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第二章『祝福の病』

伊達政宗、妻を助けるのは伊達じゃない その壱

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 妻を助ける。まずはこれが目標だ。妻がアヘン中毒者なら、アヘンについて学ぶことが第一条件だ。ホームズから、麻薬のことも教わった。そもそもホームズ自身が麻薬中毒者だから、その点に関してはくわしいのだろう。麻薬の作り方まで図解で説明されてしまった......。
 余談だが、ホームズが住む世界は前世の俺が住む世界とは異なっていた。話しを聞いていく内に、異世界は前世の世界より生活水準が高いことがわかったのだ。ホームズの年代である1800年代後半らへんなのに、前世の世界よりはるかに進んだ文明を誇っていたから驚いた。というのも、ホームズの愛車は自動運転が出来ると言っていた(笑)。
 話しを本筋に戻そう。アヘンをくわしく知ることが大事だ。俺は『ホームズの住む世界(これからは、異世界、などと呼ぶことにしよう)』でのアヘンを、ホームズから伝聞した。その伝聞したことを事細かく記した帳面があるわけだが、それを丁寧に読み解いていった。結果から言おう。愛姫はアヘン中毒者ではないかもしれない。症状が微妙に異なるし、監視していてもアヘンを使った様子はなかった。すると、愛姫の病が何かが不明だということだ。症状から推理はしてみたが、愛姫の症状にピッタリ符合する病気は考えられない。そこで行き詰まった。
 ため息をもらして肩を落とすと、小十郎が扉を叩いた。扉まで歩き、顔を出す。「何用だ?」
「よう、名坂」
「どうした?」
「愛姫の件で悩んでいるみたいだな」
「ああ......」
 小十郎はニヤリ、と白い歯をき出しにした。「本人に直接聞いてみたらどうなんだ?」
「本人に?」
「恥ずかしいか?」
 愛姫本人には、嫌われている気がする。それなのに、話しかけて良いのか......複雑な心境だ。
 でも、愛姫みたいな美女が、まさかアヘンみたいなことはしない(はず)。アヘンは馬鹿な奴がやることだ。鎮痛剤として使われることはあるし、世界の役に立っていないとは言えないが、中毒者は駄目だ。
「いいんじゃないか? 愛姫は名坂の正室だろ?」
 その言葉で踏ん切りが付き、俺は愛姫の元へ向かった。
「愛姫!」
「どうしましたか?」
「ん、ちょっと話そうと思ったんだ」
 俺は床に腰を下ろして、あぐらを掻いた。
「体の体調が悪いんだろ。医者に診せよう」
 愛姫がアヘン中毒者ではない(かもしれない)とわかったから、医者に診せても問題ない。
「私は医者が好きではないのです」
「けどさぁ、医者に診せないと治る病も治んないぜ!?」
「大丈夫です」
「って言っても、医者行こうぜ」
 愛姫は何度か首を左右に振った。振り方が少し可愛らしいのは、気品な仕草しぐさだからかな?
「そういえば、あの香りがする植物を詰め込んだ小瓶はどうだった?」
「はい。一応、身につけて携帯してます」
「香りはあるか? 香りがなくなってきたら小瓶にまた詰めてやるよ」
 愛姫に差し出された小瓶を受け取り、香りを確かめた。すると、おかしな香りを感じた。中を覗き込み、目を凝らした。小瓶の中には驚くべきものが入っていた。俺は小瓶を握りしめ、口をへの字に曲げて部屋を飛び出した。
 自室の床に小瓶をぶち落とし、何回も踏みつけた。小瓶は割れて、中からは植物が出てきた。出てきた植物の中には、愛姫の人格をも変えてしまった悪魔の実であるケシ坊主が入っていた。
 近くにある書物を手に取り、真っ二つに手で切り裂く。破れた書物をくしゃくしゃに丸めて部屋の隅に投げ、床に正座した。目を閉じると、口を開いて、こう叫んだ。
「あああぁぁぁ───────────────」
 その声を耳にした成実は、誰よりも早く俺の元に駆けつけてきた。
「どうされました、若様!」
 成実が見た俺は、憔悴しょうすいしていたのだと思う。仕方がない。愛姫がアヘンを所持していたとなると、頭が痛くなってくる。それに、俺は前世の記憶を持っているから現代社会の常識的なこともあって『麻薬=悪』と認識している。その分、戦国時代の者より麻薬への偏見が激しい。
 目からあふれ出す涙を拭い取り、成実の方を見た。
「問題ない。気にするな」
「本当に問題ないのですか?」
「俺はいつも元気だ」
「私が何か出来ることはありますか?」
 成実にやらせてもいいこと。何があるか考え、お茶を持ってくるように命じた。成実は急いでお茶を用意し、俺の元まで運んできた。そのお茶を飲み干すと、愛姫が携帯していたケシ坊主が気になった。
 床で散っている小瓶を眺め、植物をまじまじと見る。ケシ坊主以外にも、俺が入れていない植物などがたくさん詰まっている。薬学書を開き、薬草の図鑑のページまでめくって、この植物は何なのか調べた。しかし、薬草書には載っていない植物のようだ。後で輝宗に、もっと薬草の図鑑などの調達を頼んでおこう。家臣の中で薬草とか植物にくわしい奴もいるかもしれないから、あいつらにも確認しておいて損はないな。
 俺は未知の植物を慎重に本の間に挟み、床に置いた。しおりにすれば植物は原型をとどめられるし、水分を抜くために一日は放置か。
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