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天上の霊薬
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追い込まれ茨縛の黒弓を放つ。大きく魔素を失い、代償をしいられた。
魂を対価にする一撃。命を削る茨冠が額に纏わりつき蝕むと、
オーガの力の源である角に罅がはいる。
これでもう追ってこれないはずだ……。
霊装は広範囲を茨牢獄で覆い、跋扈する死霊を封じる。
牢獄から弾かれた死霊は近づけずにいるか、大きく迂回することになる。
俺たちは巨木を足場に立体的に移動するが、死霊もオーガの祖霊達だ。
周囲の魔物を食らい受肉して得た肉体は歪ながらも本来のオーガより優れた機動をみせる。
疲れもしない。感情もない。
しかも、オーガの古き種族も見受けられ、そも巨躯をものに言わせた進撃を見せる。
スイの縛布霊装さえ使えれば状況を変えられるかもしれないが……。
「ウメナリ! 隷属呪印による呪令を怠るなッ!」
「口を動かす前に、手を動かせ!気負うおなよ!?エンジクニアツ!!」
巫女達による隷属呪印で迂回してきた死霊の動きに制限できるが、
大挙する死霊に僅かな退避の時間を稼ぐことしかできない。
それでも必要な時間だ。これを継続しなんとか合流したい。
戦士たちは近接戦闘をさけ、身業を使わずに魔法術式による正確な魔力配分で死霊の足止めに務める。
「しかし、きりがないなッ……!」
荒神の拘束に一度。
先ほどの進撃を凌ぐのに一度。
オーガの力の象徴である角氏素性の身業――固有霊装。
あと、一度使えば俺は茨冠に頭を射抜かれ、その代償に魂を消失する。
つぎ顕現創造ができるか否か……。
骨氏と角氏の戦士の、巫女による足止め体内魔素が消耗し、撤退もままならくなりつつある。
ウメナリもそれが分かっているのか険しい表情で、損耗を抑え消極的になってしまってる。
しかし、それでは……。
ウコンとサコンが補助に入り、なんとか陣を維持することで回り込む死霊を回避できている。
使うか?
しかし、それは今か?
俺の決断は正しいのか―――。
「若頭。一旦、後方へ下がってください。霊装の準備を」
オーガ四氏族の総長が角氏ではまだ若頭、か
ためらいなく霊装をつかえと進言される。
親父の代から頭の直臣として角氏を支えてくれているスネエモンだ。
まぁ、代わりはいるか。
俺が消えたところで、オーガが潰えてもらっては困るのだ。
失かもしれない国を命一つで、次代へ継承できるなら安いものだろう。
「わかった。総指揮を一旦、委譲する。頼むぞ、スネエモン」
「ハッ。ウメナリ殿にも其の言お伝えしましょう」
拝命の礼をとり、任を淡々とこなしていく。
決断力も器量もあり現実主義者だ。
なんで俺なんだろうな? と不意に頭をよぎる。
「―――今は俺が総長だ。その意味を全うしよう」
後方に護衛と共に下がりながら、誰に言うでもなく零す。
その時だった。
白い光が頭上を駆ける。
見上げるとここら一帯を周回し戻ってきた。
すかさず降り立つと、並走する麒麟と騎乗する少女。
「あ~、すみません。ハーグルムント皇国麒麟遊撃隊のタバサ……」
「長い。ささっと用をいえ」
間髪おかず言い放つ。
むッ、としたものの聞き入れてくれたようだ。
時間が惜しいので、そうでないと困るんだが。
「で、では、手見みじかに。ユリリアートと共にいる少年からこれをあずかっています。うそかほんとか。今回の神征伐の討滅対象の肉片です。スイ? とかいう人に渡したいんですけど……」
「今、スイはいない。この状況下で探し当てるのは難しいだろうな。」
「げぇ!? まじですかッ? いなんだぁ~……」
とへこみ出す。
「どうしたかったんだ?」
「スイって人なら死霊を足止めできるかもしれないって話だったんですぅ……。霊装を扱えるとかで」
スイが霊装を扱える事を知っている?
そのうえで、死霊の大軍まで天上の霊薬である龍の肉片を届けに来た。
ハーマルグントの麒麟遊撃隊も背水の陣ということか……。
「はぁ、手負いでも追い込むことすらできなかったのに……」と、
そうぼやく少女から赤い包みを受け取り中を確認する。
これは……。
強い神気を纏っている。
眩く金色の粒子を湛え、これら一つ一つが霊装に匹敵する魔素量だ。
俺も初めて見るが、嘘ではないようだな。
霊装を扱える事は秘しておきたかったが、知られたなら知られたでやりようはある。
「なんか、ただの白い切り身ですよね」
「そうみえるか?」
首をかしげる少女。
危険を承知でこれを持ってきてくれたのだ。
見逃すことで礼とし、ありがたく受け取るとしよう。
名も顔もしらぬ少年よ。感謝する。
「これは俺が預かろう。スイには渡せないだろうが、意に沿えるだろう。そう上官に伝えると言い」
「ほんとですか!? やっふぅッ♪ じゃぁ、こんなとこ居たくないので、さっさと行きますね!」
「あ、あ。よろしく頼む」
なんとも薄情な挨拶を皮切りに、去っていく少女。
改めて、龍の肉片を見る。
不老不死の恩恵を与えてくれる霊薬。
そういわれているが、確かめられたものなどいない。
ためらいが
道なき暗を切り開くのも長の務めだ。
後は、スネエモンに任せている。
「若頭……」
「後がないのは分かるだろ? 一縷の望みってやつだ。これを口にして何があるか分からない。今すぐスネエモンに合流しろ。命令だ」
険しい表情の二人を前線に返し、一人皆から遠ざかり、開けた場所にでると立ち止まる。
神気が辺りを包み黄金色の光の中、俺はそれを口にした。
よく見覚えのある者と交戦に入る。
灰氏のカゲヨシ様。血氏のムラサキ様。
いまや死霊と化し、その軍勢の戦闘をひた走る。
「哀れなッ……」
死後、考えることも奪われ、同族を打たんと邁進する各氏族の長の成れの果て。
されど、その力に衰えなどなく。荒神の力を付与され脅威となって立ちはだかってくる。
すでに骨氏素性ノ身業。骸装纏衣。
これを用い、外骨格を魔法物質へと生成する変成固有能力。
躯体を硬質な。
もはや別の種族といえる変貌を遂げてなお、両者を押し切れない―――!
突如、乱入する影。
黒焔を纏った剛拳が眼前に迫る……!
瞬時に防衛器官を生成し、拳の間に割り込ませる。
「「アネキッ!!!」」
ウコンとサコンの声を置き去りにし、体が水平に吹きとぶ。
石灰化した木々を幾つも粉砕しながら地面へ衝突する。
瞬時に魔素吸入器官を生成。
大量に魔素を体内に取り込み自己修復力すると、
余剰魔素を身業に回し強化纏衣結界を施す。
地面を蹴り、戦線に復帰するとウコンが地に伏しながらも結界を維持し灰にならんと堪えている。
サコンがそれを庇い、乱入者に肩を砕かれるところだった。
「チッ!!」
爆炎術式を背に生成した排出器官から方向性を持たせて発動する。
無理な発動に体内が焼きただれるのを感じながら、サコンを襲うものを勢いのままに蹴りつける。
お返しとばかりに吹き飛ばすと灰となった地面を抉りながら減速し、
サコンとウコンの下へ戻ると抱えて戦線にいる巫女に預ける。
「ウメナリ様!?」
「私のことはいい! 呪令による牽制を怠るな!」
戸惑いながらも死霊へ呪令を行使していく。
「アネキ……すまねぇ」
「かまわないさ。それより回復に努めな」
骨氏の者は躯体の強化、自己治癒に優れた才を持つものが多い。
サコンやウコンも、骨氏を冠するだけの才を持つ。
「ウコンと頼む」
「あぁ」
背後で乱入者の猛威に悲鳴や、瓦解していく陣の後退する雑踏が聞こえる。
瞬時に駆け出すと打撃の為の杭を打ち出す器官を生成し、
大きく踏み込み―――爆炎術式で打ち出す。
すさまじ轟音と穿たれる地面。しかし―――
「ちッ! 灰にかえやがるねッ」
打ち出した杭が灰なり霧散する。
舞い上がる灰の中、視界を確保しようと後退するも、
ボォッ!!!!
と、灰塵を穿ち肉薄してくる。
「!?」
驚きに、一瞬戸惑ってしまた。
黒い焔を纏った剛拳を再び、見舞われてしまった。
大挙する死霊を足止めするのに大きく展開した巫女の呪令を抜け迫る!
護衛に着いた戦士たちも灰と血の長にくぎ付けになっている―――
反射による防衛器官の生成も間に合わない!?
(クニアツの霊装を受けてまだ……!)
瞬間―――肉薄していたものに何かが突き立ち大きく吹き飛ばす!
これは、クニアツの霊装の……!?
「大丈夫か?」
すぐそばでクニアツの声に我に返る。
「クニアツお前……」
「心配は……無用だ」
クニアツはそういうが、茨冠の棘が頭部を射抜き出血してしまっているな……。
力の源である角が損失、そこに血が集まり呪印となっている様だ。
代償は大きいらしい……
「やったのか?」
「……どうだろうな」
着弾した地点で茨が猛威を振り、茨の檻ができあがっている。
先ほどもクニアツの霊装であのように直撃させたが……。
サァァァ――……。
と茨が灰に代わッて行く音が聞こえる。
「荒神の黒い焔は霊装の権能を超えるようだ」
ドパァ!
と、灰塵となった茨が霧散し、黒い焔がその奥に除く
「霊装顕現―――《茨茨鏃戈》」
本来、黒弩に番える矢を大槍の様に構えるクニアツ。
すると、左手に持った赤い包みを渡してくる。
「……これは?」
「天上の霊薬だ」
「!? なんでそんなものがここに……ホンモノなの?」
「見ての通りだ。おそらく荒神を圧倒した神格と一緒にいた少年だろうな」
たしかに。クニアツは大きく代償を強いられる固有霊装を限界を超えて顕現させている。
「無理強いしな―――」
「……味わう」
「そんな時間はない。食ったなら覚悟しろッ」
少年からの贈り物を無下にはできない。
食べてから考える。
ドクン、心臓が脈打つ。
全身の細胞が雄たけびを上げたように変成されて―――
「……いかないな」
「は?」
「骸装纏衣で変成……できなくなった」
「……不死性がアダなったといことか」
若干気まずい。
すると、茨縛の檻を灰に変え終え、オーガの膂力で石灰化した残骸を吹き飛ばし迫ってくる。
「くるぞッ!」
「あ、あぁ!」
身業で強化纏衣結界を纏う。
すると、両手だけが鱗に覆われ、神気を纏う。
「おおぅ!?」
「気を散らすな!長達を牽制しろ!」
戸惑いをクニアツの声で戦場に移す。
「すまない」
クニアツがジッと茨の先をにらみつけている。
「あいつは……親父とは俺がケリをつける。執拗に俺たちを追撃してきやがるからな」
最初の襲撃からクニアツを単体で狙ってくる。
親族故か、荒神の盤上の駒を使った遊びなのか。
「まかせよう。スネエモンと合流し陣を立て直す」
沈黙は是、か。
クニアツを見届けると、即座に踵を返し陣頭を取る。
「アネキ!」
サコンが駆けつけてくる。
「長達は?」
「あぁ、巫女達の令呪でなんとか動きを抑えつつ、防衛以外の交戦を控えて撤退できてる。それより……アネキ。周り見えるか?」
「?」
そういわれ周囲を見回す。
なるほど。変だな。
「おかしいねぇ……。アタイ達を無視して無作為に離れていく死霊が多く見える」
「あぁ。撤退戦で交戦を抑えているせいで行軍速度が遅い」
「このまま撤退しても先回りされている可能性があるか……」
「それにまた、地面の揺れが激しい。神格同士の戦闘なんだろうが……読めねぇよ」
「ふむ。とりあえず、スネエモンに合流する」
「クニアツ殿は?」
その時。
後ろで霊装による一撃。轟音が轟く。
「……殿だ」
先の見えない樹海の中を駆ける。
魂を対価にする一撃。命を削る茨冠が額に纏わりつき蝕むと、
オーガの力の源である角に罅がはいる。
これでもう追ってこれないはずだ……。
霊装は広範囲を茨牢獄で覆い、跋扈する死霊を封じる。
牢獄から弾かれた死霊は近づけずにいるか、大きく迂回することになる。
俺たちは巨木を足場に立体的に移動するが、死霊もオーガの祖霊達だ。
周囲の魔物を食らい受肉して得た肉体は歪ながらも本来のオーガより優れた機動をみせる。
疲れもしない。感情もない。
しかも、オーガの古き種族も見受けられ、そも巨躯をものに言わせた進撃を見せる。
スイの縛布霊装さえ使えれば状況を変えられるかもしれないが……。
「ウメナリ! 隷属呪印による呪令を怠るなッ!」
「口を動かす前に、手を動かせ!気負うおなよ!?エンジクニアツ!!」
巫女達による隷属呪印で迂回してきた死霊の動きに制限できるが、
大挙する死霊に僅かな退避の時間を稼ぐことしかできない。
それでも必要な時間だ。これを継続しなんとか合流したい。
戦士たちは近接戦闘をさけ、身業を使わずに魔法術式による正確な魔力配分で死霊の足止めに務める。
「しかし、きりがないなッ……!」
荒神の拘束に一度。
先ほどの進撃を凌ぐのに一度。
オーガの力の象徴である角氏素性の身業――固有霊装。
あと、一度使えば俺は茨冠に頭を射抜かれ、その代償に魂を消失する。
つぎ顕現創造ができるか否か……。
骨氏と角氏の戦士の、巫女による足止め体内魔素が消耗し、撤退もままならくなりつつある。
ウメナリもそれが分かっているのか険しい表情で、損耗を抑え消極的になってしまってる。
しかし、それでは……。
ウコンとサコンが補助に入り、なんとか陣を維持することで回り込む死霊を回避できている。
使うか?
しかし、それは今か?
俺の決断は正しいのか―――。
「若頭。一旦、後方へ下がってください。霊装の準備を」
オーガ四氏族の総長が角氏ではまだ若頭、か
ためらいなく霊装をつかえと進言される。
親父の代から頭の直臣として角氏を支えてくれているスネエモンだ。
まぁ、代わりはいるか。
俺が消えたところで、オーガが潰えてもらっては困るのだ。
失かもしれない国を命一つで、次代へ継承できるなら安いものだろう。
「わかった。総指揮を一旦、委譲する。頼むぞ、スネエモン」
「ハッ。ウメナリ殿にも其の言お伝えしましょう」
拝命の礼をとり、任を淡々とこなしていく。
決断力も器量もあり現実主義者だ。
なんで俺なんだろうな? と不意に頭をよぎる。
「―――今は俺が総長だ。その意味を全うしよう」
後方に護衛と共に下がりながら、誰に言うでもなく零す。
その時だった。
白い光が頭上を駆ける。
見上げるとここら一帯を周回し戻ってきた。
すかさず降り立つと、並走する麒麟と騎乗する少女。
「あ~、すみません。ハーグルムント皇国麒麟遊撃隊のタバサ……」
「長い。ささっと用をいえ」
間髪おかず言い放つ。
むッ、としたものの聞き入れてくれたようだ。
時間が惜しいので、そうでないと困るんだが。
「で、では、手見みじかに。ユリリアートと共にいる少年からこれをあずかっています。うそかほんとか。今回の神征伐の討滅対象の肉片です。スイ? とかいう人に渡したいんですけど……」
「今、スイはいない。この状況下で探し当てるのは難しいだろうな。」
「げぇ!? まじですかッ? いなんだぁ~……」
とへこみ出す。
「どうしたかったんだ?」
「スイって人なら死霊を足止めできるかもしれないって話だったんですぅ……。霊装を扱えるとかで」
スイが霊装を扱える事を知っている?
そのうえで、死霊の大軍まで天上の霊薬である龍の肉片を届けに来た。
ハーマルグントの麒麟遊撃隊も背水の陣ということか……。
「はぁ、手負いでも追い込むことすらできなかったのに……」と、
そうぼやく少女から赤い包みを受け取り中を確認する。
これは……。
強い神気を纏っている。
眩く金色の粒子を湛え、これら一つ一つが霊装に匹敵する魔素量だ。
俺も初めて見るが、嘘ではないようだな。
霊装を扱える事は秘しておきたかったが、知られたなら知られたでやりようはある。
「なんか、ただの白い切り身ですよね」
「そうみえるか?」
首をかしげる少女。
危険を承知でこれを持ってきてくれたのだ。
見逃すことで礼とし、ありがたく受け取るとしよう。
名も顔もしらぬ少年よ。感謝する。
「これは俺が預かろう。スイには渡せないだろうが、意に沿えるだろう。そう上官に伝えると言い」
「ほんとですか!? やっふぅッ♪ じゃぁ、こんなとこ居たくないので、さっさと行きますね!」
「あ、あ。よろしく頼む」
なんとも薄情な挨拶を皮切りに、去っていく少女。
改めて、龍の肉片を見る。
不老不死の恩恵を与えてくれる霊薬。
そういわれているが、確かめられたものなどいない。
ためらいが
道なき暗を切り開くのも長の務めだ。
後は、スネエモンに任せている。
「若頭……」
「後がないのは分かるだろ? 一縷の望みってやつだ。これを口にして何があるか分からない。今すぐスネエモンに合流しろ。命令だ」
険しい表情の二人を前線に返し、一人皆から遠ざかり、開けた場所にでると立ち止まる。
神気が辺りを包み黄金色の光の中、俺はそれを口にした。
よく見覚えのある者と交戦に入る。
灰氏のカゲヨシ様。血氏のムラサキ様。
いまや死霊と化し、その軍勢の戦闘をひた走る。
「哀れなッ……」
死後、考えることも奪われ、同族を打たんと邁進する各氏族の長の成れの果て。
されど、その力に衰えなどなく。荒神の力を付与され脅威となって立ちはだかってくる。
すでに骨氏素性ノ身業。骸装纏衣。
これを用い、外骨格を魔法物質へと生成する変成固有能力。
躯体を硬質な。
もはや別の種族といえる変貌を遂げてなお、両者を押し切れない―――!
突如、乱入する影。
黒焔を纏った剛拳が眼前に迫る……!
瞬時に防衛器官を生成し、拳の間に割り込ませる。
「「アネキッ!!!」」
ウコンとサコンの声を置き去りにし、体が水平に吹きとぶ。
石灰化した木々を幾つも粉砕しながら地面へ衝突する。
瞬時に魔素吸入器官を生成。
大量に魔素を体内に取り込み自己修復力すると、
余剰魔素を身業に回し強化纏衣結界を施す。
地面を蹴り、戦線に復帰するとウコンが地に伏しながらも結界を維持し灰にならんと堪えている。
サコンがそれを庇い、乱入者に肩を砕かれるところだった。
「チッ!!」
爆炎術式を背に生成した排出器官から方向性を持たせて発動する。
無理な発動に体内が焼きただれるのを感じながら、サコンを襲うものを勢いのままに蹴りつける。
お返しとばかりに吹き飛ばすと灰となった地面を抉りながら減速し、
サコンとウコンの下へ戻ると抱えて戦線にいる巫女に預ける。
「ウメナリ様!?」
「私のことはいい! 呪令による牽制を怠るな!」
戸惑いながらも死霊へ呪令を行使していく。
「アネキ……すまねぇ」
「かまわないさ。それより回復に努めな」
骨氏の者は躯体の強化、自己治癒に優れた才を持つものが多い。
サコンやウコンも、骨氏を冠するだけの才を持つ。
「ウコンと頼む」
「あぁ」
背後で乱入者の猛威に悲鳴や、瓦解していく陣の後退する雑踏が聞こえる。
瞬時に駆け出すと打撃の為の杭を打ち出す器官を生成し、
大きく踏み込み―――爆炎術式で打ち出す。
すさまじ轟音と穿たれる地面。しかし―――
「ちッ! 灰にかえやがるねッ」
打ち出した杭が灰なり霧散する。
舞い上がる灰の中、視界を確保しようと後退するも、
ボォッ!!!!
と、灰塵を穿ち肉薄してくる。
「!?」
驚きに、一瞬戸惑ってしまた。
黒い焔を纏った剛拳を再び、見舞われてしまった。
大挙する死霊を足止めするのに大きく展開した巫女の呪令を抜け迫る!
護衛に着いた戦士たちも灰と血の長にくぎ付けになっている―――
反射による防衛器官の生成も間に合わない!?
(クニアツの霊装を受けてまだ……!)
瞬間―――肉薄していたものに何かが突き立ち大きく吹き飛ばす!
これは、クニアツの霊装の……!?
「大丈夫か?」
すぐそばでクニアツの声に我に返る。
「クニアツお前……」
「心配は……無用だ」
クニアツはそういうが、茨冠の棘が頭部を射抜き出血してしまっているな……。
力の源である角が損失、そこに血が集まり呪印となっている様だ。
代償は大きいらしい……
「やったのか?」
「……どうだろうな」
着弾した地点で茨が猛威を振り、茨の檻ができあがっている。
先ほどもクニアツの霊装であのように直撃させたが……。
サァァァ――……。
と茨が灰に代わッて行く音が聞こえる。
「荒神の黒い焔は霊装の権能を超えるようだ」
ドパァ!
と、灰塵となった茨が霧散し、黒い焔がその奥に除く
「霊装顕現―――《茨茨鏃戈》」
本来、黒弩に番える矢を大槍の様に構えるクニアツ。
すると、左手に持った赤い包みを渡してくる。
「……これは?」
「天上の霊薬だ」
「!? なんでそんなものがここに……ホンモノなの?」
「見ての通りだ。おそらく荒神を圧倒した神格と一緒にいた少年だろうな」
たしかに。クニアツは大きく代償を強いられる固有霊装を限界を超えて顕現させている。
「無理強いしな―――」
「……味わう」
「そんな時間はない。食ったなら覚悟しろッ」
少年からの贈り物を無下にはできない。
食べてから考える。
ドクン、心臓が脈打つ。
全身の細胞が雄たけびを上げたように変成されて―――
「……いかないな」
「は?」
「骸装纏衣で変成……できなくなった」
「……不死性がアダなったといことか」
若干気まずい。
すると、茨縛の檻を灰に変え終え、オーガの膂力で石灰化した残骸を吹き飛ばし迫ってくる。
「くるぞッ!」
「あ、あぁ!」
身業で強化纏衣結界を纏う。
すると、両手だけが鱗に覆われ、神気を纏う。
「おおぅ!?」
「気を散らすな!長達を牽制しろ!」
戸惑いをクニアツの声で戦場に移す。
「すまない」
クニアツがジッと茨の先をにらみつけている。
「あいつは……親父とは俺がケリをつける。執拗に俺たちを追撃してきやがるからな」
最初の襲撃からクニアツを単体で狙ってくる。
親族故か、荒神の盤上の駒を使った遊びなのか。
「まかせよう。スネエモンと合流し陣を立て直す」
沈黙は是、か。
クニアツを見届けると、即座に踵を返し陣頭を取る。
「アネキ!」
サコンが駆けつけてくる。
「長達は?」
「あぁ、巫女達の令呪でなんとか動きを抑えつつ、防衛以外の交戦を控えて撤退できてる。それより……アネキ。周り見えるか?」
「?」
そういわれ周囲を見回す。
なるほど。変だな。
「おかしいねぇ……。アタイ達を無視して無作為に離れていく死霊が多く見える」
「あぁ。撤退戦で交戦を抑えているせいで行軍速度が遅い」
「このまま撤退しても先回りされている可能性があるか……」
「それにまた、地面の揺れが激しい。神格同士の戦闘なんだろうが……読めねぇよ」
「ふむ。とりあえず、スネエモンに合流する」
「クニアツ殿は?」
その時。
後ろで霊装による一撃。轟音が轟く。
「……殿だ」
先の見えない樹海の中を駆ける。
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電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?!
あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな?
急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。
さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?!
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レアチート盛りだくさん?!
半ばあたりシリアス
後半ざまぁ。
訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。
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北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前
お腹がすいた時に食べたい食べ物など
思いついた名前とかをもじり、
なんとか、名前決めてます。
***
お名前使用してもいいよ💕っていう
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悪役には使わないようにします、たぶん。
ちょっとオネェだったり、
アレ…だったりする程度です😁
すでに、使用オッケーしてくださった心優しい
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めっちゃ感謝を込めて💕
ありがとうございます💞
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