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10:看破
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ニナのためにスキルを使った時、平然を装っていたが本当は怖かった。スキルを使うことはもちろん、スキルを止めることができるか不安だった。けれど、隣でショックを受けている友人を見せ物にするような二人を許すこともできなかった。
結果的にうまくいって、ちょっとの達成感をエルシーに感じさせてはくれたが、彼女の根本的なスキルへの考えを変えるようなことはなく。
「私は、私のスキルを信じられません……」
話を聞いているうちに、随分体調が良くなってきたライナスは、不安げに揺れるエルシーのグレーの瞳を見て、口を開いた。
「エルシー、今……スキルを使ってくれませんか?」
「……今、ですか?」
エルシーは首を傾げる。今使ったところで、何に役立つのだろう。話をしている間、ずっと重ねられていたライナスの手に力が入る。
「使ってみて」
有無を言わさぬ雰囲気に、エルシーはおずおずと頷き、集中した。心の中で三秒数える。
スキルが発動して、時が止まった。先ほど幼い頃の話をしたせいか、エルシーの手は無意識に震えてしまう。
視線を手元に落とし、震えを止めるために力を入れようとした瞬間、ただ重ねられていたはずの手が指と指を絡めるように繋がれた。
「エルシー」
信じられない気持ちでその光景を見ていたエルシーは、名を呼ばれて顔を上げる。澄み切った青い瞳とぶつかった。
「え……?」
「私のスキルは、他者のスキルを感知するだけではなく、看破する……そういう力です」
「看破……?」
「あのパーティーの時から……もしかしたら、とは思っていましたが。エルシーのスキルは看破したので、もう私には効かない……ということのようですね」
「……殿下は全て見てらっしゃったんですか?」
「えぇ……。実はエルシーだけが動いているのを見ていました」
あの一部始終を見られていたと聞き、エルシーは急に恥ずかしくなる。
「これで、スキルを使っても……エルシーは1人ではありません」
繋がれた手は温かく、手の震えもおさまっていく。
「もしスキルを止めることができなくなったら……私のところへ。力になります」
スキルを使えば、エルシーは誰にも助けを求められなかった。自分だけがずっと頼りで。
「もう、恐れなくていいんです。私を頼ってください」
柔らかく微笑むライナスに、涙がこぼれそうになるのを見せまいとエルシーは顔を伏せ、小さな声でお礼を告げた。そして、集中してスキルを止める。また時間が動き出した。
繋がれていた手が解かれて、なんだか居た堪れない気持ちになったエルシーは、隣の部屋にいるトレイシーにライナスの体調が良くなってきたことを伝えに行こうと立ち上がった。
「ドラン様に、報告してきます。殿下はまだ休んでいてくださいね」
「わかりました」
部屋から出ていくエルシーを途中まで目で追い、ライナスは目を瞑った。
「泣いてくれても良かったのに」
強い意志の宿った瞳、こちらを睨みつけるような瞳、真面目でまっすぐな瞳、不安げな瞳、そして笑顔。きっとまだ自分の知らないエルシーがいる。その全てを見てみたいと思っている自分が案外嫌ではない。ライナスは、わずかに笑みをこぼした。
◇
エルシーが執務室に戻ると、トレイシーが使用人から報告を受けていた。エルシーもライナスの様子を報告し、この後どうするか思案する。そして、今日のことを言い訳に課題をやらないわけにもいかないだろうと、いつも通り資料室でレポート作成に励み、屋敷へ帰宅した。
事の顛末としては、毒を仕込んだ使用人は見つからず、何も解決はしなかった。カーティスが調べにいった調理場からすでに使用人が1人消えてしまっていたのだ。
昼食の準備が終わった後、火の後始末をしていて火傷をし、城下の医者に見せにいくと出ていったという。話を聞いてすぐに追いかけさせたが、途中で足取りが追えなくなった。
大々的に捜索をすることもできたが、皇太子となる可能性が高いライナスが害されたことを広めることになる。それは、同じ城内で過ごす王族はもちろん、貴族たちまでもを混乱させ、事態を悪化させる可能性があるため、信用できる範囲の人員で処理することとなった。
まだ本調子ではないライナスに代わり、トレイシーが中心となって対応に当たっている。
ライナスは執務室の外を眺めながら、これまでの騒動についてじっくりと考えていた。全てが失敗に終わった今、敵方はそろそろ毒では始末できないことに気づいただろう。新しい方法でライナスの命を狙ってくるはずだ。
夕陽が地平線に落ちていく。じわりじわりと、あたりが暗くなっていった。
結果的にうまくいって、ちょっとの達成感をエルシーに感じさせてはくれたが、彼女の根本的なスキルへの考えを変えるようなことはなく。
「私は、私のスキルを信じられません……」
話を聞いているうちに、随分体調が良くなってきたライナスは、不安げに揺れるエルシーのグレーの瞳を見て、口を開いた。
「エルシー、今……スキルを使ってくれませんか?」
「……今、ですか?」
エルシーは首を傾げる。今使ったところで、何に役立つのだろう。話をしている間、ずっと重ねられていたライナスの手に力が入る。
「使ってみて」
有無を言わさぬ雰囲気に、エルシーはおずおずと頷き、集中した。心の中で三秒数える。
スキルが発動して、時が止まった。先ほど幼い頃の話をしたせいか、エルシーの手は無意識に震えてしまう。
視線を手元に落とし、震えを止めるために力を入れようとした瞬間、ただ重ねられていたはずの手が指と指を絡めるように繋がれた。
「エルシー」
信じられない気持ちでその光景を見ていたエルシーは、名を呼ばれて顔を上げる。澄み切った青い瞳とぶつかった。
「え……?」
「私のスキルは、他者のスキルを感知するだけではなく、看破する……そういう力です」
「看破……?」
「あのパーティーの時から……もしかしたら、とは思っていましたが。エルシーのスキルは看破したので、もう私には効かない……ということのようですね」
「……殿下は全て見てらっしゃったんですか?」
「えぇ……。実はエルシーだけが動いているのを見ていました」
あの一部始終を見られていたと聞き、エルシーは急に恥ずかしくなる。
「これで、スキルを使っても……エルシーは1人ではありません」
繋がれた手は温かく、手の震えもおさまっていく。
「もしスキルを止めることができなくなったら……私のところへ。力になります」
スキルを使えば、エルシーは誰にも助けを求められなかった。自分だけがずっと頼りで。
「もう、恐れなくていいんです。私を頼ってください」
柔らかく微笑むライナスに、涙がこぼれそうになるのを見せまいとエルシーは顔を伏せ、小さな声でお礼を告げた。そして、集中してスキルを止める。また時間が動き出した。
繋がれていた手が解かれて、なんだか居た堪れない気持ちになったエルシーは、隣の部屋にいるトレイシーにライナスの体調が良くなってきたことを伝えに行こうと立ち上がった。
「ドラン様に、報告してきます。殿下はまだ休んでいてくださいね」
「わかりました」
部屋から出ていくエルシーを途中まで目で追い、ライナスは目を瞑った。
「泣いてくれても良かったのに」
強い意志の宿った瞳、こちらを睨みつけるような瞳、真面目でまっすぐな瞳、不安げな瞳、そして笑顔。きっとまだ自分の知らないエルシーがいる。その全てを見てみたいと思っている自分が案外嫌ではない。ライナスは、わずかに笑みをこぼした。
◇
エルシーが執務室に戻ると、トレイシーが使用人から報告を受けていた。エルシーもライナスの様子を報告し、この後どうするか思案する。そして、今日のことを言い訳に課題をやらないわけにもいかないだろうと、いつも通り資料室でレポート作成に励み、屋敷へ帰宅した。
事の顛末としては、毒を仕込んだ使用人は見つからず、何も解決はしなかった。カーティスが調べにいった調理場からすでに使用人が1人消えてしまっていたのだ。
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大々的に捜索をすることもできたが、皇太子となる可能性が高いライナスが害されたことを広めることになる。それは、同じ城内で過ごす王族はもちろん、貴族たちまでもを混乱させ、事態を悪化させる可能性があるため、信用できる範囲の人員で処理することとなった。
まだ本調子ではないライナスに代わり、トレイシーが中心となって対応に当たっている。
ライナスは執務室の外を眺めながら、これまでの騒動についてじっくりと考えていた。全てが失敗に終わった今、敵方はそろそろ毒では始末できないことに気づいただろう。新しい方法でライナスの命を狙ってくるはずだ。
夕陽が地平線に落ちていく。じわりじわりと、あたりが暗くなっていった。
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