していたら、突然突き飛ばされたわけだが……。

 結果的に鹿は助かったのでいい。目の前で魔法陣?
 あれを瞬時に展開して巻き戻しみたいに鹿の傷が治っていった。
 綺麗な黒い鱗が体表を覆い、やがて問題なく立ち上がる。
 自身の状態を確かめるように頭をふり、いななく。

 よかった、よかった。
 さっきまで生きてるか死んでるかわからないほど、蟲の息だったのに。
 さすが、ファンタジー! 
 でも、できればもう見たくないかな。
 尻尾は匂いと血さえきおつければ平気だったのに……。
 ちょっと、グロ耐性なさすぎた。

 鹿の生還に安堵したのか腰を抜かした少女に顔を擦り付ける鹿。
 少女もくすぐったそうに撫で返している。

 それは、それは微笑ましいのだが……あれ?
 俺、忘れられてる? 
 突き飛ばしんだし俺がいることは知ってっると思うんだけど。
 
「……あの~、二人の世界の中にいるとこすみません」
 
 仕方ないので、俺から話しかける。
 こんな異世界の森で迷子。正直、藁にもすがる気持ちだった。
 靴も片方ないし。この世界で居場所もないのに迷子って超怖い……。
 110の電波が届かないのがもう絶望的。

 俺が話かけると、驚いたように目を見開く。
 この分じゃ、わりと真面目に忘れられていた様子。

 立ち上がり、俺に向き直る少女。
 白金の絹のような腰まで届く長髪を翻しすと、とがった耳がのぞく。
 
「……突然、突き飛ばしてごめんなさい」
「あぁ、いえ」
「…単刀直入に聞きます。少年は何者なの?」
「なに者といわれても…人間ですけど」

 これ以外答えようがない。
 この世界に出自をもたいないんだし、しょうがない。
 でも、たづねたい気持ちも分かる。
 こんな森の奥に軽装の人間がなにしてるのか?
 俺はそう思う。
 
「人間……」

 なにやら、納得いかない。という表情になる少女。
 ……たぶん、追及すれば俺の心が持たない気がする。
 
「ではあなたは?…エルフ…ですか?」
「!?」

 尋ね返してみると、こいつなにを言ってるんだ? くらい目を見開き後ずさった。
 もう、ファンタジーなんでしょ? とこの世界と距離を詰めてみれば、これだ。
 コミュ障がいかんなく発揮された様子。

 俺が訝しみつつ、はッと思い至る。
 こっちから名乗って見るか? 
 まず、「自分から名乗ったらどうだ?」なんて
 武装した少女にまず聞けないし。

「あ、名前ですか? 俺は真昼 あきひと。日本人です」
「……」

 じっと、少女に見返される。
 いや、あの。名乗っただけなんですけど……。

「日本人? それがあなたの種族?」
「種族っというか……民族ですかね」
「…じゃあ、これはあなたの?」

 そう言って取り出されるフォーク。

「たぶんそうですね」
 
 そういって腰のポーチに入れ直す少女。
 聞いといて返さない。という所業。
 フォークを気にいるなんてないだろうし、
 俺の物と証明しろ。っていわれてもできないしなぁ。
 散らばったのを見つけたのだろう。

「そう、なるほどね」

 なにがなるほどなのか。

「少年。君はこの辺にいたのでしょう? 何か落ちてきたと思うんだけど何か知らない?」
「え?ぇ、ぇ?落ちてきた?」
「そうよ」

 タイミング的に俺の事だな。
 目が覚めたら、ふかふかの土を枕に寝てたのには、かなり驚いた。
 よく生きてたよね。助かったって実感がないもん。
 寝て起きてら朝になってた。温暖でよかったよ。
 太陽が真上にあるし、だいぶ気絶してたようだ。

「いやッ……何もしらないです」
 
 ちょっと、早口になってしまった。

「…目、およいでるわよ?」

 目が泳ぐ? いくらファンタジーとはいえ騙されないぞ!

「何を知ってるの?」

 間髪入れずに畳み込んでくる。
 聞き方に嫌が。嫌がこもってる!?
 でも、なんていうの?
 あのクレーターつくったの俺なんです!
 ってさすがに言えないじゃん。
 
 すぅ、と帯剣している柄に手を掛ける。

 えぇ!? 名乗って円滑な意思疎通を図ろうとしたのにッ
 名乗り損? 名乗り損なの!?

 目を細める少女。

「いやいや!!まって、ちょ、落ち着いてください!ぐ、具体的に何を聞きたいんですか!? それなら答えらるかもしれません!」

 俺のことは聞くな。そう、遠まわしに告げる。

「……私の仲間のことよ」
 
 よかった。
 ちょっとだけ嫌が言葉から抜けた
 それより仲間…か? この人の格好をよく見れば軍服のような装いだけど。
 
「うーん、知らないですね…あなたと同じ恰好をしてるのでしょうか?」
「えぇ」
 
 うーん、やっぱりこの人しか知らないな。

「ここらへんで見かけたのはあなたでけですね」
「嘘ついてない?」
「嘘…ついてないですけど、言ってもしょうがないことと言うか……」

 すぅ、と柄に手が伸び……

「あのクレーターをつくったのは俺であります!」

 敬礼!

「クレーター?」
「あ、いえ! 落ちてきたのはたぶん俺であります!」
「少年が?」
「肯定です!」
「……」

 やめて。やめて。その間をやめて。

「…いいでしょう。あなたが言いたくないというならそれで」

 それはそれは冷たい眼差しで俺の命を射抜いている。
 がっちりと柄に手を掛ける。振り向いてダッシュしようとした時だった。

 ドオォォォォォン!!!!!!!

 なんだ!? 思わず姿勢を崩し、爆音、轟音の方を見る。
 少女も手が止まった所を見るに同じ方向をみているのかもしれない。

 ……―――ュ……ゥゥ…ゥゥウン…ドゴォォォォン!!

 何かが地面に衝突し、一瞬の無音のあと轟音が傍でなる。
 地面が近くで噴火したのか!? てくらい揺れる。

 噴石と土砂がめくくりあがり、ふってくる。デジャブを感じながら
 蹲るしかできないおれ!

(なんだよ!なんなんだよ!)

 諸突したそれは地面を跳ね、巨木をやすやすと倒しながら転がっていった。
 おそらく、こういった光景がその辺でも起きているのだろう。

 轟音。バキバキ。倒木の悲鳴や地面が穿たれただろう音が聞こえる。

「……なんなんだよ。家かえりてぇ」

 まだ、揺れる地面のうえでぼやく。

 少女も鹿と一緒に伏せている。

 パラパラと、砂やほこりが静寂のおとずれを告げる。
 遠くではまた、轟音がしているようだ。遠ざかったり、近づいたり。
 あまり、この辺にいなほうがいい。俺の心が必死にそう訴える。

「……少年。みえる? あれを経て少年が助かったて?」
「奇跡」
「ころすわよ?」 

 巨大な噴石が穿った穴を指しながら少女に問われる。
 確かに、あれくらいの穴の中で寝ていたけども……。
 あの穴をあけるのに、
 少なくとも巨大な噴石が降ってくるぐらいのエネルギーがいるのでは?

 そう、少女に聞かれてるわけだ。しかし―――。

「……でも、あなたも俺以外みつけられなかったんじゃないんですか?」
「……」
「俺を殺したところで、振出しに戻るだけでしょ?」
「……少年が嘘をついている」
「犯行の現場付近でカバンを探してた俺がですか?」
「!?」
「……いや、最初からウロウロしてじゃないですか……」
「……」
「俺も目覚めてから大きな音ききましたけど誰にもあってないです。あなた以外に」
「……」
「あなたが来る以前も後も俺しかこのへんに落ちてきてないと思いますよ?」
「……」
「すくなくとも、地面に穴開けるほどの落下は」

 目を伏せ、考える少女。
 静かにしてれば怜悧な美少女なんだけどなぁ。
 と、残念に思う。そういえば、白無垢は大丈夫だろうか?
 まぁ、白無垢を心配するだけ無駄だな。
 龍も第一村人に攻撃されてたようだけど……。

 ふっと顔を上げる少女。

「あなたを連行します」
「は?」

 頭のか何で前科という言葉が占領する。
 迷子になったというだけで、逮捕される!?
 保護ではなく、権力の監視下におくとッ?

 しかし、帯刀する少女に何ができるのか?
 反論の言葉を探しているときだった。

 ウォォォォォォォン!

 と、遠吠えがこだまする。

「人狼の遠吠え? なぜここに……」
「……」

 本格的に逃げるのは難くなったようだ。
 次から次えと悪い方向へ進んでいく。

 これは、凶運のしわざですな。

 異世界に来て、今日はじめて捕虜になりました。
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