―まひる家長男は異世界迷子の『カミサマ』だった事案について―

スガヤヒロ

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異世界へ

白い布の力

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 大河沿いを上流に向け森より高い位置を掛ける。

「ニール、大丈夫か?」

 3人を乗せてここまで走ってくれている。
 すでに鳥人達からの逃走だったり、第一村人からの逃走だったり、
 ニールは頑張りすぎるぐらい頑張ってくれたのだが、
 軍人さんのために未だ走り続けているのだ。

「ニール、降りて歩こう」

 これで5回目。
 ニールは聞き入れてくれない。
 出発してからの速度も、高度も徐々に落ち始めている。無理しているのは明らかだ。

「ニール……ある…こう」

 意識が混濁したままの軍人さんがニールを労う事でやっとのことで地面に降りてくれた。

「ちょっとだけ休憩しましょう。ニールに水分を取らせます」
「ウチはかまへんのどすけど、はよしてくりやす」

 白無垢の言葉に首肯し、ニールにかがんでもらう。
 手綱から手を離そうとするが離せない。握り過ぎてがちがちになっていた。
 なかなか手綱を話す事が出来なくて焦ったが魔法が解けるように動きだす。
 降りると軍人さんを河原にある大きめな石に一旦預け、ニールの手綱をひいて川辺に連れて行く。

「ニール、おまえ頼りだ。しっかり休んでくれ」

 出会いは最悪だったけど、ここまでに愛着が湧いてきた。
 水を飲むニールの背を撫でてやる。

 ヨシヨシ。

 俺も近くに腰を下ろしスマホを取り出す。
 
 意味はないんだが遺書ってかビデオメッセージ残そうかな?
 取った所で見て欲しい人達に届くことはないんだけど。
 少ないバッテリーで出来る事にしては有益な方だろう。
 動画アプリを起動し、スマホに話しかける。
 時間もそう無いし、2、3分も話せればいいや。

 そうしてしばらく。スマホに録音していると―――。

「お前様?何をしてはるんどす?」
「え?一応、家族に二、三話しを残しとこうかと……」

 何故か、頬を膨らませお怒りになる白無垢さん。

「これにしたためておるんどすな? 不吉なさかい、お預かりしやす!」
「あ!ちょ!!……」

 ひょいっ、と取り上げられてしまい、胸元に仕舞われる。

 ……まぁ、白無垢に持ってもらった方が壊れる心配はないか。
 言いたいことは言ったし問題ない。

 さて、そろそろ、歩こう。
 軍人さんをおんぶし、ニールに乗せる。
 おんぶした時に、まだ不機嫌な白無垢に頬を膨らませたまま睨まれた。

 家族にくらい言い残してもいいじゃないですか……。

 ピリッとした空気の中歩き出し、
 河原の歩きにく砂利を踏みしめていると段々と暗くなってきた。

 炎から遠ざかっているのかな?
 それは嬉しいんだが、足下が暗い。

 すると、

「はぅッ!」

 と、可愛らしい声をあげて転ぶ白無垢。

「大丈夫ですか?」

 白無垢が怪我するとは思えないけど、マナーみたいなものだ。

「へぇ、どんなところ見られてしまったどす。ウチ、かにここメクラなさかい、よく転ぶんどす……」

 と、はにかむ。
 そういえば、がきんちょ捜索のとき「これで安心どす」とか言ってたっけな?
 そういうことだったのか。

 ランタン型ライトも落下の際に紛失したし。
 壊れたミニガスバーナーは使うのは怖い。
 光源問題が出てきたわけか。

「じゃあ、掴まりますか?」

 と、がきんちょ捜索の時みたいに。という意味だったのだが、

「クフッ♪」

 と、言うと手を繋いできた。

 おもわずビクっとなる。
 怪獣大決戦ばりの破壊をもたらす白無垢に手をにぎられる恐怖。
 なにか気に障れば簡単に握り潰されてしまう!?

 と、おののいている矢先に「はぅ」と呻くとまた躓く白無垢。
 倒れまいとする白無垢に手を一段と強く握られて肝を冷やしてしまったけど、
 とくに潰れることもなく。
 ほっと、息をはく。

「…どんなさかい、かんにんしておくれやす」

 と、眉根をよせ申し訳なさそうに笑う。
 
 そういえば体制を崩した際に足を着いたらヒヤっとしたな……。
 あ~あ、靴下破けた。いま、片方しか運動靴はいてないんだった。

 「白無垢さん、ちょっとまっててください」

 そう、断りをいれ手を放すと、「あぁ……」と名残惜しそうにされた。
 そそくさと、ニールの鞍に無理くり括り付けたカバンから布類を取り出し、
 足に巻き付けていると……。
 
 キュアァァァァァ―――錆びた金属が軋みを上げる様な轟音が暗夜に木霊する。

 音の源流へとはんなりと首を向け、黒い極光の柱が霧散し始めるのを認める白無垢。

「はぁ……ほんとはお前様のためのもんなんどすけど、せんなきさかいに。その童におつかいやす」

 ため息を付き心底うんざりしながらそう言うとカバンの中からコンニチハさせる白い着物。

「はよ童起こしはって、ご実家へ向っておくれやす」

 ぐしゃぐさしゃだった着物を綺麗に畳みなおすと、俺に渡してくる。 
 しぶしぶといった様子で光の輪を背に召喚し黒い極光の方へふらふらと浮かび向っていった。

 幾度か振り返る白無垢に手を振ってやり、見送る。

「使うっていってもなぁ……」

 白無垢の言葉にそわそわしだすニール。
 軍人さんがよくなると聞いていてもたってもいられない。といった様子だ。

「案ずるより、やすしきよしだな」

 大きめの石に預けていた軍人さんの元まで行き、河原の砂利の上に運び寝かす。
 ここからはフィーリングだ。
 白無垢は「つかっておくれやす」と言っていた。
 着せる以外の用途をニュアンスに感じる。
 だからこうした。

「……」

 白い着物を頭から足首まで隠れるように被せてみた。
 水死体を弔ているみたいだ。刑事もののドラマでよく見るやつ。

 突如、ニールに角で背中を突かれる。
 ジャージの上に学ラン着といて良かった。結構、痛い。

「ニールッ!ちょっと待てッ。俺も勝手がよく分からないんだよ!」

 そういうと、突くのをやめてくれた。
 一人と一頭? で軍人さんを見守りに入る。

 静寂。

 ん~、やはり違うのか。
 「おい、どうなっているんだ」といわんばかりに頭をニールに齧られながら思案に更けてると―――。

「パパっ!?」

 と、着物を跳ねのけ目を覚ます軍人さん。

「あ。おはようございます。といっても夜ですけど」
「……そう。言わなくても聞かなかったことにしてくるのね」
「えぇ、パパ何て聞いてませんし、そう呼んでるんだなぁ、なんて思ってません」
「聞いてないことまで話してくれてありがとう。殺します」

「まてまて!? 俺。命の恩人だから!?」
「……ちッ」

 チッって……。
 でも、状況を飲み込んでくれたらしい。
 さすが軍人さんだ。
 会話も詰まることなく、しっかり聞こえている。
 手足の骨折も治り、瞬く間に回復させてしまった。
 タネも仕掛けもあるんだろうけどマジックではない。
 白無垢の着物。これはいいものだ。
 
「軍人さん。とりあえず移動しましょう。何があったか説明します」

 こういえば置いてかれないはず。
 大丈夫。きっと、今の状況を知りたいはずだし。

「……いいでしょう。この場にとどまっていて、いいことは無いでしょうから」

 そう、赤々とした下流域を見つめながらいう。

「えぇ、ではいきましょう」

 着物を拾い上げ、ぐしゃぐしゃに急ぎカバンに詰め込むと
 ニールに跨った軍人さんの後ろに腰を掛ける。
 すると、軽く疲労と眩暈がする。
 あの着物は魔法の道具だもんな。
 俺の魔力的なモノを消費したのかもしれない。
 もしかして、この世界に居れば魔法がつかえるのか?

「で、何があったの?」

 はしゃぎ気味のニールが駆け出し事の成り行きを説明していった。
 
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