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その日、神川翔太が目を覚ますと、美少女が翔太の腕をガッチリと抱いたまま、気持ちよさそうに隣にうずくまっていた。
「はぁ……またおれのベッドに忍び込んできてるし……」
小さくため息をついてカーテンを開ける。部屋中を朝日が明るく照らし出した。
翔太は慌てて枕元のスマホを探り、時間を確認する。
「うわ、もうこんな時間……立花、起きて」
「……」
返事がない。
まぶたを閉じているその横顔は、驚くほどにパーツが整っており、肌は透き通るようだ。焦げ茶色の艶やかな髪は、光をあびていっそう輝いている。
「立花純香さーん、聞こえてますか~、
おきてください」
先程よりも大きい声で少女の名前を呼ぶ。
学校に遅刻するわけにはいかないし、このベッドで眠ったままでいられては色々と困るのだ。
「……んぅ……おはよう……翔太」
少女は目をこすりながら夢見心地な声を発した。
「まずは、なぜおれのベッドに忍び込んできたのか聞かせてもらおうか」
「1人で寝るのは嫌いなの」
「うん。 嫌いで済むほど世の中甘くはないんだよね」
「今までは済んできたわ」
いかにもお嬢様な物言いだ。
そう、事実この美少女、立花純香は学校一のお嬢様だった。立花家を家出するまでは。
「とにかく! 朝ごはん用意するから、いい加減おれの腕をはなしてくれ」
純香が思いっきり伸びをする。
しなやかなその体は、華奢ながらもスタイル抜群で、とても高校2年生とは思えない完成度だ。
「立花、このままじゃ遅刻だ。 制服1人で着られるか?」
「んー……たぶん無理」
純香は、大きなあくびをしながら眠たそうに答えた。
「んじゃあ、部屋から制服とってこい、手伝うから」
「うん、わかったわ」
やっとベッドから降りた純香は、寝ぼけた足取りで隣の自分の部屋に戻って行った。
翔太も支度をしようと立ち上がるが……。
「ちょっとお兄ちゃん! なんで純香さんがお兄ちゃんの部屋から出てくるの!」
廊下から妹の神川鈴菜の尖った声が聞こえてきた。
まったく……。面倒な場面を目撃されてしまった。
「お兄ちゃん、女の子を自分のベッドに誘い込むなんて変態のすることだよ!」
大きな声で翔太を非難しながら、ズカズカと部屋に踏み入ってくる。
心外なことに鈴菜は、翔太が純香を誑かしたと勘違いしている。
「いや、べつに誘い込んだ覚えはないんだが……」
「お兄ちゃんがちゃんと注意しないからこうなるんでしょ! 鈴菜はお兄ちゃんが性犯罪者になるのが嫌なんだよぉ」
「まるでおれが夜によからぬ行為をしているみたいな言い方やめてくれます?」
「だって絶対そうじゃーん。中2の鈴菜でもそれくらいわかるよぉ」
「絶対って……おれに弁解の余地はないのね」
「純香さんにやめる気がないなら、鈴菜もお兄ちゃんと一緒に朝を迎えたい!」
「しっかり犯罪に加担するスタイルやめようか!」
「翔太」
2人とも声の主の方を振り向く。
そこには、男子高校生にはだいぶ刺激的な純香の姿があった。
下着だけを身につけ、しわくちゃの制服を抱えてたまま廊下に突っ立っている。
翔太は慌てて視線を逸らしたが、美しくくびれたウエストのラインが脳裏に焼きついてしまった。
「す、すみかさん……な、なななんていう格好してるんですか!」
鈴菜の顔は真っ赤で、手で目を覆い隠している。女同士は、そこまでする必要ない気もする。
とはいえ中学2年生にとっては、この状況はなかなかハードだ。実の兄と、ほぼ裸の女が共演しているシーンなど見たいわけがない。
「純香さん、ちゃんと服着てください!」
「鈴菜、今から翔太が着せてくれるのよ」
傷口に塩を塗るような発言のおかげで、鈴菜は今にも目を剥いて倒れそうだ。
「立花……確かに手伝うとは言ったけど、シャツ羽織るくらいできなかったのか?」
「それは難しいわ。いつもメイドにやってもらっていたもの」
「これからも毎日毎日おれが着せなきゃいけないのかな? 自分でできるようには……」
「翔太、願っても叶わないことはある」
「ですよね……」
純香に、自分だけで着るように指示したことは何回かある。純香自身が、自分でやる、と言い出したこともある。
しかしその度に、ことごとく酷い格好を披露され、結局いつも通り翔太が着せ直す羽目になるのだ。
「純香さんとお兄ちゃんは変態だ……」
鈴菜は部屋の隅っこから純香をじっとにらんでいた。自分の体と、純香の体を交互に観察して、絶望的な顔をしている。
まぁ無理もない。これほど整った容姿の持ち主が相手では、日本中のどの中学2年生にも勝ち目はないだろう。
負けを確信したのか、鈴菜は何やら不吉な言葉を口にしながらトボトボと自分の部屋に引っ込んでいった。
「翔太、あなたの妹は変な人ね」
純香は、鈴菜が消えていった方を見ながら言う。
「そうだな。今おれの目の前にいる誰かさんほどではないと思うぞ」
安全な目のやり場を探しながら翔太は答えた。
「ところで翔太、私はいつまで裸でいればいいの?」
純香は全く悪気のない目で疑問を投げかけてくる。
いったい彼女は、翔太のことをなんだと思っているのだろう。
「翔太、顔赤くなってる?」
「わかったから! 着せてやるから大人しくしてろ! ほら、ワイシャツよこせ」
翔太は、そう言って純香の抱える制服セットを引き受けた。
視線に気を使いながら、ワイシャツからブレザー、靴下まで全部着せてやった。過保護にも程がある。
まだ早朝だというのに、もう常人の1日分は疲労が溜まった気がする。お給料が欲しいくらいだ。なにせこれから3人分の朝ごはんと、弁当まで用意するのだから。
なぜ一般市民と、こんなぶっ飛んだ箱入り娘がひとつ屋根の下で暮らすことになったのか。もちろんこれには理由がある。
遡ること1週間前、事件は起きた。
「はぁ……またおれのベッドに忍び込んできてるし……」
小さくため息をついてカーテンを開ける。部屋中を朝日が明るく照らし出した。
翔太は慌てて枕元のスマホを探り、時間を確認する。
「うわ、もうこんな時間……立花、起きて」
「……」
返事がない。
まぶたを閉じているその横顔は、驚くほどにパーツが整っており、肌は透き通るようだ。焦げ茶色の艶やかな髪は、光をあびていっそう輝いている。
「立花純香さーん、聞こえてますか~、
おきてください」
先程よりも大きい声で少女の名前を呼ぶ。
学校に遅刻するわけにはいかないし、このベッドで眠ったままでいられては色々と困るのだ。
「……んぅ……おはよう……翔太」
少女は目をこすりながら夢見心地な声を発した。
「まずは、なぜおれのベッドに忍び込んできたのか聞かせてもらおうか」
「1人で寝るのは嫌いなの」
「うん。 嫌いで済むほど世の中甘くはないんだよね」
「今までは済んできたわ」
いかにもお嬢様な物言いだ。
そう、事実この美少女、立花純香は学校一のお嬢様だった。立花家を家出するまでは。
「とにかく! 朝ごはん用意するから、いい加減おれの腕をはなしてくれ」
純香が思いっきり伸びをする。
しなやかなその体は、華奢ながらもスタイル抜群で、とても高校2年生とは思えない完成度だ。
「立花、このままじゃ遅刻だ。 制服1人で着られるか?」
「んー……たぶん無理」
純香は、大きなあくびをしながら眠たそうに答えた。
「んじゃあ、部屋から制服とってこい、手伝うから」
「うん、わかったわ」
やっとベッドから降りた純香は、寝ぼけた足取りで隣の自分の部屋に戻って行った。
翔太も支度をしようと立ち上がるが……。
「ちょっとお兄ちゃん! なんで純香さんがお兄ちゃんの部屋から出てくるの!」
廊下から妹の神川鈴菜の尖った声が聞こえてきた。
まったく……。面倒な場面を目撃されてしまった。
「お兄ちゃん、女の子を自分のベッドに誘い込むなんて変態のすることだよ!」
大きな声で翔太を非難しながら、ズカズカと部屋に踏み入ってくる。
心外なことに鈴菜は、翔太が純香を誑かしたと勘違いしている。
「いや、べつに誘い込んだ覚えはないんだが……」
「お兄ちゃんがちゃんと注意しないからこうなるんでしょ! 鈴菜はお兄ちゃんが性犯罪者になるのが嫌なんだよぉ」
「まるでおれが夜によからぬ行為をしているみたいな言い方やめてくれます?」
「だって絶対そうじゃーん。中2の鈴菜でもそれくらいわかるよぉ」
「絶対って……おれに弁解の余地はないのね」
「純香さんにやめる気がないなら、鈴菜もお兄ちゃんと一緒に朝を迎えたい!」
「しっかり犯罪に加担するスタイルやめようか!」
「翔太」
2人とも声の主の方を振り向く。
そこには、男子高校生にはだいぶ刺激的な純香の姿があった。
下着だけを身につけ、しわくちゃの制服を抱えてたまま廊下に突っ立っている。
翔太は慌てて視線を逸らしたが、美しくくびれたウエストのラインが脳裏に焼きついてしまった。
「す、すみかさん……な、なななんていう格好してるんですか!」
鈴菜の顔は真っ赤で、手で目を覆い隠している。女同士は、そこまでする必要ない気もする。
とはいえ中学2年生にとっては、この状況はなかなかハードだ。実の兄と、ほぼ裸の女が共演しているシーンなど見たいわけがない。
「純香さん、ちゃんと服着てください!」
「鈴菜、今から翔太が着せてくれるのよ」
傷口に塩を塗るような発言のおかげで、鈴菜は今にも目を剥いて倒れそうだ。
「立花……確かに手伝うとは言ったけど、シャツ羽織るくらいできなかったのか?」
「それは難しいわ。いつもメイドにやってもらっていたもの」
「これからも毎日毎日おれが着せなきゃいけないのかな? 自分でできるようには……」
「翔太、願っても叶わないことはある」
「ですよね……」
純香に、自分だけで着るように指示したことは何回かある。純香自身が、自分でやる、と言い出したこともある。
しかしその度に、ことごとく酷い格好を披露され、結局いつも通り翔太が着せ直す羽目になるのだ。
「純香さんとお兄ちゃんは変態だ……」
鈴菜は部屋の隅っこから純香をじっとにらんでいた。自分の体と、純香の体を交互に観察して、絶望的な顔をしている。
まぁ無理もない。これほど整った容姿の持ち主が相手では、日本中のどの中学2年生にも勝ち目はないだろう。
負けを確信したのか、鈴菜は何やら不吉な言葉を口にしながらトボトボと自分の部屋に引っ込んでいった。
「翔太、あなたの妹は変な人ね」
純香は、鈴菜が消えていった方を見ながら言う。
「そうだな。今おれの目の前にいる誰かさんほどではないと思うぞ」
安全な目のやり場を探しながら翔太は答えた。
「ところで翔太、私はいつまで裸でいればいいの?」
純香は全く悪気のない目で疑問を投げかけてくる。
いったい彼女は、翔太のことをなんだと思っているのだろう。
「翔太、顔赤くなってる?」
「わかったから! 着せてやるから大人しくしてろ! ほら、ワイシャツよこせ」
翔太は、そう言って純香の抱える制服セットを引き受けた。
視線に気を使いながら、ワイシャツからブレザー、靴下まで全部着せてやった。過保護にも程がある。
まだ早朝だというのに、もう常人の1日分は疲労が溜まった気がする。お給料が欲しいくらいだ。なにせこれから3人分の朝ごはんと、弁当まで用意するのだから。
なぜ一般市民と、こんなぶっ飛んだ箱入り娘がひとつ屋根の下で暮らすことになったのか。もちろんこれには理由がある。
遡ること1週間前、事件は起きた。
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