―まひる家長男は異世界迷子の『カミサマ』だった事案について―

スガヤヒロ

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神界―消滅―

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 黒い極光の柱が神界に屹立する。 

(なんだ!?)

 思わず黒い光に振り替える。
 直後、雲海が極光の柱を中心にはじけ飛ぶ。

 何者かに神界が破壊されると無理やり現界に顕現させられる。

 あの権能―――蝕の法理。
 神代の忌むべき記憶を思い出す……。

 樹海を灰の砂漠へと変えているのはそのせいだろう。

 神々を堕落せしめた、世界を食らうもの。

 半神半人まで堕落したもの達では、もはや対抗できまい。
 長命な種族とはいえ、長い時の中で記憶を失っていったもの達は多い。

 その中でも、あの少女・・・・・の一族は盟約までも忘れてしまっているのだろう……。

 眼下を見下ろせば蝕の法理による無理な顕現で麒麟がたじろいでいる。
 神伐の術を持つ黒焔の者の仕業なのか、白無垢殿のお力か。
 樹海が炎にのまれてしまっており、地平線が夕日のように赤々と揺れている。
 神格同士の力がぶつかり合えば避けようのない災禍か。
 
 幾つも不明瞭な事が重なり、事態を把握しきれない。

 鼻先を高く掲げ、存在を探る。リーンと光輪が広がりを見せ、空の解けていった。
 
 ―――大御神はかの少女と共にいる様だ。
 我が一族の者も一度、大河に避難したようだが移動を開始している。
 そして、理由は分からないが無視しえないもの。
 白無垢殿はもはや神格と呼べるほどに力を増した黒焔の者と対峙している。
 理由は定かではないが黒焔の者の力の質が蝕の法理へと変質しているようだ……。
 あの時対峙した時には感じることはできなかった。 
 わけも分かたないまま大御神の御本尊で目をさました我は放り込まれたと聞く。
 その者の気配は感じられない……か。
 
 今、この時何をなすべきか―――我の目的は殿しんがりだ。
 この場で誰を押しとどめるべきかは明白。

 もう、麒麟を相手をする必要もない。急ぎ向かおう。
 
 

「―――あぁ、もうッ!?」

 言葉よりも早く紫電がこの場を離脱してしまった。

 突然の極光に神繋門を通さずに現界へ越界してしまうし、
 おかげで麒麟の玉角が消失し本来の機動も神界への侵入も不可能。
 龍の紫電の速度に追いつくのも当然無理。任務の継続を断念しせざる得ない。
 この分だと、ただ足止めされていただけ見たいね。
 ボンクラに唆された二世のノリで見通しの甘い行軍だったし、
 死ななかっただけ儲けもんか……。
 
 突然の事態にうろたえる麒麟を宥めつつ悪態をつく。

 それにしても……。

 どこへ向かおうか。
 霊峰の方向を除き、辺りは火の海。
 神界にいる間になにがあったんだろう……。

「さぁ、のんびりはしてられんぞ?」
「ですね。神界に侵入しているい間に現界では未知の事態に直面してますし」
「何言ってるのかね? ユリリアート君のことだよ」
「荒神の急襲で雲海に落下しましたからね……」
「そう!そうなんだよ、タバサ君ッ! あの可憐なユリリアート君がオーガなんて蛮族の雑神に触れられたんぞ!?」

 鼻息荒く私に詰め寄ってこようとし麒麟から落ちそうになるものの、
 いかにオーガが愚かということ、ユリリアートの可憐さを垂れ流し始めた。

 一応、伯爵位を持つ貴族。
 ユリリアートも貴族だが降嫁してまで貴族でいたくないということと、
 麒麟への変質的な愛ゆえに侯爵家令嬢という地位を蹴って麒麟遊撃部隊に自ら志願した才媛だ。
 そんな彼女を追いかて来たのが、このバカ貴族だ。
 この馬鹿貴族を見ているとユリリアートの気持ちもわかる。
 逃げてきたのに追っかけてきたとか最悪だよね。
 たちの悪いことに貴族という立場に甘んじず己の才と、貴族ゆえの社交性でユリリアートに近しいもの達。
 特に麒麟遊撃隊の平民出身のもの達にも分け隔てなく接するのだ。
 貴族ゆえに物言いは上かからだが、下民層の世相、文化にも精通し、人望もある。
 今回の麒麟遊撃隊の指揮を執るのもバカ貴族だ。ひとえに有能な男と言える。

「聞いてるのかね? タバサ君」
「きいてませんでした!」
「タバサ君……君の」
「そんな事より具申させてもらいますと、荒神の本作戦にない投入。無理な越界による麒麟の消耗。スターク様の御託。災禍に阻まれ撤退も困難。作戦継続能力がありません!」
「あの、タバサ君」
「もう一度、具申さてもらいます!」
「……いや、結構だ」

 荒神の乱入で何騎かの麒麟と騎手を失っており、これにユリリアートも含まれる。
 仲間の殉職に任務継続が不可能なこと。合流するはずだった他の班も姿を現さない事態に、
 みな精神が疲弊し士気を落としている。
 龍を追い立てているうちは士気を維持できたが、今はそうもいかない。
 私もユリリアートが雲海に落ちていったことで平常心ではいられないのだ。
 バカ貴族には最低限、指導者として気を引き締めてもらわなければ―――

 「諸君らは霊峰方面へ退避だ。私はユリリアート君を迎えに行くこととする」

 命令が荒いなッ!馬鹿野郎!
 部隊長が隊を離れてどうするんだよ。
 隊の輪を自分からみだすなッ。
 部下を鼓舞しろよ!部隊長だろ!?

「―――私もお供します」

 バカ貴族がいくなら私も当然いく。
 すると、部隊の誰かがため息をつく。
 あなたも結局行くんですね、と。部下たちが白い目でみきた。 

「しかたない。俺も行くぞッ」
「ユリリアート様には何度も助らて来たんだ」
「様づけは嫌わるぞ? 怪我を追えば魔術で直してくれるし、美人だし。俺も当然いくぜ」
「はぁ…俺もいくよ」

 次々とユリリアート捜索にもろ手を挙げる麒麟部隊の野郎ども。

「私たちもいくわッ!」
「えぇ。タバサ副部隊長だけだと心もとないし」
「見た目可愛いのに、中身おっさんだし」
「野郎に乗じそうよね……」

 麒麟遊撃隊無角班の女性陣もみな同行するようだ。
 なんだろう? 私、ひどい言われ様じゃない?
 私の親友を助けに行くのは当然じゃない。
 バカ貴族に首輪がないと不安だし。

 ここにいないユリリアートでまとまる麒麟遊撃隊。
 バカ貴族よりも人望のあるユリリアート。
 知ってか知らずか。
 結局、隊の士気は向上し纏った。

 まっててね!私のユリアたんッ♪

 すると、ユリリアートの捜索へと指針を取った麒麟遊撃隊に轟音が届く。
 眼下を見下ろせば、木々を灰色に変え樹海の中を何かの大軍が蠢き散らばっていくのが見える。
 
「あれはアンデット? の大軍ですねぇ……」
「だろうな。これほどの祟禍そうかはハーマルグント有史以前も含めてないだろう。跋扈した後が灰に代わるなど神代のおとぎ話でしか聞いたことがない」
「それで、どうします? 麒麟も疲弊した状態ではずっと空を掛けることはできないんですよ?」
「……そうだな。ここから幾つか岳が見える。頂で休憩を挟みながら次の岳へ向かいながら行こう。もちろん索敵術式をおこたるなよ?」
「それは承知してますけど、アンデットがいては特定は……」
「なら、伝達魔道具も定期的に使え! 他の者も分かったな!?」
「「「「了解です」」」」

 ふと、森の一体に以上が発生する。
 木々が倒壊し崩れ落ちると、後には粉塵が舞い、まっさらな地帯ができ上がっている。
 石灰化した木々も、彫刻のような残骸がおりなす構造物と化す。
 音を聞き向き直れば、同じような現象が随所で起きているようだ。

 ズズゥゥン……。

 まただ。
 アンデットが資材を集めている?
 それはおかしいか。
 見境なく木々を石灰化させては倒壊させている。
 後には何にもない更地。
 そこを豆粒みたいな死霊の大軍が蟲のように過るだけ……。
 いや、よく見れば更地が広がり方に癖がある。
 炎が広がりを見せていない方ね。
 何かを追いかけている?

「霊峰方面へ向かっていくようだな。」
「みたいですねぇ」

 木々が倒壊している一帯があり、粉塵が立ち込めている。
 絶え間なく音が響き少しづつここから遠ざかっていくその先へ視線を上げていく。

 すると、残光が揺蕩うのが見える。魔素が粒子化する魔術の発動痕跡だ。
 それに照らし出されるように、あるものが見える。

「……戦略級霊装規模の被害に未知の霊障汚染がでてますね」
「確かめようにも茨で近づけんな」
「えぇ、戦闘があったようですけど、霊装が必要な事態といことですけど」
「はぁ……相手などしてる暇はないが、無視もできない、か」
 
 アンデットと交戦してるもの達がいるようだ。
 この物量じゃ撤退戦しかない。
 それに逃げおおせない所を見るに、獣人種…もしくオーガかな?
 獣人なら獣身化でふりきれそうだし、獣人ではないよね。
 なぜここにいるのかを考えると……荒神? を追ってきたのかな。これなら辻褄が合う。
 うん、オーガでしょ。

「「オーガだろうな・でしょうね」」
「私の方が速かったですね」
「正気かね? どう考えてもわたしだろ」

 ため息が後ろから聞こえる。

「どっちでもいいですけど、斥候出せばわかる事じゃないですかね?」
「足の速い無角班がいきましょうか?」
「いや、空にいるだけで麒麟は消耗していくし、岳にできるだけ近づいとく意味でも全員で向かった方が距離を稼げる」
「そうねぇ…神界へ逃げ込めない以上、空を掛けられる内は有効につかいたわね」

 と、どんどん話が進んでいく。
 
「スータク様。隊長なのに影薄くなりましたね」
「君の認知能力ではわたしの威光を計り切れんのだよ」
「威光とか結局光に埋没しるんですから影薄いのに変わりませんよ」
「君ね……」
「まぁまぁまぁまぁ」

 角班にバカ貴族が引きはがされ。無角班に私が引きはがされる。
 結局、バカ貴族と私は後ろをついていくこととなり、戦闘領域上空を駆ける。

 それぞれあやされつつ、偵察していると。
 森から飛び出す影が一つ。
 だれかが騎乗した麒麟のようだ。
 後にもう一人載せている。

「スターク様。あれを」
「わかっている、伝達魔導具を」

 角班の者が伝達魔導具を使用する……反応なし。

「直接赴き接触をはかるぞ。あれだけ麒麟を駆れるのだ。麒麟遊撃隊の誰かだろう」

 すぐ真下をアンデットが跋扈する樹海の上を駆け、追いかける。
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